『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

下新庄さくら園:大阪府「ふれあいリビング」整備事業の第一号として

先日、大阪市東淀川区にある「下新庄さくら園」という場所(コミュニティ・カフェ)を訪問しました。

「下新庄さくら園」は大阪府による「ふれあいリビング」整備事業の第一号として2000年5月15日にオープンした場所。月曜〜金曜の9時〜16時まで運営されており、コーヒー、トーストなどの飲物、軽食が100円で提供。コミュニティ・カフェが各地に開かれ始めたのが2000年頃であることを考えると、「下新庄さくら園」もコミュニティ・カフェのパイオニアの1つだと言ってよいと思います。
「ふれあいリビング」とは、「高齢者の生活圏、徒歩圏で、「普段からのふれあい」の活動があれば、高齢でも元気で、お互い元気かどうか確認できて、何かあったら助け合うこともできるのではないか」(注1)という考えに基づいて、あらかじめ予定を立て鍵を借りてから利用する集会所と異なり、気軽に訪れることのできる「協働生活の場」を作るというもの。具体的には府営住宅の集会所などを活用して、喫茶のためのスペースをもつ場所を開くことが行われており、集会所などの改修にかかる費用は大阪府が負担。オープン後の運営は府営住宅の自治会など住民が担っています。

大阪府のウェブサイトによると、2010年度末の時点で26の府営住宅で「ふれあいリビング」が運営されており、上に書いた通り「下新庄さくら園」はその第一号として開かれた場所。「ふれあいリビング」は喫茶のためのスペースをもつ場所と書きましたが、これは第一号の「下新庄さくら園」で喫茶が好評だったから。当初、大阪府からは喫茶を中心にして運営することが提案されていましたが、オープンまでの住民を交えた話し合いで100円のコーヒーの売上げだけでは運営を維持するのが難しいという話に。そこで、「喫茶コーナー」だけではなく、食事会や趣味のサークル活動、会議などに利用できる「だんらんコーナー」、食事サービスやイベント時の料理づくりなどに利用できる「厨房」がもうけられ、「だんらんコーナー」と「厨房」を貸すことによって運営経費を賄うことが考えられました。しかし運営が始まると喫茶が予想していた以上に好評であったため、「下新庄さくら園」の経験をふまえ、「ふれあいリビング」は(大阪府亜当初提案していた通り)喫茶を中心とする場所として定着したという経緯があります。

「ふれあいリビング」には「モデルタイプ」、「改修タイプ」の2種類があります。

  • モデルタイプ:集会所とは別に新築された建物で「ふれあいリビング」を開くもの。2000年〜2001年に開かれた「下新庄さくら園」を含む3つの府営住宅の「ふれあいリビング」がモデルタイプとなっている
  • 改修タイプ:集会所の一部を改修して「ふれあいリビング」を開くもので、2005年以降に開かれた全ての「ふれあいリビング」が改修タイプとなっている

「下新庄さくら園」は学生の頃から調査などでお世話になっていた場所ですが、大学を卒業してからは関西に住んでいないため、あまり訪問することができず、先日の訪問は約4年半ぶりの訪問となりました。
「下新庄さくら園」のある府営下新庄鉄筋住宅は中層5階建ての10棟からなる団地でしたが、高層の2棟への建替えも完了。管轄も大阪府から大阪市へと移されており、市営下新庄4丁目住宅という名前になっていました。
団地の建替えにあたっては「下新庄さくら園」を残して欲しいと住民が大阪府に依頼し、「下新庄さくら園」を残すように住棟配置が計画されたと伺っていました。建物の前は、以前伺っていた通り、ベンチのあるポケットパークが実現されていました。

2000年のオープン当初から代表をつとめておられたWさんという女性は既に亡くなられたことを伺いました。現在、中心になっているKさんはWさんと団地の活動、「下新庄さくら園」の運営などをずっと共にされてきた方。Kさんの話では、団地で亡くなった人も多いし、来訪者も以前に比べると少なくなった。運営は大変だけど… ということでしたが、以前と変わらず月曜〜金曜の9時〜16時まで運営を継続しているとのこと。
この日やって来られた高齢の男性は「ここに来るから色んな人と話できるけど、家にいたらテレビ見てるだけ」という話もしており、「下新庄さくら園」は今でも「普段からのふれあい」という当初の目的通りの場所になっていることが伺えました。
以前から行っている毎月1回の「ぜんざいの日」も続けられており、団地だけでなく周りの人にも知れ渡っているという話。テーブルの上に綺麗な花がいけられていることからも、この場所が大切にされていることを伺うことができます。

Wさんからは、毎日運営するから意味があること、ボランティアと来訪者は対等であること、団地内だけでなく地域に開かれた場所にすること、訪れた人の要望に応えて運営していけば活動の幅がどんどん広がってきたことなど、多くのことを聞かせていただきました。「下新庄さくら園」を運営するにあたっての「「2人、大将はいらん」、「地域の財産」という言葉は今でも思い出します。

「私、思ってることね、「2人、大将はいらん」いうこと、・・・・・・。ここやり出したらあの子に喫茶を任せる。そしたら、私が口出ししない。2人が口出しするとね、迷うでしょ。・・・・・・。私ずっとそんなんですから、「よきにはからえ」いう感じだから。だから、任せてしまうっていうような感じ」

「私らの信念だけど、地域の財産としてかたちを作っていくっていうのが。私らが、それをまずやらないけんっていうことに。だから、今日のボランティアさんも、お1人は地域の、こっちの団地じゃない方ですわ」

コミュニティ・カフェなど地域の場所において、ボランティアで運営したり、きちんとした組織がないと運営に継続性がないと指摘されることがありますが、少なくとも「下新庄さくら園」はボランティアによって、団地の自治会から独立した任意団体というかたちで17年弱にわたる運営が続けられています。
目指すべき姿が明確になっており、地域に大切にされている場所であれば、ボランティアであるとか、任意団体であるとかには関わりなく運営は継続されるのだということ。久し振りに「下新庄さくら園」を訪れて、まずそのようなことを感じました。


(注1)・植茶恭子, 広沢真佐子(2001)「大阪府コレクティブハウジングの取組み」・『財団ニュース』高齢者住宅財団, Vol.45, 2001年11月