『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

スイスのロレックス・ラーニングセンター:開かれた学びの場

少し前になりますが、スイスの連邦工科大学ローザンヌ校 (EPFL=Swiss Federal Institute of Technology in Lausanne)のキャンパス内にあるロレックス・ラーニングセンター(Rolex Lerning Center/2010年竣工)を訪問しました。建築は妹島和世・西沢立衛によるSANAAの設計です。

ローザンヌの中心部にあるLausanne Flon駅からメトロで約15分で、最寄のEPFL駅に到着。EPFL駅のすぐ南側はキャンパスの校舎が並んでおり、歩いて数分するとロレックス・ラーニングセンターに到着します。

ロレックス・ラーニングセンターは2階ほどの高さの建物ですが、床は水平ではなく、それがそのままファサードにも現れています。うねるような空間という言葉が思い浮かびました。水平の床があって、柱がって、天井があって。このような従来の建物に対するイメージが打ち砕かれます。(ブラインドが用いられていますが)ガラス張りであるため屋外から中の様子が、屋内から外の様子も伺えます。

屋外は天井が高い部分は人が歩けるようになっています。長方形の平面のところどころに丸い光庭があります。光庭を中心に、移動させることのできるテーブル・椅子が置かれており話をしている人、食事をしている人を見かけました。ベビーカーに乗せた子どもを連れた夫婦も座って食事をしている人も。1階部分には自転車置き場もあり、自転車で通り過ぎていく人もいました。

建物内へは受付やゲートがなく自由に出入りすることが可能。図書の並ぶエリアには管理のためゲートが設けられていました。
壁のないワンルームの建物内には円形のテーブルが並んだエリア、カフェ、レストラン、図書館、四角いテーブルが並んだ静かに作業するエリア、ガラス張りのブース、そして、斜面のスペースなど多様なコーナーがあります。
訪問した時、テーブルには学生と思われる人が座っており、円形のテーブルはほぼ埋まっていました。ほとんどの人がノートパソコンで作業しています。ロレックス・ラーニングセンターは学生だけでなく一般の人にも開放されており、ソファに座って新聞を読んでいる高齢の男性も見かけました。

床が斜面になっているエリアにはクッションが置かれて座ったり、寝転んだりできるようになっています。丘のある公園にいるような雰囲気。ここで学習している学生も。ゲームをしている男の子たちも見かけました。ただし、斜面になっている一部は柵がされており立入禁止とされています。

ロレックス・ラーニングセンターではSMSに送られてくるコートで登録することで、無料でWiFiを利用することも可能。

ロレックス・ラーニングセンターを訪れ、従来の図書館という枠組みにはとらわれない豊かな場所になっていると感じました。特に次の点が興味深かったです。

○多様な利用の仕方、過ごし方に開かれていること
本の貸し出しをするコーナー、静かに学習・作業するコーナーもあるが、これ以外にも多くのテーブル、椅子が置かれていた。また、斜面になっている部分ではクッションに座ったり、床に座ったりできるようになっている。また、カフェ、レストランもある。1人で学習する、グループで議論する、本を借りるといった多様な過ごし方が、丸いテーブル、四角いテーブル、ソファ、床に置かれたクッションなど多様なしつらえによって許容されている。

○多様な人に対して開かれていること
入口には受付やゲートがないため、自由に出入りすることができる。大学関係者以外でも自由に出入りすることができ、実際に高齢の男性が新聞を読んだり、子どもがゲームをしている光景を見かけた。また、WiFiも無料で提供されている。これらにより多様な人に対して開かれた学習の場所になっている。

なお、ロレックス・ラーニングセンターの西側には隈研吾設計のArt Laboが、北側にはドミニク・ペロー設計のメカニクス・ホールがあります。