『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

団地における「北入り」と「南入り」住棟のペア(NSペア)配置

団地の住棟の配置方法は、大きく「囲み型配置」と「平行配置」の2つに分けることができます。

千里ニュータウンでは、府営住宅(B棟)で「囲み型配置」が採用されましたが、大阪府は、公団の団地(C棟)も囲み型配置をすることを望んでいました。

ところが、当時の公団の団地では「平行配置」が基本とされていました。「平行配置」は東西に細長い住棟を平行に配置するもので、これによって全ての住戸を南面させ、日照を確保できるという長所があります。南側に部屋を確保するため、階段室の入口は北側に設けられれますが、これによって全ての住棟へは北側から入ることになるため、隣り合う住棟の人々が接触する機会が少なくなるという短所があります。

そこで、千里ニュータウンの公団の団地で考え出されたのが、北側に階段室のある「北入りタイプ」の住棟と、南側に階段室のある「南入りタイプ」の住棟をペアにして配置することで、「平行配置」でありながら、隣り合う住棟の人々が接触する機会を生み出すという工夫です(NSペア)。これは、千里ニュータウンで最初に開発された公団の団地である千里津雲台団地から採用されています。

左側は「北入りタイプ」の住棟のみを配置した場合。全て人が住棟の北側からアクセスすることになります。

これに対して、右側は「南入りタイプ」と「北入りタイプ」の住棟をペアにして配置した場合。北側に配置された「南入りタイプ」の住棟に住む人は住棟の南側から、一方、南側に配置された「北入りタイプ」の住棟に住む人は住棟の北側からアクセスすることになります。このように、隣り合う住棟の人が同じ道を通ってアクセスすることになります。

UR千里青山台団地。「北入りタイプ」の住棟のみが平行配置されています。

UR新千里西町団地。「南入りタイプ」と「北入りタイプ」の住棟がペアにして配置されています。

住棟の配置だけで、居住者同士の関係が良好になるとは言い切れません。「北入りタイプ」の住棟のみの場合と、「南入りタイプ」と「北入りタイプ」の住棟がペアにする場合のどちらが良いかも一概には言えません。
しかし、陽当たりの良い南側の一部を部屋にできないという短所を承知の上で、あえて「南入りタイプ」の住棟が採用されたということは、戦後日本の住宅史に刻まれるべきことだと考えています。

(更新:2022年4月25日)

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