シンガポールのニュータウンにおけるコミュニティ・カフェ(まちの居場所)

写真はシンガポールのブキ・バトック(Bukit Batok)というニュータウン。ここに、Ibasho Caféをモデルにした高齢者が運営に携わるリーチ・コミュニティ・カフェという場所(まちの居場所)が開かれています。

Ibasho Caféは、ワシントンDCの非営利法人・Ibashoが以下の8理念を実現する場所として提案しているもので、東日本大震災の被災地である岩手県大船渡市ではIbasho Cafeの考えに基づき「居場所ハウスが開かれました。

Ibashoの8理念

  • 高齢者が知恵と経験を活かすこと (Elder Wisdom)
  • あくまでも「ふつう」を実現すること(Normalcy)
  • 地域の人たちがオーナーになること(Community Ownership)
  • 地域の文化や伝統の魅力を発見すること(Culturally Appropriate)
  • 様々な経歴・能力をもつ人たちが力を発揮できること(De-marginalization)
  • あらゆる世代がつながりながら学び合うこと(Multi-generational)
  • ずっと続いていくこと(Resilience)
  • 完全を求めないこと(Embracing Imperfection)

ブキ・バトックのリーチ・コミュニティ・カフェは、「居場所ハウス」も参考にしており、実際にシンガポールの保健省・環境省の大臣らも視察に来られました(ただし、ブキ・バトックのコミュニティ・カフェはワシントンDCのIbashoのプロジェクトではなく、Ibasho Caféの考え方を参考にしたものです)。


リーチ・コミュニティ・カフェは、独居の高齢者や社会的孤立の危険のある高齢者などに対して、友人を作ったり、共に飲食を楽しんだりする機会を提供することを目的として、2017年10月6日にオープン。Ibasho Caféの考えのように、高齢者が単にサービスを受ける存在になるのでなく、運営側に立つことが目指されています。
記事によると、リーチ・コミュニティ・カフェは次のような特徴があります。

  • 運営日時は毎週金曜の9〜12時
  • 高齢者がボランティアで運営に携わる(高齢者は5チームに別れて運営を担当。1チームは5〜7人の高齢者で構成)
  • 昼食が提供。メニューはコーヒー、お茶、スープ、パイなど(メニューはチームごとに異なる)
  • メニューの値段は定められておらず、自分が払いたい金額を支払う(お気持ち料)の仕組み
  • 慈善団体のReachが運営するユース・パワーハウス(住所:Block 417, Bukit Batok West Avenue 4)で運営
  • 保健省の「City for All Ages」とReachからの資金を受ける

リーチ・コミュニティ・カフェと同時に、地域の5つのカフェでは、毎週金曜の10〜18時まで、60歳以上の高齢者に対する割引が、試験的に半年間行われてます。


ブキ・バトックの開発は1975年12月にスタート。1983年には最初のHDBの住宅ブロックが完成しています。2015年時点の人口は139,270人。面積は11.13㎢、人口密度は12.513人/㎢。シンガポールにおいて、人口は12番目、人口密度は11番目、面責は25番目のニュータウンとなっています(*Wikipediaの「Bukit Batok」の項目より)。
参考までに千里ニュータウンの2015年の人口は97,156人(上新田を除く)で、面積は11.6㎢。人口密度は8,375人/㎢となり、ブキ・バトックの方が高密度で計画されていることがわかります。

写真はブキ・バトックの街並み。リーチ・コミュニティ・カフェが運営されている日に訪問することはできませんでしたが、リーチ・コミュニティ・カフェは店舗、食堂が集まる、千里ニュータウンでいう近隣センターのような場所で開かれていることがわかりました。この意味で、直接的に参考にされたわけではありませんが、リーチ・コミュニティ・カフェは千里ニュータウン新千里東町の「ひがしまち街角広場」に似ているような気がしました。

「ひがしまち街角広場」は2001年9月にオープンしたコミュニティ・カフェ(まちの居場所)で、次のような特徴があります。

  • 運営日時は週6日(日曜と第3土曜)の11〜16時
  • 高齢者がボランティアで運営に携わる
  • コーヒー、紅茶などの飲み物だけが提供。食事は提供されていないが、持ち込み可
  • 飲み物は「お気持ち料」100円で提供
  • 近隣センターの空き店舗を活用して運営
  • 建設省(現・国交省)の「歩いて暮らせる街づくり事業」と、それを受けた豊中市の社会実験がきっかけ。半年間の社会実験後は、行政からの資金援助を一切受けない「自主運営」がなされている

千里ニュータウンへの入居開始は1962年で、「ひがしまち街角広場」のオープンは2001年。
ブキ・バトックへの入居開始は1983年で、千里ニュータウンの21年後。そして、リーチ・コミュニティ・カフェのオープンは2017年と16年後。こうして時間差を持ちながら、ニュータウンで同じようなコミュニティ・カフェが開かれているのは非常に興味深いことです。

シンガポールというとIT先進国、アジアのビジネスの中心というイメージがありますが、同時に高齢化も(日本と同様)進んでおりHDBの団地/ニュータウンにおける高齢化にどう対応するかは切実な課題とされています。この課題に対して、保健省の大臣が進める対応策が、「ひがしまち街角広場」のような場所であるということ。保健省の大臣によると、リーチ・コミュニティ・カフェのような場所をあと2つ、オープンさせる計画があるとのことです。
「ひがしまち街角広場」の意義は何か? イベントではなく日常的に人々が気軽に立ち寄れる場所をどうやって成立させるのか? についての情報は切実に必要とされており、これは千里ニュータウンがアジア各国(世界)に向けて情報発信していけることの1つであり、千里ニュータウンが世界のニュータウンとつながりを持つためのきっかけだと考えています。


ブキ・バトックを歩いていると、団地の住棟の間の広場にフィットネス・ハブ(Family Hub)、ファミリー・ハブ(Family Hub)という場所を見かけました。いずれも保健省の大臣の手により、2017年に作られたような場所で、健康器具を始め、ベンチ、バーベキューの場所、テニスコート、遊具などが設置されていました。
これらの動きからも、シンガポールにおけるHDBのニュータウン/団地における高齢化対策が切実なものとして取り組まれていることが伺えます。


※参考