『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

完成した建物の利用者ではないこと@フィリピンとネパール

専門家が計画、設計、施工し、建物が完成する。人々はその建物を利用し始めたり、その建物で住み始めたりする。建物を作るプロセスを考える時、当たり前のようにこう考えてしまうことがあります。けれども、建物はこうした当たり前が揺さぶられる光景を見かけることがあります。

ここ数年、フィリピン、ネパールを訪問する機会が何度かありましたが、写真はフィリピン、ネパールで時々見かける光景です。

鉄筋コンクリート造(RC造)の建物ですが、下層階では既に利用・入居が始まっています。そして、上階に増築できるよう(増築部分のジョイントのために)柱の上に鉄筋が突き出されたかたちになっています。
この建物は完成しているのか、未完成なのか。既に利用・入居が始まっているという意味では未完成とは言えませんが、いずれ上階部分が増築される可能性があるという意味では、未完成だとも言えます。
こうした建築について、同行したある方から、お金が貯まったら増築するためだという話を聞きました。

マタティルタ村の女性グループの建物

もう1つ紹介するのは、Ibashoプロジェクトが行われているネパールのマタティルタ(Matatirtha)村にある女性グループ(Mahila Samuha)の建物。これまで何度かミーティング、ワークショップを開いたことのある建物です。

この建物を最初に訪れたのは2016年2月。この時点では既に躯体は完成していましたが、壁はまだレンガが積み上げられただけの状態でした。その後、訪問する度に建物は変化し、壁がペンキで塗装され、格子の扉・窓がつけられ、電気が使えるようになっていきました。そして、2018年12月に訪問した時には2階部分への増築が進められていました。
完成した部分から利用が始まるという点では、上で紹介したい靴化の建物と同様です。

マタティルタ村の女性グループの建物がさらに興味深いのは、専門の業者ではなく、女性グループのメンバーが自分たちでレンガを積んだり、塗装したりして作りあげてきた建物だということ。女性グループのメンバーが自分たちで建てた建物として、自治体(Municipality)内では最大規模のものだと伺いました。まさに、手作りの建物です。


「社会の変化や人口の成長に合わせて有機的に成長する都市や建築を提案」するメタボリズムという建築運動があります。ここで紹介した建物は、建築運動としてのメタボリズムとは無関係ですが、メタボリズムが目指した建物のあり方の具体例だとも言えます。

こうした建物は、建物に関わる専門家/非専門家、あるいは、計画者・設計者・施工者/利用者という当たり前のようになされる分類を越えたもの。そこで人々は、完成した建物の利用者という枠組みには収まりきらない存在になっています。

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