『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

香港の荃湾ニュータウンの光景

香港では、1960年代後半から1970年代にかけて「ニュータウン」(new town)という言葉が正式に採用され、これまでに9つのニュータウンが開発されてきました。
ヨーロッパ文化センター・イタリア「Time Space Existence」における香港中文大学(CUHK)のグループによる展示「「ニュー」ニュー・タウン」を見た後、いくつかの香港のニュータウンを歩く機会がありました。少し歩いただけのため表面的な印象に過ぎませんが、香港のニュータウンで見た光景をご紹介したいと思います。

荃湾ニュータウン

荃湾(Tsuen Wan)は1959年からサテライト・タウン(satellite town)としての開発が始められました*1)。ニュータウンが自己完結(self-contained)のコミュニティであるのに対して、サテライト・タウンは都市(母都市)の機能の一部を担う都市。1961年、香港政府は荃湾(Tsuen Wan)を、隣接する葵涌(Kwai Chung)、青衣(Tsing Yi)に拡大することを決定。その後、1970年代になって、第1期のニュータウンとして開発されることになります。

荃湾ニュータウンは面積が3,285ha、計画人口が84万5千人と非常に規模の大きなニュータウンです*2)。

荃湾

荃湾駅は、MTR(Mass Transit Railway)荃湾線の終点で、香港島の中環(Central)駅から約30分の位置にあります。
駅の改札は2階レベルにあり、改札から2階レベルでペデストリアンデッキ(高架型の歩道)が続いているため、車にあわずに移動することができます。

(荃湾駅から続くペデストリアンデッキ)

荃湾駅から続くペデストリアンデッキを北に歩いて、ショッピングモールを通り抜けると高層の住宅(Luk Yeung Sun Chuen)が建ち並ぶエリアに。住棟の平面は十字型と特徴的な形をしています。住棟の間は車の通らない空間になっています。

(Luk Yeung Sun Chuen)

駅の南にある青山公路という大きな通りを南に渡ると、駅の北側とは風景が一変。中層・高層の建物が密集して建ち並んでいます。駅の北側に比べるとゴチャゴチャした印象を受けますが、様々な店舗が並んでおり、歩いて楽しいエリアです。

(青山公路と楊屋道の間のエリア)

南に歩くと楊屋道という大きな通りに出ます。楊屋道に沿ったところにマーケット(楊屋道街市/Yeung Uk Road Market)があります。

(楊屋道街市(Yeung Uk Road Market))

荃湾西

楊屋道を南に渡ると風景が一変します。巨大なショッピングモール(Citywalk 2)、ホテル(Nina Hotel Tsuen Wan West)があり、向こうに高層の住棟が建ち並んでいるのが見えます。ショッピングモール、ホテルの南には荃湾公園があり、そのまま海岸まで歩くことができます。

(楊屋道)

(荃湾公園)

海岸は遊歩道が整備。船着場の屋根があるところには男性が集まっているのを見かけました。中には釣りをしている人も。対岸には青衣(Tsing Yi)の高層住宅が建ち並んでいます。

(海岸沿いの風景)

対岸の青衣から荃湾の方向を眺めると、集合住宅やホテルなど高層の建物がびっしりと建ち並んでいるのがわかります。

(青衣からの風景)

海岸沿いのショッピングモール(OP Mall)の地下には、MTR屯馬線の荃湾西(Tsuen Wan West)駅があります。荃湾西駅は、九龍半島の先端にある尖東(East Tsim Sha Tsui)駅から約15分の位置にあります。

青衣

MTRの青衣(Tsing Yi)駅は、東涌線(Tung Chung Line)の駅で、香港(Hong Kong)駅から15分の位置にあります。荃湾ニュータウンに含まれますが、荃湾と海を隔てており、荃湾駅や荃湾西駅からはMTRを乗り換えて移動することになります。対岸の荃湾西駅付近から青衣を見ると、高層の住棟が建ち並んでいることがわかります。

(荃湾西からの風景)

MTRの青衣駅に直結して巨大なモールがあります。モールを通り抜けて海岸へ。対岸と同じように、海岸は遊歩道が整備。所々にベンチが置かれたり、遊具がおかれたコーナーがもうけられたりしています。歩いている人、ランニングしている人、子どもを遊ばせている人などを見かけました。

(海岸沿いの風景)

青衣駅から、青衣駅から青衣北岸公路を北にわたると、「Y字型」の平面をもつ高層のスターハウスが建ち並ぶエリア(長安邸)に出ます。高層のスターハウスの住棟間は、車の入ってこない広場になっています。

(高層のスターハウス)

興味深かったのは、青衣駅のモールや、長安邸の北西にあるバスターミナル・モールなどが、高架の屋根付きの歩行者専用道路によってつなげられていること。これによって、歩行者は車にあうことなく移動することができます。このような歩車分離の仕組みが、あるエリアで築かれているのを見ると、ここが計画的に作られた街であることを感じます。

(高架の歩行者専用道路)

(歩行者専用道路は高層のスターハウスの中を通り抜けている)

青衣駅の南西には、青衣公園という大きな公園があります。公園の南側にはバスケットボール、テニス、サッカーのコート。公園の北側は高低差があり、展望台がもうけられています。

(青衣公園)


■注

  • 1)この記事の香港のニュータウンの歴史について、特に明記していないものは、ヨーロッパ文化センター・イタリア「Time Space Existence」における香港中文大学(CUHK)のグループによる展示「“New” New Town」、Wikipedia「New towns of Hong Kong」を参照している。
  • 2)面積と人口は、ヨーロッパ文化センター・イタリア「Time Space Existence」における香港中文大学(CUHK)のグループによる展示「”New” New Town」を参照している。

(更新:2023年12月15日)

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