『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

パブリック・パークレット:サンフランシスコ発祥のパブリックな場所②

サンフランシスコにはパークレット(Parklet)と呼ばれる場所があります。歩道に隣接する道をパブリックな場所とするもので、地域の中小企業、コミュニティ団体、学校、住民などコミュニティの人々や団体がスポンサーとなり設置、維持管理されるものです(パークレットの概要はこちらをご覧ください)。

DataSFのウェブサイトにパークレットに関するデータが公開されています*1)。
データによれば、2019年5月時点で、サンフランシスコに存在するパークレットは50。地図をみると、パークレットはサンフランシスコ内に広く広く分布していることがわかります。申請者(Applicant)は50のうち37ヶ所が飲食店(カフェ、レストラン、ベーカリー、ピザ屋など)、4ヶ所が食料品店(マーケット、フード・ストアなど)、3ヶ所がミュージアム/ギャラリー、6ヶ所がその他(自転車屋、地域組織、住民、建築業者、建築家/アーティスト)となっています*2)。

*地図は「DataSf」に掲載の「Parklet Permits」(2019年5月4日更新)のデータをもとに作成

実際に訪れたパークレットを紹介する前に、基本となる事項をいくつかご紹介します。
1つはパークレットのしつらえに関すること。サンフランシスコ市が発行する『パークレット・マニュアル』によると、パークレットは床部分のプラットフォーム(Platform)、境界に設置される囲い(Enclosure)、テーブル、椅子、植栽などのアメニティ(Amenities)の3つから構成されるとされています*3)。アメニティとして設置されるテーブルや椅子などの家具は作り付けのもの、移動させることができるものの両方が見られます。

もう1つはスポンサーになるカフェやレストランとの関係に関わること。カフェやレストランなど飲食店の前にパークレットが設置される場合、写真のように歩道を挟んだ店側にもテーブルが置かれていることがあります。座れる場所になっているという点で両者は同じ機能を果たしていますが、両者は性質の異なる場所であることには注意が必要です。
店側に置かれたテーブルは店の屋外席で、ここでは店員が食事をサーブすることが可能です。一方、パークレットでは店員が食事をサーブすることはできず、利用者自身でテイクアウトして飲食する必要があります。また、屋外席はテーブルのセッティングをすることができますが、パークレットは許可されていません。このルールにも、パークレットがパブリックな場所であることが現れています(詳細はこちらの記事の「パークレット設置後のスポンサーの役割」を参照)。

ミッション地区(Mission District)

パークレットを最も多く見ることのできるエリアがミッション地区です。特に地区を南北に走るValencia Stにパークレットが集中しています。

375 Valencia St

Four Barrel Coffeeの前にあるパークレット。パークレットは細長く、テーブル・椅子のある部分が2つに分かれており、その間に自転車を立て掛けるスペースがもうけられています。
Four Barrel Coffeeはサードウェーブコーヒーのカフェとして有名で、店内ではいつも多くの人が過ごしています。パークレットでもコーヒーを飲みながら話をしたり、ノートパソコンを開いて作業をしたりするなど、多くの人が過ごしているのを見かけました。

411 Valencia St

Samovar Tea Barの前にあるパークレット。金属製の囲いの中にカウンター、作り付けの椅子、プラスチック製の椅子が置かれています。このパークレットでも話をしたり、ノートパソコンで作業したりする人を見かけました。

443 Valencia St

Venga Empanadasというカフェの前のパークレット。オレンジ色の囲いが目立ちます。囲いの中にプラスチックの椅子を並べシンプルなスペースで、車道側と北側の囲いの上部には植栽がなされています。

740 Valencia St

Dandelion Chocolateの前のパークレット。細長いパークレットにはカウンター席、ベンチがもうけられており、上部には電球が吊り下げられています。
Dandelion Chocolateは有名なチョコレート店で、店内はいつも混雑しています。店内にはカフェのコーナーがあり、テイクアウトした飲物をパークレットで飲んでいる人もいました。その他、店内で買い物するのを待つ人、話をする人、ノートパソコンで作業をする人など、多くの人を見かけました。

937 Valencia St

カフェなどの飲食店の前に設置されたパークレットが多い中で、このパークレットはサンフランシスコで唯一、住宅の前にもうけられたパークレットだということです*4)。
パークレットは「Deepistan National Parklet」という名前がつけられており、植栽がなされており、通りに緑の景観を生み出しています。植栽で囲まれた部分にベンチがあります。掲示によると、このパークレットは2011年6月に設置されたとのこと。掲示には英語、中国語、日本語など8の言語で「くつろいで・楽しんで・そして気配りも忘れずに」とも書かれていました。
パークレットの南側は自転車の駐輪スペースになっています。駐輪スペース前にはXanath Ice Creamというアイスクリーム屋があり、自転車を固定する部分がソフトクリームの形にデザインされています。

988 Valencia St

Blu Figというカフェの前のパークレット。Blu Figは閉店したようですが、パークレットは残されています。
パークレットは細長く、椅子が置かれています。囲いの上には植栽。訪れた時には、椅子に座っている人、雑貨を売っている人を見かけました。
ここはパークレットの専門家である「rg-architectur」によって作られた場所で、組み立てユニット方式のため、容易に分解できるようということです*4)。

1026 Valencia St

Ritual Coffee Roastersの前にあるパークレットで、細長いプラットフォーム上に木製のベンチが設置。
Ritual Coffee Roastersもサードウェーブコーヒーのカフェとして有名で、店内ではいつも多くの人が過ごしています。パークレットでもコーヒーを飲みながら話をしたり、ノートパソコンを開いて作業したり、本を読んだりと、多くの人が過ごしているのを見かけました。

3318 22nd St

Luna Rienne Galleryの前のパークレットで、カラフルな囲いが特徴。サンフランシスコで唯一、作品の巡回展示を開くパークレットとされています*4)。

ノイバレー(Noe Valley)

ミッション地区の南西にあるノイバレーには、メインの通りである24th Stに2つのパークレットがあります。

3868 24th St

Martha & Brothers Coffee Companyの前のパークレット。細長いパークレットにはテーブル、椅子が並んでいます。夕方、訪れた時には多くの人が飲食していました。
なお、DataSFのウェブサイトに掲載されているデータには*1)、Noe Valley Associationという地域組織が申請者(Applicant)として記載されていますが、ここはNoe Valley AssociationとMartha & Brothers Coffee Companyが共にスポンサーになっているようです。次に紹介する3982 24th Stのパークレットとは姉妹パークレット(Sister Parklet)だとのこと*4)。

3982 24th St

Just for Fun & Scribbledoodlesという玩具屋の前にもうけられたパークレット。細長いプラットフォーム上にテーブル、ベンチが置かれていますが、植栽が歩道からの目隠しになっており落ち着いて過ごせるようになっている印象を受けました。訪れた時には1人でノートパソコンで作業をしている人、1人で座っている人を見かけました。
このパークレットも申請者はNoe Valley Associationですが、Noe Valley AssociationとJust for Fun & Scribbledoodlesが共にスポンサーになっているようです。Just for Fun & Scribbledoodlesでは年間を通して、パークレットで子ども向けのイベントを開催しているとのことです*4)。

ディビザデロ・ストリート(Divisadero St)

アラモ・スクエア・パーク(Alamo Square Park)の1本西を南北に走るディビザデロ・ストリート(Divisadero St)にいくつかのパークレットがあります。

736 Divisadero St

The Millという有名なカフェの前のパークレット。訪れた時には、グループで、1人で過ごしている人を見かけました。
The MillではFour Barrel Coffeeのコーヒーが出されており、パークレットの申請者(Applicant)もFour Barrel Coffeeになっています。ベンチのある部分が2つに分かれており、その間に駐輪スペースがあるというデザインは、ミッション地区のFour Barrel Coffeeの前にあるパークレット(375 Valencia St)と共通しています。

ヘイト・アシュベリー(Haight-Ashbury)

ゴールデン・ゲート・パークの西側に位置し、ヒッピー発祥の地であるヘイト・アシュベリーには、メインのヘイト・ストリート(Haight St)に1つ、パークレットがあります。

1530 Haight St

Haight Street Marketの前のパークレット。囲いの中にベンチが置かれており、訪れた時には何人かが過ごしているのを見かけました。

サンセット地区(Sunset District)

ゴールデン・ゲート・パークの南に広がる住宅地、サンセット地区にはいくつかのパークレットがあります。

3930 Judah St

MUNIメトロのNラインが走るJudah Stにあるパークレット。Other Avenues Grocery Cooperativeと Sea Breeze Caféの前にある細長いパークレットで、木製の作り付けのベンチと植栽がデザインされています。

4001 Judah St

Judah Stと45th Aveの交差点の南西にあるOuterLands Cafeの前のパークレット。木製のベンチがデザインされています。

4033 Judah St

Judah StのTrouble Coffeeの前のパークレット。Trouble Coffeeのオーナーが集めた流木が使われており、「陸と海を結びつけ、人々を結びつける難破船のようになる」ことを目的として設置されたということです*4)。
訪れた時には話をしている人、1人で座っている人、ノートパソコンで作業をしている人などを見かけました。

3876 Noreiga St

サンセット地区の中央を東西に走るNoriega StにあるDevil’s Teeth Baking Companyというベーカリー/カフェ前のパークレット。
木製の「V」字型のベンチを組み合わせたデザインは、多様な利用者に対応することが考えられたものだとのこと*4)。訪れた時はカップル、小さな子どもを連れた女性が過ごしているのを見かけました。

パシフィック・ハイツ(Pacific Heights)

ジャパンタウンの少し北にあるパシフィック・ハイツには、南北に走るカリフォルニア・ストリート(California St)に2つのパークレットがあります。

2410 California St

Pizzeria Delfinaの前のパークレット。細長いプラットフォーム上に、凹凸のある作り付けのベンチがデザインされ、一部のエリアにはテーブルが置かれています。飲物を飲みながら話をしている人、1人で過ごしている人を見かけました。

ノーブヒル(Nob Hill)

ノーブヒルには、南北に走るポーク・ストリート(Polk St)にいくつかのパークレットがあります。

2001 Polk St

Cheese Plusというチーズを中心にサンドイッチ、パンなどを販売するお店の前のパークレット。木製の囲いと、その上の植栽は、車道との緩衝帯となっています。作り付けのベンチが設置されており、上部には日除け。
店の壁際にも屋外席がもうけられており、屋外席、パークレットいずれにも話をしたり、1人で過ごしたりしている人がいました。

コロンバス・アベニュー(Columbus Ave)

サンフランシスコの北部を斜めに走るコロンバス・アベニュー付近にいくつかのパークレットがあります。

200 Columbus Ave

Reveille Coffee Companyの前のパークレット。通りが坂になっているため、高低差をいかしたデザインとなっており、プラットフォームに段差がもうけられています。訪れた時にはノートパソコンで作業をしている人、話をしている人を見かけました。

423 Columbus Ave

Caffe Grecoの前の細長いパークレットで、丸いテーブルが置かれています。パークレットに置かれた丸いテーブルは、カフェの前に並んでいるのと同じテーブルのようです。テーブルの間には、3本のカラフルなパラソル。
サンフランシスコ市で最も古いパークレットの1つで、通りに座るヨーロッパのカフェ文化というワクワクするアイディアを実現したものだとされています*4)。


サンフランシスコで実際に訪れたパークレットを紹介しました。実際に訪れて、パークレットには次のような特徴があることが明らかとなりました。

■形態について

  • パークレットとして転用する自動車の駐車レーンの数によって、細長いパークレット、四角いパークレットがあるが、細長いパークレット(複数台分の駐車レーンを利用)の方が多い。
  • 囲いの中に作り付けのテーブル・ベンチを設置している場所もあれば、移動させることのできるテーブル・ベンチを置いている場所もあるなど家具は様々。
  • テーブル・ベンチに加えて、アメニティーとして植栽、照明が置かれたり、自転車の駐輪スペースをもうけたりする場所もある。
  • 背の高い囲いをつけたり、植栽をもうけたりすることでパークレットと車道の緩衝帯にしている場所がある。

■利用者について

  • (例えばミッション地区の場合はFourbarrel Coffee、Ritual Coffee Roasters、Dandelion Chocolateのように)有名な飲食店前のパークレットには、多くの人が過ごしている。
  • 平日より、週末の方が利用している人が多い。
  • 1人、2人で過ごしている人が多い。パークレットは大きな空間ではないため大人数での利用は見られず、1グループの最大人数は約6~7人。
  • テイクアウトしたものを飲食したり、話をしたりするほか、1人の人はノートパソコンで作業をしたり、本を読んだりしている人を見かけた。ノートパソコンで作業をしている人がいたことには印象が残っている。

このように多くの人が、多様な過ごし方をしていることからも、パークレットは通りに魅力を与える重要な場所になっていることが伺えます。


注・参考

  • 1)「DataSf」に掲載の「Parklet Permits」(2019年5月4日更新)のデータ
  • 2)DataSFのデータには申請者(Applicant)の業種に関する情報が記載されていないため、業種は現地訪問、及び、ウェブサイトで確認した。なお、申請者とは書類を提出した主体であり、申請者として名前が記載されている以外にもスポンサーになっている可能性がある。例えば、申請者の業種が「その他」のパークレットの中には、飲食店の前に設置されている場所があるなど、パークレットの前の店舗の業種は、必ずしも申請者の業種と一致していない。そのため、パークレットの向かいにある店舗の業種の割合は、申請者よりも飲食店の割合が大きいと思われる
  • 3)『San Francisco Parklet Manual』(Version 3.0), Fall 2018
  • 4)Tracy Elsen「Mapping All 43 Awesome San Francisco Public Parklets」April 15, 2014
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