『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

地域活動に対する調査の作法

あるNPO法人の方から相談を受けました。ある研究グループからインタビュー調査を受けることになったけど、このグループは「ちゃんとしたグループなのですか?」「真正面からすべて答えるべきなのですか?」とのこと。この調査に対して不安・不審を抱いておられるとのこと。

経緯は以下の通りのようです。
最初に研究グループより、調査依頼のメールが届いたとのこと。依頼書には調査としてアンケートとインタビューを行うことと、結果は報告書・論文・書籍として報告予定であること等が記載されていました。
NPO法人はこれを承諾し、インタビュー調査の日程を決定。しばらくすると(インタビュー調査の前に)調査にあたっての「注意事項」とアンケート調査の用紙がメールで送付されてきたとのことです。

アンケート調査にはNPO法人がこれまでに受けた補助金・助成金を全て記入してくださいという項目もあったとのこと。
また、「注意事項」には調査にあたっての注意事項(インタビューは録音すること、結果は報告書・論文・書籍として報告予定であること、その際NPO法人名を記載する可能性があること等)が書かれており、同意していただけたら署名をお願いしますと書かれていたようです。

●実際にまだ会ったこともないにも関わらず、一方的にアンケート調査を送りつけてきて、しかもそこにはNPO法人の内情を問うような項目もあり失礼ではないか?

●調査の依頼方法も一方的で、趣旨に同意したら署名してくださいというのもおかしいのではないか?

このような話をされていました。

話を伺って、この研究グループには、調査相手に対する配慮、調査を気持ちよく行うための作法が抜け落ちているということを強く感じました。
確かにインタビュー調査の前にアンケート調査をしておけば、インタビュー調査も効率的に行えます。また、調査や結果報告において、万が一揉め元が生じても、署名をとっておけば文句は言われません。ただ、これはいずれも調査を実施する側の都合に過ぎません。
調査に協力するNPO法人の方には気持ちよく調査を受けていただきたい。そして、不信感を抱きながら回答するのと、気持ちよく回答するのとでは、インタビュー調査での発言も変わってくるはず。それは結果として、調査を実施する側にとっても損失となります。

この相談を受けた後、ウェブサイトを確認しました。ウェブサイトを見るとこの研究グループは怪しいわけではなさそうでしたが、NPO法人の方には調査への協力は義務ではないので、話したくない情報は話さなくてもよいと思います、とお伝えしました。

なお、このNPO法人には今回とは別に、いきなりアンケート調査用紙が送られてきたり、いきなりやって来た学生がアンケート調査結果を置いていって配布・回収を依頼されたりしたことがあったようで、研究調査に対する不信感があったのかもしれません。


学術的な研究には射程の長いものもあるため、必ずしも即効性が期待されるわけではありません。ただ、調査を受ける方は「この調査に協力することによって、私たちにはどんなメリットがあるんですか?」という問いを投げかけてもよいと思います。こういう問いが投げかけられた場合、調査者は納得してもらえように答える必要があると思います。

地域活動に対する調査の作法。1人ひとりがこれを自覚していかないと、調査が信頼されなくなり、結果として調査という行為自体を行うことが難しくなる。
調査とは守るべき公共的な行為である。このことは常に心がけておかねばならないことだと思います。

*追記
記事に対して「 調査は、求められもしないのに相手の家に土足で上がらこむようなもの。それでも行わせていただくのは、そこから得られた知見が何らかの形で社会にとって有用なものとなるとの想いからです」というコメントをいただきました。
コメントにあるように「調査は、求められもしないのに相手の家に土足で上がらこむようなもの」。こうした強引な側面があるからこそ、結果として、普通では出会えない方と出会い、おつきあいさせていただくきっかけになる場合があるのだと思います。
今、研究者が色々な方のご好意で受け入れていただいているのは、「研究とは社会のために行うものだ」という認識が広く共有されているから。こうした認識が共有されている状態は、次の世代へと継承していかねばならないと思います。
焼き畑農業のような調査をするのではなく、少なくとも調査結果は何らかの形でお返しすること。そして、さらに情報を記録したり編集したりという研究者が得意なことをいかしたお返しのかたちもあると思います。

(更新:2015年7月26日)