『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

バルセロナにおけるスーパーブロック・プロジェクトと「21世紀の街路」

スーパーブロック

スペインのバルセロナでは、スーパーブロック(Superblocks/Superilles)と呼ばれる興味深いプロジェクトが進められています。
スーパーブロックは、①より安全、より健康的な、②社会的関係を醸成する、③地元の商業に貢献する、④子どもや高齢者のニーズを中心に据えたパブリック・スペースのある都市モデルを構築することを目的とするプロジェクト*1)。具体的には、交差点や車道という車のための空間を、人(歩行者)のためのパブリックな場所に置き換えていくことが行われており、どのような場所を作るのかを議論したり、デザインしたりするプロセスには近隣住民や商店主、各種組織などが参加しています。

(交差点だった場所に作られた広場(square))

スーパーブロックは2013年に最初のパイロット地区が選定されて以降*2)、これまで6ヶ所で実施されてきました*3)。

スーパーブロックのモデル

スーパーブロックに優先的に取り組む行政区として位置づけられているのが、バルセロナの拡張地区(新市街)に位置するアシャンプラ地区(Eixample)。アシャンプラ地区はバルセロナの中心部で、建築家のアントニ・ガウディ(Antoni Gaudí i Cornet:1852~1926年)が設計したサグラダ・ファミリア、カサ・バトリョ、カサ・ミラなどもアシャンプラ地区にあります。この地区がスーパーブロックに優先的に取り組む地区とされている理由として、大気汚染が進んでいること、通過交通が多いこと、プロジェクトが他の行政区に波及するポテンシャルを持っていることがあげられています*4)。

バルセロナの拡張地区(新市街)は、都市計画家のイルデフォンソ・セルダ(Ildefons Cerdà i Sunyer:1815~1876年)の計画(セルダ計画)に基づいて作られています。133.33m × 133.33mの正方形(3 × 3で400m × 400の正方形)を並べたグリッドによって構成。ブロックの間には20mの街路(歩道5m+車道10m+歩道5m)がとられており、街路を除いたブロックのサイズは113.33m × 113.33m。さらにブロックは隅が切り取られた八角形になっています*5)。


 

(八角形のブロックが並ぶアシャンプラ地区)

スーパーブロックは、9つのブロック(400m × 400m)を1つの大きなブロック、即ち、スーパーブロックと見立てます。公共交通や通過交通はスーパーブロックの外周にあたる街路を通り、内部の街路は住民の車、公共サービスや緊急車両に限定。内部の街路は、時速10kmに制限された1車線とし、生み出された空間にベンチを置いたり、植栽を植えたりすることで人(歩行者)のための場所を作ります。さらに、スーパーブロック内部のかつて交差点だった場所は、車線を十字に交差させず、距離をおいてすれ違うようにすることで、面積が約2,000m2の広場(Square)を作り出します*6)。


 

 

 

(スーパーブロックへの入口の標識、時速10kmに制限することが記載されている)

スーパーブロックの光景

いくつかのスーパーブロックをご紹介します*7)。

サン・アントニ・スーパーブロック

アシャンプラ地区に位置するサン・アントニ・スーパーブロック(Superilla de Sant Antoni)では、サン・アントニ市場の東の交差点(Carrer de TamaritとC. del Comte Borrellの交差点)、及び、ここから2ブロック南東にある交差点(C. del ParlamentとitとC. del Comte Borrellの交差点)の2ヶ所に広場(Square)が作られています。

サン・アントニ市場の東に作られた広場(Square)。かつて交差点だった場所には植栽がされ、ベンチが置かれています。角にはキオスク(売店)。スーパーブロックのことを知らなければ、ここがかつて交差点だったとは想像できません。

(サン・アントニ市場の東の広場(Square))

(広場(Square)の隅に通された車道)

アシャンプラ地区の街路は幅が20mで、そのうち、中央部分の10mが2車線の車道になっています。これに対して広場(Square)の周りの街路は車線が1車線とされ、生み出された空間には植栽がされ、ベンチが置かれています。飲食店の屋外席もあります。既存の街路と交差する部分も三角形の広場になっており、ここにも植栽がされ、ベンチが置かれています。
時速は10kmに制限。車ではなく人(歩行者)が優先されており、実際、車道部分を歩いている人を何人も見かけました。街路全体が公園のようになっているように感じました。


 

 

 

 

(広場(Square)の周りの街路)

南東側の広場(Square)、及び、周りの街路には、ベンチと花壇を組み合わせた黄色い木製のファーニチャーがしつらえられています。

(サン・アントニ市場の南東の広場(Square))


 

 

(広場(Square)の隅に通された車道)

 

 

 

 

(広場(Square)の周りの街路)

緑の軸線

サン・アントニ・スーパーブロックで作られた2つの広場(Square)を結ぶ街路(C. del Comte Borrell)は、2022年にバルセロナで4本目の緑の軸線(Green axis)に指定されました*8)。

緑の軸線(Green axis)に指定された街路は、次のように整備されることになります。

□緑の軸線はどのようなものになるか。

  • 路面と歩道の段差をなくし、縁石のない舗装(kerbless paving)により社会的利用(social use)を促進する。
  • 歩行者が優先で、自動車は時速10kmに制限される。
  • アスファルトが廃止され、市の典型的なパノット舗装のブロックと御影石(panot paving blocks and granite)に置き換えられる。
  • 緑が10倍になる。現在、これらの街路〔緑の軸線に指定された4本の街路〕に占める緑の割合は1%だが、平均で14%に増加する。
  • 〔緑の軸線に指定された4本の街路で〕新たに438本の樹木が植えられ、街路の下層土(subsoil)が肥沃になる。
  • 〔緑の軸線に指定された4本の街路で〕ベンチ、シート、子ども用の器具(benches, seats, children’s games)など新たな1,000点のファーニチャーと、新たな照明が設置される。
  • 地元の商業をバックアップする。荷物の積み下ろしは、特定の時間帯に許可される。

※バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona)の「The new squares and green axes in Eixample will look like this」のページに記載内容の翻訳。〔 〕内は翻訳者による補足。

この説明からは、スーパーブロック内で整備された街路を、都市全体に延長するようなかたちで整備されると考えることができます。2022年11月に訪問した時点で、C. del Comte Borrellのグランヴィア(Gran Via de les Corts Catalanes)の北側で工事が行われているのを見かけました。

(工事が行われているC. del Comte Borrell)

ポブレノウ・スーパーブロック

サン・マルティ(Sant Martí)という行政区では、ポブレノウ・スーパーブロック(Superilla del Poblenou)のプロジェクトが行われています。ポブレノウ・スーパーブロックでは隣接する2つの交差点(北西側のC/ de Sancho de ÁvilaとCarrer de la Ciutat de Granadaの交差点、南東側のC/ dels AlmogàversとCarrer de la Ciutat de Granadaの交差点)に広場(Square)が作られています。

北西側の広場(Square)には、子どもの遊び場が作られています。サン・アントニ・スーパーブロックのところでも書きましたが、スーパーブロックのことを知らなければ、ここがかつて交差点だったとは想像できません。


 

(北西側の広場(Square))

 
南東側の広場(Square)は、中央部分は何も置かれていない空間になっています。この広場(Square)に隣接する街路には、80mのトラックが作られていました。

(南東側の広場(Square))

(80mのトラックが作られた街路)

2つの広場(Square)の周りの街路にはベンチが置かれたり、植栽がされたりしているほか、卓球台が置かれているのも見かけました。ポブレノウ・スーパーブロックでは、全体的に花のような白い模様が描かれた黒い鉢によって植栽がされています。

(広場(Square)の周りの街路)

サン・マルティ・グリーンハブ

サン・マルティ地区(Sant Martí)では、スーパーブロックのプロジェクトにより、2030年には3本に1本の街路が歩行者のために作り直される予定です。その拠点となる街路がグリーンハブ(Green hub)と呼ばれており、現在、5つのハブが完成、または、計画されています*9)。その1つが、アルモガバルス・ハブ(Almogàvers Hub)で、2021年10月に最初の区画が完成。上で紹介したスーパーブロックと同じ方法で、交差点だった場所が広場(Square)に変えられました(C/ dels AlmogàversとCarrer de Zamoraの交差点)。広場(Square)には、大きな円形の花壇が作られています。

(アルモガバルス・ハブに作られた広場(Square))

(広場(Square)の隅に通された車道)


 

(広場(Square)の周りの道路)

21世紀の街路

バルセロナにおけるスーパーブロック・プロジェクトは、現在、バルセロナ市全体に緑の軸線(Green axis)、グリーンハブ(Green hub)を広げていくという新たなステージに入っています*10)。ここでバルセロナ市が掲げているのが21世紀の街路(21st-century streets)というコンセプト。21世紀の街路は次のような特徴をもつと説明されています。

■21世紀の街路

  • □街路の暮らし:市民の優先利用
    :どの街路でも、歩行、休憩、社交に関わらず歩行者に絶対的な優先権がある。自動車はゲストである。例外的な場合、車は時速10kmで走行可能で、コーナーで曲がる必要があるため直進できない。
  • □アスファルトの路面は過去のものとなり、ファサードからファサードまで同じ高さの街路に
    :グリーンハブは、バリアや仕切りのない同じ高さレベルの街路になる。現在のような舗装と路面の間の高低差はなくなり、街路の空間全体が社会的利用と人のために充てられる。アスファルトはなくなり、主な舗装は、新たな耐性の要件を満たすように改良されたパノット(セメントタイル)になる。バルセロナにおいて、既に縁石(kerbs)として使われている高貴な素材である御影石は、歴史的な建物や施設、ユニークな場所を示すために使われる。
  • □緑の爆発的な増加:1%から10%以上へ
    :現在の街路の表面に占める緑の割合はわずか1%である。将来の街路ではは少なくとも10%以上が緑となり、樹木がランドスケープにおいてより大きな役割を果たすことになる。バルセロナ・スーパーブロック・プロジェクトで作られる21のハブには、新たに4,000本もの樹木が植えられる。樹木は、街路の中心部分に植えられるため、より背が高く、より葉を茂らせることができるようになる。
  • □新たな環境インフラと肥沃な下層土
    :街路は、持続可能性、効率性、自給自足に取り組む環境インフラになる。そのためには、車の通行に関連付けられた圧縮された透水性のない下層土から、緑や樹木の生長や水の循環を促進する透水性のある肥沃な下層土に切り替える必要がある。下層土は、樹木の根が張るスペースが増えて、より肥沃で、生物多様性に富んだ空間になる。緑を植えるために、6~7mと2~3.5mの2つの新たな植物-下層土エリア(plant-subsoil areas)が作られる。2つの細長い区画は、日射量を最大限確保するために非対称に配置される。雨水管理については、全く管理しないモデルから、30%管理するモデルへと移行する。植栽エリアに水を溜め、浸透と保持がされるようにする。また、太陽光発電システムを導入し、太陽光を活用してグリーンハブにおけるエネルギーの自給自足を促進する(エネルギーは照明など街路での消費に利用される)。
  • □誰もがアクセスできる街路
    :ルーター、ボタン、信号機、歩道標識など、あらゆる人が散策や憩いの場として利用できる100%アクセス可能な街路とする。現在の歩道に加え、中央部に新たな歩道を設置する。新たなグリーンハブは、緊急サービスや消防隊、廃棄物収集や清掃サービスなどの通路を確保し、ニーズに応える。加えて、それぞれの区画に必要なゴミコンテナを統合し、新たな清掃契約において承認された新たなゴミコンテナモデルを取り入れ、より低く、影響力と視覚的なバリアを低減させる。荷物の積み下ろしは、時間管理やアプリの利用により、全てのエリアで許可される。
  • □新たな雰囲気を生み出す新たな照明システム
    :車が通行するための照明から、ヒューマンスケールの照明に移行する。街灯の高さを低くし、街路の中心部に配置することで、社会的な利用を促進するための新たな照明システムを構築する。
  • □社会的利用を促進する新たなファーニチャー
    :街路での生活や地域住民の活動を促進するために、都市型のファーニチャーを設置する。ベンチ、噴水、プレイエリア、さらにはテーブルなどをより多く設置する。目的は、街路の社会的利用を促進することである。一部のファーニチャーを移動可能(モバイル)なものにするかどうかの調査も行う予定である。それぞれの区画に休憩スペースや子どもの遊び場も設置する予定である。
  • □地元商業の振興
    :新たなモデルは、同じ高さの舗装や、車線が生み出すバリアの排除によりファサードからファサードまでの商業生活を生み出すことで、また、荷物の積み下ろしを確実に行うための特定の時間帯を設定することで、地域経済の活性化にも貢献する。最近の調査やサン・アントニ・スーパーブロックの経験から、交通の円滑化が住民の歩行や地元での買い物を促進することが実証されている。サン・アントニ市場とサン・アントニ・スーパーブロックが正式にオープンした2018年には、サン・アントニのショッピングエリアへの訪問者数が16%増加して、年間で6,400万人に達した。

※バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona)の「This is what 21st-century streets will be like」のページに記載内容の翻訳。


バルセロナのスーパーブロックをご紹介しました。交差点だった場所に広場(Square)を作ること自体も興味深いですが、さらに、バルセロナ市全体で21世紀型の街路を整備するという取り組みも興味深いです。都市を、車から人(歩行者)の手に取り戻すというのは、このようなことを言うのだと教えられました。
スーパーブロック・プロジェクトは、地下鉄(Metro)の駅構内や街路の掲示でも案内されており、力が入れられているプロジェクトであることが伺えます。
 

(地下鉄の駅構内の掲示)

(緑の軸線を案内する掲示)

スーパーブロックという考え方は、例えば、ラドバーン方式など、ニュータウンや郊外住宅地などの計画住宅地を建設する際にも採用されることがあります。この場合は、外周道路に通過交通を通すことで、スーパーブロック内で歩車分離を実現するというもので、バルセロナのスーパーブロックと共通しています。
ラドバーンは、田園都市(ガーデンシティ)の考えに触発されて作られたアメリカの郊外住宅地。バルセロナのスーパーブロックは、イルデフォンソ・セルダが田園都市(ガーデンシティ)として提案したグリッドに基づくものでした。この意味で、バルセロナのスーパーブロックは、田園都市(ガーデンシティ)の考え方が、現在においてどのような意味を持つのかの可能性を示しているように感じました。


■注

  • 1)「SUPERBLOCK BARCELONA: Towards the city we want」バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona), January 2021より。
  • 2)バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona)の「Superilla de La Maternitat i Sant Ramon」のページより。
  • 3)バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona)の「Superilles」のページ中の「ACTIONS BY DISTRICT」には、これまで実施されたスーパーブロックとして以下の6ヶ所が掲載されている。Superilla de La Maternitat i Sant Ramon(2013年)、Superilla d’Hostafrancs(2014年)、 Superilla d’Horta(2016年)、Superilla del Poblenou(2016年)、Superilles a Sant Antoni(2017年)※、Green hubs in Sant Martí(2021年)。また、今後計画されているスーパーブロックとして以下の7ヶ所が掲載されている。Superilla de Consell de Cent-Germanetes※、Superilla de Girona i entorns※、Superilla de la Sagrada Família※、Superilla del Fort Pienc※、Superilla de Sant Gervasi – la Bonanova、Superilla del Camp d’en Grassot i Gràcia Nova、Superilla de la Sagrera Sud – Navas Sud(2022年11月24日確認)。なお、※をつけたものは、以下で紹介するアシャンプラ地区(Eixample)に位置する。
  • 4)「SUPERBLOCK BARCELONA: Towards the city we want」バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona), January 2021より。
  • 5)丹下敏明(1980)は、セルダ計画は、産業勃興によって発生した都市問題を解決するために提案されたもので、「グリッド内は両端にだけ十六メートルの軒高の建設を許し、その他を緑地とするという一種の田園都市案である」と指摘している。さらに、イルデフォンソ・セルダの理論が記された『都市計画の一般論理』(1876年刊行)は、エベネザー・ハワードが田園都市を論じた『明日:改革への平和な道』(1898年刊行)よりも31年も早く刊行されていることも指摘している。ただし、実際はセルダ計画の4.5倍もの高密度で建設されることになり、このことについて丹下敏明(1980)は「田園都市は、超過密都市化してしまった」と指摘している。
  • 6)バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona)の以下の資料より。「Urban Mobility Plan of Barcelona PMU 2013-2018 October 2014、「LET’S FILL STREETS WITH LIFE: Establishing Superblocks in BarcelonaMay 2016、「MODEL EIX VERD: El nou carrer del segle XXI」July 2021。
  • 7)以下はセルダ計画に基づいて開発されたグリッド状のエリアにおけるスーパーブロックを紹介しているが、他のエリアでもスーパーブロックのプロジェクトは行われている。
  • 8)バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona)の「The new squares and green axes in Eixample will look like this」のページより。緑の軸線に指定された他の街路は、C. del Consell de Cent、C. del Girona、C. del Rocaforの3つで、これらの街路の交差点には新たな広場(Square)が作られる計画である(2022年11月24日確認)。
  • 9)バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona)の「Green hubs in Sant Martí」、及び、「Almogàvers and Zamora become new green streets with the Barcelona Superblock plan」のページより。これらのページには、Almogàvers Hub、Zamora Hub、Cristóbal de Moura Hub、Puigcerdà Hub、Bolivia Hubの5つが記載されている(2022年11月24日確認)。
  • 10)バルセロナ市議会(Aijuntament de Barcelona)の「Superilles」のページより。

■参考文献