クラレンス・A・ペリー(1872~1944)の近隣住区論をベースとして計画された千里ニュータウンでは、12の住区が開発されました。
それぞれの住区の中心に配置されたのが近隣センターです。近隣センターは住区に住む人々が歩いて日々の買い物をしたり、用事をすましたりできるように日用品を扱う専門店、スーパーマーケットや市場、銭湯、地区会館、郵便局などがもうけられました。けれども各住戸への風呂場の設置によって銭湯は廃止され、また、自家用車の普及、郊外型の大型店の登場によって近隣センターはしだいに廃れ、空き店舗が目立つようになった…
こうした話を耳にされた方も多いと思いますが、それでは近隣住区論を適用したのは想定が甘かったのか? 今後、近隣センターはどうあればよいか? これらを考えていくためには、イメージではなく現実の近隣センターはどうなっているかをみておく必要があります。
豊中市では「商店街・小売市場来街者調査」という調査が実施されていると教えていただきました。近隣センターの今を知るための1つの手がかりになりますので、この調査結果をご紹介させていただきます。
平成23(2011)年度 豊中市商店街・小売市場来街者調査の概要
この調査は次のような目的で実施されているものです。
「商店街・小売市場来街者調査」は、市内の消費者の購買動向がどのように変化しているかを探るため、平成13年度に実施したものを、10年ぶりに調査を実施したものです。
市内の各商店街・小売市場周辺地域の来街者に対するアンケート調査及び通行量調査を実施することにより、これらの店舗での買物行動や通行状況を把握し、その実勢圏あるいは消費者側からみた評価等を分析します。
その結果は、今後における商業振興策を検討するための基礎資料として用いるとともに、各店舗自らが各種の方策を検討するための材料としても活用します。
*『平成23年度 豊中市商店街・小売市場来街者調査報告書』豊中市 2012年3月
実施された調査はアンケート調査と通行量調査の2種類。アンケート調査は「商店街・小売市場周辺の来街者にヒアリングのアンケートを行う面接調査法で調査(10:00〜19:00の9時間調査)を実施」されています。調査対象は豊中市内の39の商店街・小売市場で、アンケート調査の回答者は6,804人です。
新千里東町近隣センターに関するアンケート調査の結果
ここでは新千里東町近隣センターに関するアンケート調査の結果をご紹介したいと思います。新千里東町近隣センターでの調査が行われたのは2012年3月14日(水)、15日(木)の平日2日間、3月17日(土)、18日(日)の休日2日間。アンケート調査の回答者は平日が90人、休日が91日の合計181人でした。
なお、報告書には10年前の平成13(2001)年度の調査のことにも触れられており、この時のアンケート調査の回答者は391人でした。
以下では、次の回答者の回答をご紹介します。
- 平成23(2011)年度調査の新千里東町近隣センターの来訪者:181人
- 平成13(2001)年度調査の新千里東町近隣センターの来訪者:391人
- 平成23(2011)年度調査の市内39カ所の商店街・小売市場の来訪者:6,804人
新千里東町近隣センターの来訪者は、高齢者の割合が大きく、約6割になっています。
新千里東町近隣センターの来訪者は豊中市内の人が約82.3%、豊中市外の人が17.7%です。
→調査対象となった商店街・小売市場の全体と比較すると豊中市外から来ている人の割合がやや大きいですが、これはこれは新千里東町が豊中市の東端に位置する(吹田市に隣接している)ことも影響していると考えることができます。
新千里東町近隣センターへはほとんど毎日来る人が最も多く、ほとんど毎日来る人と週に3〜4回程度来る人を合わせると約6割になっています。
交通手段は徒歩が最も多く(平成23年度調査で約6割)、次いで自転車・バイク(平成23年度調査で約2割)、自家用車(平成23年度調査で約1割)となっています。
→平成13年度調査では約8割が徒歩で来ると回答しています。それに比べると、平成23年度調査では徒歩で来る人の割合は低下しています。調査が実施された時期をみると、こちらにご紹介した通り、平成13(2001)年度の調査時点の近隣センターは集合住宅の建替えで人口が減少しつつあった時期であることがわかります。平成13年度調査に比べて、平成23年度調査では徒歩が減少し、自転車・バイク、自家用車が少し増加しているのは現役の若い世代が増えたことが1つの原因だと考えることができます。
新千里東町近隣センターに来訪する最大の理由は、値段に満足していると回答している人が約半数と圧倒的に多くなっています。
新千里東町近隣センターに対して日頃から感じることについては、(全ての質問項目に同じ選択肢で回答している人がいるため調査手法に問題があった可能性もありますが)調査対象となった他の商店街・小売市場に比べて非常に評価が高く、全ての項目で「そう思う」「ややそう思う」という回答が6割で、否定的な評価をしている人はほとんどいません。
新千里東町近隣センターのお店に望むこととしては、商品の品質や鮮度をよくしてほしい(61.3%)、オリジナル商品を揃えてほしい(25.4%)、店を明るく清潔にしてほしい(24.9%)の順に多くなっています。店舗の外観をよくしてほしいという回答は13.8%と7番目です。
以上の結果をまとめると、新千里東町の近隣センターは
- 高齢者が、徒歩で、毎日買い物できる場所になっている
- 買い物をする最大の値段は値段の安さだが、全体的に他の商店街・小売市場より評価が高い
- 買い物客は近隣センターの外観が綺麗になることより、各店舗で取り扱う店舗(オリジナル商品を含む)、店舗内を綺麗にするというより、各店舗ごとの工夫を求めている
約半世紀前、住区での生活の中心になるように計画された近隣センターは、少なくとも高齢者にとっては計画通りの場所になっていると言えそうです。
この調査結果から近隣センターのどのような将来像を描くか? については、(個人的な意見も入っていますが)今後、高齢者の割合がますます増加するという状況を考えれば、現在の建物をリノベーションして(特に店舗の内装)、各店舗がオリジナル商品を含めた魅力ある商品を扱えば、地域に密着した商店街という位置づけを獲得できると思います。こうした位置こそ、当初の計画者が思い描いていた近隣センターのあり方の現代版であり、千里中央や郊外型の大型店が担いたくても担えないものだと思います。
*詳細な調査結果は豊中市のウェブサイトで紹介されていますのでご覧ください。