『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

高層化ではない団地再生@多摩平

2012年1月28日(土)、UR都市機構が進めている「ルネッサンス計画」の成果報告会&シンポジウム「向ヶ丘第一団地ストック再生実験成果報告会&シンポジウム『団地再生——暮らしの未来を探る』」が大阪で開催されます。
「ルネッサンス計画」というのは既存の住棟をハード・ソフトの両面で再生する手法を検討する事業で、UR都市機構のウェブサイトには次のように目的が説明されています。

ルネッサンス計画の目的
UR賃貸住宅の団地の再生については、これまでは既存住棟の建替えや住戸内のリニューアルという形で行っていましたが、持続可能なまちづくりという観点から、既存の住宅をできるだけ長期間活用することが求められるようになってきています。一方で、昭和30年代、40年代に建設された住棟の多くは、階段室型でバリアフリー化への対応が困難であったり、階高が低い、住戸面積が狭いなど、現在のUR賃貸住宅の水準と比べると必ずしも十分なものとはいえません。UR都市機構としては、これらの既存住棟を有効に活用するための実験的な試みを、ルネッサンス計画として位置づけ、ハード、ソフト両面での再生手法を検討することとしています。
UR都市機構ウェブサイトより

1月28日の成果報告会&シンポジウムの主題になっている向ヶ丘第一団地ストック再生実験は「ルネッサンス計画1」と位置づけられていますが、これに引き続いて、現在、東京の多摩平で「ルネッサンス計画2」が行われており、また、昨年の年末には建築家・隈研吾氏とクリエイティブディレクター・佐藤可士和氏をアドバイザーに迎えての「URルネッサンスin洋光台」が行われるという発表もありました。

少し前、「ルネッサンス計画2」の見学に行ってきましたのでその様子を少しだけ紹介したいと思います。
「ルネッサンス計画1」が「住棟単位での改修技術の開発」という位置づけで、ハード面での再生手法が主に検討されてきたのに対し、「ルネッサンス計画2」は「住棟ルネッサンス事業」として、民間の創意工夫を活かし、住棟の新たな活用方法というソフト面での再生手法が検討されています。

ルネッサンス計画の構成
ルネッサンス計画1:「住棟単位での改修技術の開発」は、階段室型住棟のバリアフリー化や、現代の生活にふさわしい内装・設備への改修、景観にも配慮したファサードの形成等に関する改修技術の開発を、解体予定の住棟を活用した実証試験として実施しました。
ルネッサンス計画2:「住棟ルネッサンス事業」は、ルネッサンス計画1の技術的成果を踏まえ、民間の創意工夫を活かした新たな活用・改修方法を社会実験的に事業化しているものです。
このように、ルネッサンス計画1は改修技術開発というハード面での再生手法を、ルネッサンス計画2は住棟の新たな活用方法というソフト面での再生手法を検討しているものであり、この両面での実証的検討によって、既存住棟の再生手法を確立することを目指しています。
UR都市機構ウェブサイトより

「ルネッサンス計画2」が行われているのは多摩平団地の建替えで空家になった5つの住棟が建つ街区で、現在、「たまむすびテラス」と名づけられています。

「たまむすびテラス」の全景。

左の2棟は団地型シェアハウスの「りえんと多摩平」、中央は貸し菜園・庭付き共同住宅の「AURA243多摩平の森」、右の2棟は高齢者専用賃貸住宅・コミュニティハウス・小規模多機能居宅介護施設の「ゆいま~る多摩平の森」。

主に若い世代が入居する「りえんと多摩平」。1階には共用のキッチン・ラウンジがもうけられており、部屋は、元の団地の1住戸を3人でシェアして暮らしています。

「AURA243多摩平の森」の住棟前にもうけられた菜園。集合住宅に住みながら、家のすぐ前に菜園が持てるというのはうらやましい限り…

主にお年寄りがお住まいの「ゆいま~る多摩平の森」では、当然ですが、エレベーターが増築されています。
このように若い世代、家族で暮らす人、そして、お年寄りと本当に多様な世代が暮らす街に生まれ変わっています。

菜園の向こうに見える増築部分は食堂。ここは「ゆいま~る多摩平の森」の食堂として運営されていますが、周辺にお住まいの方が食事をしに来られることもあるようです。

世代を越えたお付き合い、居住者と周辺にお住まいの方とのお付き合い。「たまむすびテラス」では、色々なお付き合いが築かれる可能性のある、とても興味深い事業が行われています。

多摩平団地は、昭和33年(1958年)に竣工した団地。千里ニュータウンのまちびらきよりも4年先輩ですが、改修によって写真の通り建物は奇麗に、お洒落に甦りました。元々はみな同じ建物だったのが、3つの全く異なるタイプの集合住宅になっています。
建物がゆったりと建てられていて、非常に豊かな屋外空間。この「資産」を継承しているからこそ、「ルネッサンス計画2」が成立しているのだなと思いました。

団地が老朽化したから建替え。
そんな説明が時々なされますが、「たまむすびテラス」で実際に行われているように、建物の躯体はまだまだ使えるし、エレベーターだって、お風呂だってその気になれば取り付けることができる。もちろん、内装を奇麗にすることも。じゃあ、団地の老朽化って、何が老朽化しているのだろう? と思ってしまいます。

千里ニュータウンの場合、大阪の中心部からの利便性も良いため、初期の団地がどんどん高層の住宅に建て替わっています。そのため、「団地再生=建替えて高層化」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。しかし、これから日本は人口が減少していき、もはや建替えて高層化という手が使えなくなる時代がやってくるのは間違いないと思います。

団地再生の目的は、人々の暮らしを良くすること、人と人との新たな関係を築いていくことだと考えれば、決して、建替えて高層化することだけが団地再生ではない。「ルネッサンス計画」をみると、団地再生には色々な可能性がることを教えられます。