『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

中国・内モンゴル自治区の公園~多様な社会的活動が共存する場所~

「中国に行ったら、朝、公園に行ってみるといいよ。すごく面白から」。中国に行かれた何人かの方から、こんな話を聞いたことがある。聞いたところ、朝、公園では太極拳、気功といった武術から、バトミントン、ジョギング、凧揚げ、舞踊、歌、小鳥の散歩まで、多くの人々が色々な活動をしているという。
このような朝の活動は「晨練」(チェンレン)と呼ばれており、その呼称は、軍隊で1日3回行われていた訓練(晨練、午練、晩練)の呼び名に由来するという*1)。北京、上海、成都、そして、台湾に行かれた方からも晨練を見たと聞いた。恐らく、晨練は中国のかなり広い地域で行われていると思われる。

ここで紹介するのは、内モンゴル自治区の首府・呼和浩特(フフホト)市の公園。呼和浩特市には、2009年現在で263万人が居住している*2)。車で少し走れば広大な草原を目にすることができるが、中心部には高層のビルが建ち並ぶ都市である。

呼和浩特市の中心部に青城公園という大きな公園がある*3)。朝、早起きして公園を訪れると、話に聞いていた通り、多くの人々が色々な活動をしている。あちこちから、話し声や音楽が聞こえてくるのは、まるでお祭りの縁日のような賑やかな雰囲気である。音楽をかけて体操したり、演舞をしたり、ダンスをしたりするグループ。歌を歌っているグループ。このようなグループに加わることなく、おしゃべりしたり、ストレッチしたり、本を読んだり、他の人の活動を眺めたりしている人。
公園中央にある大きな池で釣りをする人がいるかと思えば、その横を泳いでいく人もいる。「オ~~」と大きな声をあげながら歩いていく人(大きな声を出すのは健康に良いらしい)もいる。特に面白かったのは地面書道。これは、水をふくませた大きな筆で地面に字を書くというもので、かなり達筆な人もいる。
お年寄りの姿をよく見かけたが、ダンスを眺める若い女性、サッカーボールを手にして歩く男子学生など、決してお年寄りばかりではない。
中国と日本とでは生活スタイルが異なるため単純な比較はできないとしても*4)、これほどまでに様々な活動が行われている公園が日本にあるだろうかと考えこんでしまう。


朝から身体を動かすのは健康に良いし、仲間と一緒に活動することも重要である。しかし、青城公園で最も興味深かったのは、上の写真のように地面書道をする人、足を止め地面に書かれた文字を読む人、その後ろでダンスをする人、さらにその奥でバドミントンをする人というように、それぞれの活動が上手く棲み分けあって共存していたことである。

J.ゲールは人と人とのふれあいを濃度の点から整理し、「低い濃度のふれあい」は「他の形態のふれあいに比べて、重要性が低いように見えるかもしれない」が、それは「控えめなふれあい」、「他の段階のふれあいが生まれる出発点の可能性」、「すでに成立しているふれあいを維持する可能性」、「外部の社会についての情報源」、「インスピレーションの源、刺激的な体験の提供」という重要な役割をもつと指摘した*5)。上で紹介した写真を例にとると、例えば、地面書道をしている人と、足を止め地面に書かれた文字を読む人との間には「低い濃度のふれあい」が成立していることがわかる。
周りにいる人々を排除すれば、個人で、あるいは、仲間だけで過ごせる場所は容易に作ることができる。このような居心地のよい場所が重要なのは言うまでもない。しかしその一方で、仲間以外の他者を通して自分の世界を広げていくきっかけを与えてくれる場所も重要である。そのためには、私たちの生活は「低い濃度のふれあい」を可能にしてくれる場所に囲まれていなければならない。


J.ゲールによるふれあいの濃度

低い濃度 | 受け身のふれあい
     | (「目と耳」のふれあい)
     | 偶然のふれあい
     | 知人
     | 友人
高い濃度 ↓ 親密な友情


注・参考文献

  • 1)李華『中国の都市公園の利用活動にみる社会・空間意識とその変遷に関する研究』大阪大学大学院工学研究科学位論文, 2009
  • 2)呼和浩特市政府ウェブサイトより。
  • 3)呼和浩特は、中国語で「青い城」の意味である。
  • 4)呼和浩特市から留学に来ていた方からは、中国では朝食を外で食べる習慣のある人が多いという話を聞いた。
  • 5)J.ゲール(北原理雄訳)『屋外空間の生活とデザイン』鹿島出版会、1990

*この記事は日本建築学会編『まちの居場所:まちの居場所をみつける/つくる』(東洋書店 2010年)の「コラム:中国の公園~多様な社会的活動が共存する場所~」に一部加筆したものです。