『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

地域の拠点としてのコンビニという場所

「東日本大震災に対応する第三次緊急提言のための審議資料」という資料が、日本学術会議にもうけられた各委員会ら公開されています。それぞれの分野で、現在どのようなことが重要視されているかが伺える興味深い資料ですが、委員会の1つ、地域研究委員会からは次のような提言がなされています。

「東北地方の再生のためには、地方圏における都市システムの確立が不可欠である。地方圏における都市システムの基礎機能は役場支所・JA等支所・商工会・コンビニエンスストア・郵便局・小学校・診療所などによって構成されており、こうした基礎機能を持つ拠点は歩いて到達できるあるいは地域公共交通によって容易に到達できるように空間的に配置されなければならない。」(p5)
※『東日本大震災に対応する第三次緊急提言のための審議資料』日本学術会議地域研究委員会 2011年4月5日

「地方圏における都市システムの基礎機能」の1つとして、郵便局・小学校・診療所よりも前にあげられているのがコンビニエンスストア(コンビニ)コンビニが地域での暮らしを支える大きな役割を担う場所だと認知されていることがここに現れています。

建築家・山本理顕氏も、仮設住宅に対して次のような提案をしていますが、ここでもコンビニが言及されています。

「(3)仮設住宅といっても、これから3年4年、その仮設住宅に住まなくてはならない。もはや単なる仮住まいではない。単に「仮設住宅群」をつくるのではなくて、生活のための「街」をつくる。「地域社会圏」をつくる。今までY-GSA生と話をしてきたことを実現するようにつくる。
・住宅は向かい合うように配置する。
・玄関は透明ガラスにする。
・誰でもお店を開けるようにする。(うどん屋さん、修理屋さん、電気屋さん、喫茶店、居酒屋等々)これは透明な玄関と関係する。
・小さな公共施設(高齢者、子供、障碍者のための施設)とコンビニを一体化させる。ボランティア事務所を兼ねる。
・エネルギー源を同時につくる。コジェネ、ソーラーエネルギー、バイオガス、小さな水力、風力発電。その熱源を使った銭湯。ランドリー。
・「地域社会圏」の中の電動軽車両、今、日産自動車、山中さんと一緒に考えているようなものだけど、ものや人を運べるようなアシスト付き(アシスト付きじゃなくてもいい)三輪自転車がいいと思う。
もっと他にもいろいろアイデアはあると思うけど、単に仮設住宅群ではない、生活のための場所だということが重要である。」
※「山本です。Y-GSA生によるシンポジウム。」・『山本理顕スタジオブログ』2011年3月19日

コンビニについては、次のような記事も見かけました。津波による大きな被害を受けた岩手県陸前高田市で、2011年4月からコンビニの営業が再開されたとのこと。

「自分の店はずっと地域に支えられてきたので、早く再開することで、少しでも地域のお役に立てればと思っていました」。3月下旬、本部から仮設店舗での営業再開を打診され、やはり津波に流された「高田松原店」の元オーナー、佐藤和幸さん(48)とともに、これを受け入れた。
・・・(略)・・・
「常連客から声をかけられ、地域とのつながりを改めて実感しました」。自宅も流され、親類宅に身を寄せる佐藤さんは、途切れることのない客の入りに涙を浮かべた。」
※「「街に恩返し」仮設コンビニ第1号 店流出の2店長、復興タッグ」・『産経新聞』2011年4月22日


日本におけるコンビニ第1号は、1969年に大阪府豊中市に開店した「マミー豊中店」と言われています。

「1969年、卸売商の主催するボランタリー・チェーンとしてスタートしたマイショップ・チェーンの第1号店としての「マミー豊中店」が開店した。この店が日本で最初のコンビニエンス・ストアといわれている。その後、1973年11月には、サウスランド社のエリア・フランチャイズを取得したイトーヨーカ堂がヨークセブンを設立し、翌74年5月にセブン−イレブン1号店を江東区豊洲に開店し、本格的なコンビニエンス・ストア時代が到来した。」
※川辺信雄「コンビニエンス・ストアの経営史:日本におけるコンビニエンス・ストアの30年」・『早稲田商学』第400号 2004年9月

コンビニが登場して既に40年余り。全国一律のフランチャイズ方式に対する批判はありますが、フランチャイズ店でも、それぞれの店舗を経営しているのは顔の人であり、お客さんとの関係が築かれていることもある。

以前、コンビニで次のような光景を見かけたことがあります。
コピー機で資料を印刷していると、高齢の男性が店内に入ってきました。男性の姿を見て、「朝、ヘルパーさんがパン買いに来てたよ」と50代ぐらいの店員の女性が声をかけました。2人は顔見知りのようです。男性が、椅子があるかと聞くと、店員の女性はどうぞと言って丸いパイプ椅子を持って来られました。しばらくすると、「お手洗い貸してください」と言って、学校帰りの小学生が入ってきました。どうぞ、と店員の女性。小学生は、パイプ椅子に座った男性の脇を通り抜け、奥のトイレに向かいました。

ささやかな出来事ですが、コンビニが、地域の人々によって頼りにされていることを教えられた出来事です。

(更新:2024年2月25日)