『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

韓国・梨花洞の壁画と月の街(タルトンネ)

2011年7月にソウルを訪問した時、梨花洞(イファドン/Ihwa-dong)を案内していだだきました。駱山パブリックアート・プロジェクトの敷地になっている地域です。

梨花洞は、駱山公園(Naksan Park)の西側に位置。駱山公園に向けて斜面になっており、坂道、階段もたくさん。道も細く、入り組んでいます。
駱山パブリックアート・プロジェクトは梨花洞の道路、階段、住宅の壁に壁画を描いたり、アート作品を設置したりするというものです。観光地にもなっており、訪れた時もカメラを持った多くの人が訪れ、壁画や作品を撮影したり、壁画や作品の前で記念撮影をしたりしていました。

梨花洞はパブリックアート・プロジェクトの敷地ですが、生活の場所でもあります。お店が並んだ通りもあり、店の前で話をしたり、スイカを食べたりして過ごしている人もいました。

駱山パブリックアート・プロジェクトの敷地になっているのは「タルトンネ」と呼ばれる地域。「タル」は「月」、「トンネ」は「街」の意味で、「月の街」という意味だとのこと。貧しい人は不便な山の上、つまり、月に近いところに住んでいることに由来する名前だと伺いました。
道も細く、坂道、階段も多く、また、道にゴミが捨てられていることもありました。バリアフリー、衛生という点では低い評価になると思いますが、その反面、道端に出したベンチや椅子に座って話をしている人や、道端に洗濯や布団を干したりするなど、人々の生活が通りに滲み出ており、それを通して人々の関わりが生まれていることは見落としてはならない点だと思います。

韓国には梨花洞に限らず、「月の街」があるが、このような地域は再開発される地域があるとのこと。再開発により家賃が高くなるため、低所得者が住み続けられなくなるのが問題だとのこと。

階段、坂道を登って駱山公園へ。駱山公園には城壁が残されており、城壁から西側の梨花洞の方を眺めると、斜面に沿って小さな低層の住宅が並んでいる様子がよくわかります。案内してくださった方は、「これが昔ながらのソウルの風景」だと話されていました。

駱山公園の東側の風景を眺めると、城壁から続く斜面があり、斜面と斜面を下りた標高の低い部分には戸建ての住宅が建ち並んでいます。そして、その向こうの高台には高層のアパートが壁のように建ち並んでいるのが見えます。


梨花洞の「月の街」における駱山パブリックアート・プロジェクトをご紹介しました。
パブリックアート・プロジェクトの開催地となったことで、アーティストが入ってきた。その作品を見るために多数の若い人がやって来て、歩き回り、写真を撮るようになってきた。こうした状態を、地域に住んでいる人が歓迎しているかどうかはわかりません。

しかし、楽観的かもしれませんが次のように考えることもできます。地域に住んでいる人は、自分たちが日々生活している場所の写真を撮ることはほとんどない。それに対して外部からやって来た人は写真を撮り歩く。そして、外部の人々が撮影した写真の集積が、結果として暮らしの歴史の記録になっていくのではないか。こう考えると、駱山パブリックアート・プロジェクトは「月の街」の暮らしを認識させるものであるとともに、その暮らしの歴史を記録するものという役割を担い得る可能性があるのではないかと思います。


  • 梨花洞の最寄駅:地下鉄4号線・恵化(Hyehwa)駅

(更新:2018年11月2日)