2008年、ベルリンにある6ヵ所の集合住宅(ジードルング, Siedlung)が「ベルリンのモダニズム集合住宅群」として世界遺産に登録されました。登録されたのは次の集合住宅で、ガルテンシュタット・ファルケンべルクは 1913〜16年に、その他は1924〜34年にかけて建設。第一次世界大戦後の住宅不足への対応として建設された集合住宅です。
目次
ベルリンのモダニズム集合住宅群の基本情報
6つの集合住宅は以下の通り。戸数は128戸から、2,000戸近いものまであります。設計に携わった人物にはブルーノ・タウト、ハンス・シャロウン、ヴァルター・グロピウスといった有名な建築家の名前が並んでいます。
*以下の基本情報は「Berlin Modernism Housing Estatesのウェブサイトを参考にしています。
ガルテンシュタット・ファルケンべルク(Gartenstadt Falkenberg)
- 建設時期:1913〜1916年
- 敷地面積:4.4ha
- 建設戸数:128戸。うち80戸が戸建住宅(大半は連続型の住戸)、48戸が6棟の集合住宅
- 住戸サイズ:1 1/2〜5部屋(キッチン、浴室を除く)
- 都市計画:ブルーノ・タウト
- 設計者:ブルーノ・タウト、ハインリッヒ・テッセノウ
- ランドスケープ:ルートヴィヒ・レッサー
ジードルング・シラーパーク(Siedlung Schillerpark)
- 建設時期:1924〜1930年
- 敷地面積:4.6ha
- 建設戸数:290戸
- 住戸サイズ:1 1/2〜4 1/2部屋(キッチン、浴室を除く)
- 都市計画:ブルーノ・タウト
- 設計者:ブルーノ・タウト *1951年の再建はマックス・タウト、1953〜57年の増築はハンス・ホフマン
- ランドスケープ:推定:ブルーノ・タウト *1954年からはヴァルター・ロッソウ
グロースジードルング・ブリッツ(Großsiedlung Britz)
- 建設時期:1925〜1930年
- 敷地面積:37.1ha
- 建設戸数:1,960戸。うち675戸がタウンハウス(連棟式低層集合住宅)
- 住戸サイズ:1 1/2〜4 1/2部屋(キッチン、浴室を除く)
- 都市計画:ブルーノ・タウト、マルティン・ヴァグナー
- 設計者:ブルーノ・タウト、マルティン・ヴァグナー
- ランドスケープ:レベレヒト・ミッゲ、オトカル・ヴァグラー
ヴォーンシュタット・カール・レギーン(Wohnstadt Carl Legin)
- 建設時期:1928〜1930年
- 敷地面積:8.4ha
- 建設戸数:1,149戸
- 住戸サイズ:1 1/2〜4 1/2(キッチン、浴室を除く)。80%が2部屋以下
- 都市計画:ブルーノ・タウト
- 設計者:ブルーノ・タウト、フランツ・ヒリンガー
- ランドスケープ:不明(推定:ブルーノ・タウト)
ヴァイセ・シュタット(Weiße Stadt)
- 建設時期:1929〜1931年
- 敷地面積:14.3ha
- 建設戸数:1,268戸
- 住戸サイズ:1〜3 1/2部屋(キッチン、浴室を除く)。80%が2 1/2部屋以下
- 統括管理:マルティン・ヴァグナー
- 都市計画:オットー・ルドルフ・サルフィスベルク
- 設計者:オットー・ルドルフ・サルフィスベルク、ブルーノ・アーレンツ、ヴィルヘルム・ビューニング
- ランドスケープ:ルートヴィヒ・レッサー
グロースジードルング・ジーメンスシュタット((Großsiedlung Siemensstadt)
- 建設時期:1929〜1934年
- 敷地面積:19.3ha
- 建設戸数:1370戸
- 住戸サイズ:1〜3 1/2部屋(キッチン、浴室を除く)。90%が2 1/2部屋以下
- 総括管理:マルティン・ヴァグナー
- 都市計画:ハンス・シャロウン
- 設計者:ハンス・シャロウン、ヴァルター・グロピウス、オットー・バルトニング、フレッド・フォルバート、フーゴー・ヘーリング、パウル・R・ヘニング
- ランドスケープ:レベレヒト・ミッゲ
何年か前になりますが、世界遺産登録後に6つの集合住宅のうちジードルング・シラーパーク、ヴァイセ・シュタット、グロースジードルング・ブリッツ、ガルテンシュタット・ファルケンべルクの4ヵ所を歩く機会がありましたので、歩いた順番にご紹介したいと思います。
ジードルング・シラーパーク(Siedlung Schillerpark)
[交通アクセス]ジードルング・シラーパークはベルリン中央駅(Berlin Hbf)から北西の位置。ベルリン中央駅からSバーン(都市高速鉄道)でFriedrichstr.駅へ。Friedrichstr.駅でUバーン(地下鉄)に乗り換えて、U Rehberg駅へ。ベルリン中央駅からU Rehberg駅まで20分弱で移動できました。U Rehberg駅から北東に向かって歩いて、シラーパーク(Schillerpark)という公園を通り抜けたところにジードルング・シラーパークがあります。U Rehberg駅からは10分ほど。
ジードルング・シラーパークは公園に面して立地。訪れた時にはジードルング・シラーパークと公園の間の道路、ジードルング・シラーパークの東側部分で改修工事が行われていました。
ジードルング・シラーパークは3~4階の住棟が中庭を囲むように配置。中庭は非常に静かで、芝生の広場、卓球台や遊具が置かれたところも。子どもを遊ばせている母親たちの姿を見かけました。公園に面した住棟には、子どものための施設と思われる看板がかかっていました。
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ヴァイセ・シュタット(Weiße Stadt)
[交通アクセス]ジードルング・シラーパークからヴァイセ・シュタットまではそれほど離れていないため、徒歩で移動しました。ジードルング・シラーパークからバルフス通り(Barfusstraße)を北東へ、アロサー・アレー(Aroser Allee)を北に向かって歩くと、ヴァイセ・シュタットの南側に到着。ジードルング・シラーパークからヴァイセ・シュタットまで、徒歩で15分ほど。
ヴァイセ・シュタットは白い街という意味で、名前の通り白い住棟が建ち並んでいます。ヴァイセ・シュタットの中央を大通り(アロサー・アレー)が南北に通っており、時計のある建物が大通りをまたぐように建っています。この建物の足元には店舗、オフィスになっているようです。住棟で囲まれた中庭には、子どもの遊び場もあり、日本でも見かけるような動物型の遊具もありました。また、子どものための施設だと思われる場所も見かけました。
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グロースジードルング・ブリッツ(Großsiedlung Britz)
[交通アクセス]次に訪問するグロースジードルング・ブリッツはベルリン中央駅の南西に位置するため、Uバーンで移動。ヴァイセ・シュタットの北側にあるParacelsus-Bad駅からUバーンに乗車。Alexandarplatz駅を経由した後、30分ほどでPachimer Allee駅に到着。駅はグロースジードルング・ブリッツの敷地内にあり、馬蹄形の住棟は駅の北側にあります。
馬蹄形の建物が中央にあり、その周囲には2〜3階建てのタウンハウスが建ち並んでいます。馬蹄形の建物の内側は池のある広場。広場と住棟の間には樹木があるため、広場から住戸内は見えないようになっていました。広場は池に向かって斜面になっており、池の傍らには、ここがブルーノ・タウトが設計した建物であることが書かれた石碑がありました。馬蹄形の建物の東側(馬蹄形の直線になっている側)にはサービス・ポイント(Service Point)と書かれた建物があり、カフェ、レストランなどが入る建物がありました。
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馬蹄形の建物の周囲に建ち並ぶタウンハウスはおおよそ南北に平行配置されており、住棟と住棟の間は短冊状に区切られた各住戸の庭。庭は芝生が敷かれたり、畑になっていたり、椅子やテーブルが置かれていたりと綺麗に手入れがなされていました。訪れたのが平日の昼間だったため、庭では高齢の方、小さな子どもを連れた女性が過ごしている光景をしばしば見かけました。
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馬蹄形のある敷地からパルヒマー・アレー(Pachimer Allee)を200mほど歩いたところにも、グロースジードルング・ブリッツの集合住宅が建っています。
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ガルテンシュタット・ファルケンべルク(Gartenstadt Falkenberg)
[交通アクセス]ガルテンシュタット・ファルケンべルクもベルリン中央駅の南東に位置しますが、この日訪れた4ヵ所中では最も離れた場所に位置します。グロースジードルング・ブリッツからガルテンシュタット・ファルケンべルクまではUバーン、Sバーンを乗り継いで移動。グロースジードルング・ブリッツの敷地北側にあるU Blaschkoallee駅からUバーンに乗車。途中、Neukölln駅でSバーンに乗り換え、Grünau駅へ。U Blaschkoallee駅からGrünau駅まで約25分。Grünau駅から線路をくぐって南西へ歩きます。ブルーノ・タウト通り(Bruno-Taut-Straße)を2〜3分ほど歩くとGartenstadt Falkenbergの北西角に到着。なお、帰りはGrünau駅からSバーンでベルリン中央駅まで約40分ほどで戻ることができます。
ガルテンシュタット・ファルケンべルクはそれほど大きくはなく、敷地周辺にも住宅が建ち並んでいるので、周辺の住宅と混在して建っているというのが最初の印象でした。ガルテンシュタット・ファルケンべルクの住宅は紺色、オレンジ、黄色と非常にカラフル。
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北から南に向かって坂を上がっていくガルテンシュタット通り(Gartenstadtweg)の両側にも、通りより一段高いところに連続型住戸が建ち並んでいます。
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ブルーノ・タウト通りの近くと、ガルテンシュタット通りの中央付近に看板があり、そこにはGartenstadtの文字。Gartenstadtとはガーデンシティを意味します。ガーデンシティ(田園都市)と言えばエベネザー・ハワード(Ebenezer Howard)によるイギリスのレッチワース(Letchworth、建設は1903〜)、ウェリン(Welwyn、建設は1920年〜)を思い浮かべることができます。ドイツでも同じくガーデンシティの名前をもつヘレラウ(Hellerau、建設は1909〜)がドレスデン郊外に建設されています。20世紀の初頭、国を越えてガーデンシティが建設されたというのは1つの時代なのだと思います。なお、ガルテンシュタット・ファルケンべルクでも住宅を設計したハインリッヒ・テッセノウは、ヘレラウにおいても重要な役割を担っています。
今回、世界遺産に登録された「ベルリンのモダニズム集合住宅群」の中の4ヵ所を歩いて感じたのは、今から80〜90年以上前に建設された世界遺産だとしても、これらの集合住宅は今も人々にとっての暮らしの場として現役だということ。集合住宅というと住宅ばかりだと思いがちですが、住宅だけでなくカフェ、レストラン、店舗、オフィス、子どものための施設など暮らしを支える場所もセットになっていることは、実際に足を運んだからこそ気付いたことです。住棟の建物だけではなく、庭や広場もきちんと手入れがなされていたことも印象に残っています。
有名な建築家が設計した建物を見に行こうとすると、駅から遠く車かタクシーを利用しないとアクセスできないところもあります。それに対して、今回訪れた集合住宅はUバーン、Sバーンの駅から徒歩で行ける位置にあることもよくわかりました。