ドイツのデッサウ(Dessau)郊外にトーテン・エステート(Törten Estate)という住宅地があります。
モダニズムを代表するドイツの建築家で、バウハウス(Bauhaus)の創立者でもあるヴァルター・グロピウス(Walter Gropius/1883年〜1969年)が設計に携わった住宅地で、1926〜1928年に建設。デッサウは、バウハウスがおかれた街です。
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ヴァイマル共和国下では、アフォーダブルな住宅の深刻な不足に陥っていました。これを解決するため、人口の大半を占める人々に対して、敷地内で光、空気、日光が得られるアフォーダブルな住宅を供給するため公共部門が必要とされました。このような背景から、トーテン・エステートはホームステッド法(Homestead Act/Reichsheimstättengesetz)の枠組みで、デッサウ市に依頼された住宅地です。費用対効果の高いマスハウジングの実現方法は、バウハウスにより考案されました。それぞれの住宅には350〜400m2の家庭菜園があり、野菜の栽培や家畜の飼育により、自給自足を促進するものでした。
□工業生産
トーテン・エステートではいくつかの種類の住宅が建設されました。ドイツ帝国における建物と住宅の経済効率のための協会(Reichsforschungsgesellschaft für Wirtschaftlichkeit im Bau- und Wohnungswesen/German Reich society for economic efficiency in building and housing)は、新たな建築材料と工業製品の持続性だけでなく、合理的な住宅の生産方法についても研究することを期待していました。建設現場は工場の生産ラインのようにされ、専門の労働者グループは、1つの建設フェイズで同時に複数の住宅を建設しました。いわゆるプレキャストコンクリートの梁(Rapidbalken)は現場で作られ、小さなワゴンとクレーンにより運ばれました。□費用対効果を高くする方法
トーテン・エステートは明るい色の立方体で構成されたセミデタッチドハウス (Semi-Detached House=一軒の家を半分に割った左右対称の2軒続きの家)。レイアウトは隣の住戸と左右対称で、4から12戸でグループが構成されています。ファサードは縦と横の細長い窓(Strip Window)で細分化されています。建設においては、費用対効果を高くすることが重視されました。耐力壁はプレハブの中空スラグコンクリートが利用され、床は鉄筋コンクリート梁とされました。インテリアは明るい色調が利用。バウハウスはインテリアのための家具を売り込みましたが、これらの需要はありませんでした。□歴史的な資産
現在、トーテン・エステートのオリジナルの均質性の痕跡はわずかに残っているだけです。施工とデザインの不備を、オーナー、居住者が改善したためです。高過ぎる細長い窓(Strip Window)だけは、持続的な計画に基づき修正されました。1992年に初めて、Mittelring 92の住宅がオリジナルの状態に復元されました。この住宅は現在、Moses-Mendelsohn-Gesellschaftに利用されており、Kleinring 5の住宅と同様、一般に公開されています。1994年以降は、いかなる構造的な措置も歴史的な資産と調査することが、メンテナンスとデザインに関わる法により規制されています。1928年に建設されたヴァルター・グロピウスのKonsum Building(店舗)は、現在、訪問者に住宅地の歴史を伝える場所になっています。常設展として住宅地のアイディア、ビジョン、建設の歴史、居住者が展示されています。展示は「Kreis der Freunde des Bauhauses e. V.」によるものです。
*「Dessau-Törten Housing Estate (1926–28), Walter Gropius」より。
スチールハウス(Stahlhaus/Steel House)
トーテン・エステートの最寄駅は、Dessau Süd駅。駅から北西に歩いて、最初にスチールハウス(Stahlhaus/Steel House)(Südstraße 5, 06849 Dessau-Roßlau, Germany)に向かいました。
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スチールハウスにはトーテン・エスエートやバウハウスなどにまつわる展示パネル、写真、本、冊子などが展示されています。
スタッフの方の話によると、トーテン・エステートにはタイプ1、2、4の3つのタイプがあるとのこと。建てられてから80年もの間に随分変わってしまったが、オリジナルに近い状態で残っている住戸があるとのこと、タイプ1の35番地、タイプ2の5番地と42番地、そして、タイプ4の38番地の場所を、地図に記載した番地を教えてくださいました。一般に公開されていないが、タイプ4の38番地だけは公開されているとのことでした。
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トーテン・エステートの東部分は扇型状になっており、ここに3つの円弧状の通りが走っています。内側からKleinring、Mitterlring、Großringという名前で、スタッフの話によると、Small、Middle、Bigという意味だとのこと。
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トーテン・エステート(東部分)
色が塗り替えられたり、外装にレンガが貼られていたりしている住戸もあります。住戸は通りに面して並んでおり、裏側に庭。敷地は短冊状に細長く、裏側の庭にはブロックの中央を走る路地からアクセスできるようになっています。裏庭には、大きな木が植えられている場所、駐車場か倉庫のように見える小屋が建てられている場所がありました。
一部のエリアで、道路の舗装工事が行われていました。住宅が並んでいますが、扇型の半径にあたる部分にはカフェかバーのようなお店もありました。
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Mitterlring 38
タイプ4の38番地(Mitterlring 38)の住戸は、毎日10時から17時までの間、一般に公開されています。見学料は、大人が2€、学生が1€。
表には次のような掲示がなされています。
MOSES-MENDELSSOHN-ZENTRUM
Mittelring 39
Siedlung Dessau-Dessau-Törten (1962-1928)Bauherr: Stadt Dessau
Architekt: Walter Gropius
Haustype: Sietö IV (1928)
Sanierung: Stadt Dessau (1996)
住戸は2階建て。1階部分(Ground Level)にはホール、3つの寝室(うち1つはマスター・ベッドルーム)。半地下になっている下階にはキッチンとダイニング、倉庫。面積は約50m2ということです。
1階部分からは、裏庭にも出ることができるようになっている。半地下になっている下階の天井は180mと低くなっています。
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トーテン・エステート(南部分)
トーテン・エステートの南部分には形の異なる住宅が建ち並んでいます。
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参考
(更新:2019年5月9日)