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コミュニティに言及する建築の最近の動向についてのメモ

ある建築が説明されるとき、「地域のコミュニティの場の創出を目指した施設」、「日常からコミュニティの拠点となるように配慮」、「緩やかなコミュニティの形成を図る」、「休日はコミュニティスペースとして使用することが想定」、「元もとこの地域が持っていた濃密なコミュニティを維持しつつ」、「地域コミュニティの場となることが期待されており」、「震災前から形成されていたコミュニティを引き継げる場として」のようにコミュニティに言及されているのをしばしば目にします。

コミュニティに言及されるとき、そこでどのような人々が、どのくらいの範囲が想定されているかなど、言及されているコミュニティの内容が重要なのは言うまでもありませんが、この記事ではこれを考えるための基礎的なデータとして、「新建築データ」を用いて調査した結果をご紹介します。

新建築データ

『新建築』は、新建築社が1925年8月に創刊した月刊の建築専門誌で、主に新築された建築が紹介されています。建築のリノベーションが紹介されることもあります。新建築社は2020年4月に、『新建築』、及び、『新建築住宅特集』に掲載したオンラインのデータベース(1985年以降のデータが掲載)である「新建築データ」のサービスを提供開始しました。

「新建築データ」で「キーワード:コミュニティ」、雑誌の絞り込み「新建築」の条件で検索したところ、1985年から2021年までに『新建築』に掲載された建築として515件がヒットしました。この中には、建築の名称にコミュニティが含まれるもの、用途にコミュニティが含まれるもの(例えば、「コミュニティセンター」など)、建築の説明にコミュニティが含まれるものなどが含まれています。
以下では、ヒットした515件を「コミュニティに言及する建築」と捉え、その傾向をみていきたいと思います。

「コミュニティに言及する建築」の最近の動向

掲載年

1年間に『新建築』に掲載された「コミュニティに言及する建築」の件数をみると*1)、1996年に初めて10件、2011年に初めて20件、2013年に初めて30件を超え、2016年に40件とピークを迎えています。その後はやや減少していますが、年間に25件以上なっており、「コミュニティに言及する建築」の掲載件数は増加している傾向をみることができます。

所在地

「コミュニティに言及する建築」の所在地をみると、首都圏、近畿圏、中京圏が多いですが、これ以外に岩手県、宮城県、福島県、新潟県、熊本県が10件以上と多くなっています。これらの件は、新潟県中越地震(2004年)、新潟県中越沖地震(2007年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)と大規模な地震が発生した県という特徴があります。
この記事の冒頭で「震災前から形成されていたコミュニティを引き継げる場として」という表現を紹介しましたが、被災地が復興の過程で建設された建築においてコミュニティが重視されていることの現れと捉えることができます。

建主

「コミュニティに言及する建築」の建主が、都道府県、市区町村、そして、UR都市機構(住宅・都市整備公団、都市基盤整備公団を含む)であるもの、及び、これらを含むものを「公共セクター」の建築と捉えて、その割合の推移をみると、2000年代に掲載された建築では約4割だったのが、2010年代には約3割、2020年代には約2割と少しずつ減少していることがわかります。
このことから、「公共セクター」以外も、建築においてはコミュニティに言及するようになっている傾向をみることができます。

主要用途

従来からコミュニティのための施設としては、集会所、公民館、児童館、コミュニティセンターなどが存在しています。ここでは、地域集会所、児童館、児童文化センター、女性センター、婦人会館、公民館、生涯学習(推進)センター、地区センター、コミュニティセンターなどを「コミュニティ施設」と捉え*2)、「コミュニティに言及する建築」の主要用途が「コミュニティ施設」であるもの、及び、「コミュニティ施設」を含んだ複合施設の割合をみると、1980年、1990年代に掲載された建築では約6割だったのが、2000年代以降に掲載された建築では2割を下回るようになっています。
このことは、従来からの「コミュニティ施設」ではない種類の施設、例えば、学校、病院、福祉施設、オフィスビル、商業施設などでもコミュニティに言及されるようになっていることを現しています。これは当然と思われるかもしれませんが、言い換えれば、従来の「コミュニティ施設」だけがコミュニティを考えるわけではないということで、コミュニティという側面からは施設種別を縦割りで考えることができないということでもあります。

『新建築』は日本の代表的な建築専門誌の1つですが、当然ながら編集方針やテーマに沿って掲載されている建築が選定されており、全ての建築が掲載されているわけではありません。このような制約はありますが、以上で見てきた「コミュニティに言及する建築」の最近のおおよその動向は次のようにまとめることができます。

「コミュニティに言及する建築」は、

  • 徐々に増えつつある。
  • 首都圏、近畿圏、中京圏に加えて、大規模な地震の被災地で建設される傾向がある。
  • 「公共セクター」だけが建築するわけではない。
  • 従来からの「コミュニティ施設」だけとは限らない。

■注

  • 1)ここでみているのは建築の竣工年でなく、『新建築』に掲載された年である。『新建築』に掲載される建築の大半が新築の建築であるため、竣工年と掲載年は近いものとして捉えている。
  • 2)「コミュニティ施設」はしばしば用いられる表現だが、明確に定義されているわけでなく、どのような種類の施設を含むのかは論者によって様々である。そこで、ここでは日本建築学会編『第3版 コンパクト建築設計資料集成』(丸善出版, 2005年)を参考にして、「コミュニティ施設」を判断した。なお、ここにあげた9種類の施設は、『第3版 コンパクト建築設計資料集成』において「集会系施設」として言及されているものである。