千里ニュータウン新千里東町のコミュニティカフェ「ひがしまち街角広場」は、「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」(初代代表の言葉)を目的として、近隣センターの空き店舗を活用して2001年9月30日にオープン。最初の半年間は豊中市の社会実験として補助を受け運営されていましたが、その後は補助を受けない住民による「自主運営」が続けられてきました。
(日常の様子)
新千里東町近隣センターの再開発に伴い、2022年5月末で約21年半にわたる運営を終了、2022年6月末に利用していた店舗の明け渡しを行いました。ここでは、来訪者数の推移という観点から「ひがしまち街角広場」を振り返りたいと思います。
「ひがしまち街角広場」の運営
「ひがしまち街角広場」は新千里東町の住民を中心とするボランティアによって運営されてきましたが、特に来訪者に関することとして次のような特徴があります。
運営日時
運営時間は11時から16時までで、運営日はオープンから2002年1月までは週7日、その後は日曜を除く週6日運営されていました。高齢化しつつある当番の負担を軽減するため2014年5月からは第4土曜が定休日とされました。
2020年3月2日〜5月末まで、新型コロナウイルス感染症の感染防止のために臨時休業とされました*1)。2020年6月に運営が再開されてから、毎週土曜が定休日とされました。そして運営終了に向けて、2021年6月からは水・木曜の11時から16時まで、金曜の11時〜13時までと短縮されました。
(第4土曜を定休日にすることの案内)
「お気持ち料」による飲物の提供
「ひがしまち街角広場」ではコーヒー、紅茶などの飲み物が100円の「お気持ち料」で提供されています*2)。「お気持ち料」の渡し方は、当初はテーブルの上に置かれた貯金箱に自分で入れるようにされていたが、2011年からは貯金箱に入れ忘れる人がいるという理由から飲物を運んできた当番に直接渡すように変更されました。
食事は提供されていませんが、お弁当や購入した食事を持ち込むことは自由とされています。また、学校帰りの子どもたちが水を飲みに立ち寄ることがありますが、水は無料で提供されています。
(飲物のメニュー)
(テーブルに置かれた貯金箱)
プログラムのない場所
社会実験の間は定期的に展示会、フリーマーケット、体験教室などのプログラムが行われていましたが、「自主運営」が始まってからプログラムは次第に行われなくなってきました。
「色んな行事というか、そういうことをやっても、結果的にはやっぱりみんなそのイベントよりも、ここでゆっくりただ座ってお茶飲んでしゃべって行くぐらい。そうなったら、今日はマッサージの日とか、何とかの勉強会の日とか、何とかの講習会の日っていうのは、あまり意味のないことだと思う。」(初代代表の言葉)
「ひがしまち街角広場」が定期的に行なっているのは「ひがしまち街角広場」が定期的に行っていたのは10月の周年記念行事、4月の「竹の子祭り」、「竹林清掃&地域交流会」だけ。他の団体が主催するプログラムとしては、「赤ちゃんからのESDとよなか」による「陶器とりかえ隊」、「千里・住まいの学校」による「街角土曜ブランチ」、歌声喫茶が行われていた時期もあります。
なお、2022年1月からは「ひがしまち街角広場」のスタッフの1人が講師となり、定休日に結束バンドを使ったカゴ作り教室が始められした。その後、編物教室も行われるようになりました。カゴ作り教室、編物教室は2022年5月に運営が終了するまで、ほぼ毎週開かれていました。
(10月の周年記念行事)
(編物教室)
運営時間外の貸切利用
「ひがしまち街角広場」はプログラムが行われない場所として運営されていますが、16時以降と定休日は地域のグループなどへの会場の貸し出しが行われており、会議などに利用されてきました。公共施設と違ってお酒の持ち込みも可能であるため*3)、地域団体の懇親会の会場として利用されることもありました。
運営時間外の貸切利用は有料で、オープン当初は「1回500円」とされていましたが、20011年5月から、「5人までは500円。6人以上は1人増えるごとにプラス100円」と変更(値上げ)されています*2)。その後、2017年10月25日からは人数に関わらず「2時間まで500円、2〜3時間:800円、3〜4時間:1,100円」とさらに変更(値上げ)されました。
(会場使用料変更の案内)
「ひがしまち街角広場」の来訪者
来訪者の特徴
「ひがしまち街角広場」の運営日時が月〜土曜の昼間ということもあり、来訪者の中心は新千里東町に住む高齢の住民です。これまで何度も「ひがしまち街角広場」で目にした光景から、来訪者の特徴として次の点をあげることができます*4)。
- 来訪者は女性が多いが、男性もやって来る。男性は表のテーブルで過ごす人が多い*5)。
- ほとんどの来訪者が徒歩でやって来るが、自転車でやって来る人もいる。*6)
- 何人かで連れ立ってやって来る人もいれば、1人でやって来る人もいる。
- 1人でやって来る人の中には、必ずしも1人だけで過ごすことを考えてやって来るのではなく、「ひがしまち街角広場」に来れば知り合いが来ているだろうと考えて来る人もいる。そのため知り合いに会えないこともある。このような訪れ方は、「待ち合わせ」とは異なっている。
- ほとんどの人が話をして過ごすが、1人で過ごす人もいる。ただし、1人で過ごす人もずっと1人だけで過ごすのではなく、他の来訪者や当番と話をする時間もある。
- 他の曜日に当番を担当している人も、来訪者としてやって来ている。
- 当番は、忙しくない時は来訪者と同じテーブルに座って話をすることもある。
- 来訪者の中には午前と午後の2回やって来る人、何時間も過ごす人もいる。飲物をお代わりする人もいる。
- 15時55分に入って来る人など、運営時間の終了間際にやって来る人もいる。
- 運営が終了する16時00分になっても、まだテーブルに座って話をしている人がいる。当番も、無理に帰ることを急かすわけではない。
- 会話が行われる場合、隣に座っている人と話す人、話をするためテーブルを移動する人、テーブル越しに会話する人など、会話のグループは頻繁に入れ替わる。全員が同じ会話に参加する時間帯もある。
先に書いた通り、来訪者の中心は新千里東町に住む高齢の住民ですが、近隣センターのすぐ隣にある幼稚園に子どもを預けている母親が集まることもあります。
(1人で過ごす人もいる)
(表のテーブルで過ごす男性)
(幼稚園に子どもを預けている母親)
(学校帰りに水を飲みに立ち寄る子ども)
(近隣センター前の歩行者専用道路)
来訪者数の推移
(注)来訪者数について
■来訪者のカウント方法
- 来訪者数は1日の「お気持ち料」の合計を100(※「お気持ち料」は100円)で割って計算している。そのため、飲物を2杯注文した人は2人とカウントされている。
- 水を飲みに立ち寄る子どもなど飲物を注文しない人、運営時間外の貸切利用をした人はカウントしていない。ただし、2022年1月から始まったカゴ作り教室、編物教室の参加者はカウントしている。
- 4月の竹の子祭り、竹林整備・地域交流会、10月の周年記念行事の参加者数や、8月の夏祭り、10〜11月のキャンドルロードなど地域の行事にあわせてオープンした時の来訪者数はカウントしていない。
■来訪者数のデータ
- 2001年は10〜12月の3ヶ月、2022年は1〜5月の5ヶ月間のデータ。
- 2009年6月〜2011年7月、2021年2月17日〜2021年4月15日は日誌が見つからず来訪者をカウントできなかった。
- 2007年4月、2011年4月、2015年4月は豊中市議会議員選挙の事務所に使われたため臨時休業。
- 2020年3月2日〜5月31日、2021年1月18日〜2月16日、2021年4月16日〜6月22日、2021年8月18日〜9月30日は新型コロナウイルスの感染防止のため臨時休業。
来訪者数(1日の平均来訪者数)のグラフを見ると、オープン直後の2001年は平均来訪者が約39.3人でしたが、2002年には約29.7人人減少しました。年間の平均来訪者数が30人を下回ったのは2002年だけです。「ひがしまち街角広場」は2002年4月から住民による「自主運営」がスタートしましたが、当時は、オープン当初に比べると来訪者が減少していた時期だったことがわかります。
この後、2005年にかけて来訪者は増加し、2005年には平均来訪者が40人を超えるようになりました。
(移転前の様子)
当初から活用していた空き店舗の契約が切れたのに伴い、2006年5月には同じ近隣センターの別の空き店舗に移転しました。
(移転直後の様子)
2006年になると平均来訪者数は減少。2007年から2016年の10年間(ただし、2010年はデータが無い)は、平均来訪者が30〜35人の間を推移しています*7)。
「自主運営」が始まって以降、「ひがしまち街角広場」は補助金を一切受けることなく、家賃、水道光熱費、コーヒー豆代など全ての費用は、主として飲物の100円の「お気持ち料」で賄ってきました*8)。このことは、来訪者数が減少することは、運営費の不足につながることを意味します。実際、来訪者が以前より減少していたこの時期には運営費をどう確保するかという議論がされています。「お気持ち料」をテーブルの上の貯金箱に自分で入れるのではなく当番に直接渡すように変更されたのも、運営時間外の貸切利用の料金が変更されたのも2011年と、いずれもこの時期の出来事です。
このように来訪者が減少していた時期がありましたが、2017年に入ると来訪者は再び増加し、2018年には平均来訪者数が約44.4人と最も多くなりました*9)。
2020年に入ると来訪者数は減少していますが、これは新型コロナウイルス感染症の影響が大きいと考えています。「ひがしまち街角広場」は感染防止のため、2020年から2021年にかけて4回、臨時休業の期間をもうけました。
そして、運営終了に向けて2021年6月からは水・木曜の11時から16時まで、金曜の11時〜13時までと短縮されました。定休日が増えましたが、興味深いことに2022年1月からは定休日にカゴ作り教室、編物教室が始められ、2022年5月末の運営終了までほぼ毎週続けられました。ただし、2021〜2022年も平均すると1日に32〜33人は訪れ続けています。
(感染防止のため紙コップが利用)
運営が終了する2022年5月には閉店感謝デーが開かれ、2022年5月1日〜20日まで利用できる飲物の無料券が配布されました。日誌によると無料券は、2022年5月5日〜31日の期間のうち20日間で、96枚が利用されています。無料券を使えるのは1人1回であることから、この1ヶ月間に少なくとも96人(延べ人数ではない)が訪れていることがわかります。
(閉店感謝デーの無料券)
「ひがしまち街角広場」の来訪者数を見てきました。日誌で確認できる全期間の来訪者を集計すれば*10)、延べ来訪者数は168,892人、平均来訪者数は35.6人/日となります。ただし、日誌が見つからなかった期間があるのに加えて、飲物を注文していない子ども、運営時間外に貸切利用した人などはカウントしていないため、実際の来訪者はこれよりは多くなります。
「ひがしまち街角広場」は約21年半の運営を通して、1日に約35.6人が訪れ続けてきた。プログラムを行えば一時的には多くの人を集めることは可能かもしれません。しかし、「ひがしまち街角広場」ではプログラムはほとんど行われてこなかった。それにも関わらずこれだけの人数の人々が訪れ続けてきたのは、当初に掲げた「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」(初代代表の言葉)にするという目的が、地域の切実な状況に対応するものだったからだと言えます。
「ひがしまち街角広場」が運営を終了したことで、これまで訪れていた人が行く場所がなくなってしまうことを心配する声があげられています。このことは翻って、20年以上が経過しても地域には「ひがしまち街角広場」以外には「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」が生まれていないことの表れと言えるかもしれません。
■注
- 1)ひがしまち街角広場」では2020〜2021年にかけて、新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、計4回の臨時休業期間がもうけられた。
- 2)オープン当初は必ずしも100円ではなかったが、運営を通して100円が定着したという経緯がある。
- 3)移転後の「ひがしまち街角広場」のすぐ隣の店舗は、「いなごや酒店」という酒屋である。
- 4)新型コロナウイルス感染症の感染防止のためにテーブルの数は減らされたが、当番や来訪者の過ごし方は大きくは変わっていない。新型コロナウイルス感染症の発生後の様子はこちらを参照。
- 5)表のテーブルは喫煙可能である。
- 6)新千里東町は住区内の主な場所を結ぶ歩行者専用道路があり、近隣センターも歩行者専用道路に面している。ただし、再開発によって近隣センターは歩行者専用道路から少し外れた場所に移された。
- 7)プログラムが行われていない場所に毎日、平均して30人を超える人々が訪れ続けてきたことは特筆すべきだが、以前より来訪者が減少した背景には、多くの来訪者が住んでいた府営新千里東住宅の再開発が始まり、一部の住民が他地域に仮移転していたという理由を考えることができる。
- 8)ボランティアは、無償ボランティアであるため人件費は必要ない。
- 9)この時期に来訪者が増加した背景についても検証が必要だが、この頃には高齢の男性の来訪者が増えてきたという話を聞いたことがある。新千里東町の高齢化が進む中で歩いて行ける範囲にある場所がより必要とされている可能性がある。また、2018年1月には府営新千里東住宅を再開発した府営豊中新千里東住宅の第2期が竣工している。
- 10)日誌が見つからず来訪者をカウントできなかった2009年6月~2011年7月、2021年2月17日~2021年4月15日の期間を除く。
(更新:2022年9月21日)