『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

既存の空間をリノベーションして開かれた地域の場所

多彩な活動の重ね合わせ

先日、大阪府堺市の泉北ニュータウンを訪問しました。泉北ニュータウンは、1967年にまちびらきが行われた日本で2番目の大規模ニュータウン。今回訪問したのは泉北ニュータウンの槇塚台、茶山台、高倉台ですが、槇塚台では泉北ほっとけないネットワークによって開かれた「槇塚台レストラン」、府営住宅の住戸をリノベーションしたサポート付共同住宅を、茶山台では、大阪府住宅供給公社・茶山台団地の集会所をリノベーションした「茶山台としょかん」、府営住宅の住戸をリノベーションした「DIYのいえ茶山台」、「やまわけキッチン」を見学させていただきました。また、土曜日のため中に入ることができませんでしたが、「やまわけキッチン」の向かいの住戸には「茶山台ほけんしつ」があります。高倉台では、大阪健康福祉短期大学堺・泉ヶ丘キャンパスが高倉台西小学校跡地に開校するのにともなって開かれた「泉北ラボ」を見学させていただきました。

(槇塚台レストラン)

(茶山台としょかん)

(DIYのいえ茶山台)

(やまわけキッチン前の道案内)

(泉北ラボ)

泉北ほっとけないネットワークについては、槇塚台レストランを単独で運営するのでなく、配食、居酒屋、子育て支援、地元でのハロウィンなど、地域で求められていることに柔軟に対応し、多彩な活動の「合算」としてプロジェクトを進めてきたという話を伺いました。
茶山台については、最初は1つの居場所にみなを集めようとしていたが、小さくてもいいから共通する趣味や特技をもつ人々による「小さなチーム」を作ればいいと考えるようになったこと、世代によってニーズが異なるため、ニーズが高いことでなく、今できることから取り組みを始めたこと(これが「やまわけキッチン」オープンにつながる)、住まい方、暮らし方の意識の変化を受けて、自治会やPTAではないかたちで「友だち」を作れる機会を作ることを考えているという話を伺いました。
泉北ラボについては、地域の孤独や孤立を防止することを目的としているものの、まちづくりやという雰囲気を出さず、カフェ、ランドリー、まちライブラリー、コミュニティフリッジ(食料品・日用品の寄付/受け取り)、コワーキングスペースなど人々が訪れるための多彩なきっかけのある場所として運営しているという話を伺いました。また、地域には「企て」が生まれる場所が必要だという話も印象に残っています。

最初からまちづくりを意識することなく、結果として地域での暮らしに不可欠なことが実現されている場所であること、そのためにも、1つの場所(居場所)を単独で運営するだけでなく、地域の状況に応じた多彩な活動を徐々に生み出し、重ね合わせていくという柔軟性が求められること。今回、泉北ニュータウンを訪問して感じたことです。

既存の空間のリノベーション

これらの興味深い場所は、泉北ラボを除いて全て既存の空間をリノベーションして開かれています。

  • 槇塚台レストラン:近隣センターの店舗のリノベーション
  • サポート付共同住宅:府営住宅の住戸のリノベーション
  • 茶山台としょかん:府公社住宅の集会所のリノベーション
  • DIYのいえ茶山台:府公社住宅の住戸のリノベーション
  • やまわけキッチン:府公社住宅の住戸のリノベーション
  • 茶山台ほけんしつ:府公社住宅の住戸のリノベーション

今回、泉北ニュータウンを訪れて何度か、「千里ニュータウンは集合住宅の建て替えができて羨ましい」という話を伺いました。この言葉の通り、近年、千里ニュータウンでは立地の良さもあり、大規模な集合住宅の建て替えが行われ、一時は減少していた人口が増加に転じています。
千里ニュータウンの全てを確認したわけでありませんが、新築された集合住宅(分譲マンション)には、泉北ニュータウンで見学したような場所がどんどん誕生しているわけではないように思います。集合住宅の建て替えによって、子ども、子育て中の人が増えており、同時に、後期高齢者の割合は上昇し続けている。だとすれば、泉北ニュータウンで見学したような場所がどんどん生まれていいはずなのに、そうはなっていないかもしれない。

建て替えがいいか、リノベーションがいいかを一概に言うことはできませんし、建て替えを否定するわけでもありません。ただし、日本で最初の大規模ニュータウンである千里ニュータウンの知見を、他のニュータウンに伝えることを考えた場合に、どのような知見を伝えることができるのか。立地が良いから建て替えが進んでいるとすれば、ニュータウンは立地が良い土地に開発するのが重要だということしか言えない。このような思いが頭をよぎり、「千里ニュータウンは集合住宅の建て替えができて羨ましい」というコメントに対して、返答に窮してしまいました。

このコメントに対して、今でも答えをもっているわけでありませんが、千里ニュータウンにおける建て替えについて、次のことは伝える必要があるかもしれないと考えています。
1つは、近年の千里ニュータウンにおける建て替えは、一度しか使えない手法である可能性があること。近年の千里ニュータウンにおける建て替えは、簡単に言えば、集合住宅を高層化する(密度を上げる)ことで生み出した住戸や土地を売却することで、建て替えの費用を賄うという手法で行われています。これによって集合住宅が高層化してしまったため、将来的に同じ手法はもう使えない可能性があります。

(再開発前の北千里駅前)

(再開発後の北千里駅前)

もう1つは、一部の集合住宅(分譲マンション)を除いて、ゲート型(オートロック式)の集合住宅になったことで、住民以外は自由に立ち入りできなくなってしまいました。泉北ニュータウン茶山台の「茶山台としょかん」、「DIYのいえ茶山台」、「やまわけキッチン」、「茶山台ほけんしつ」は誰でも自由にアクセスできますが、ゲート型の集合住宅では、誰でも自由にアクセスするということが難しくなる。ゲート型にする目的は安全のためと説明されますが、これによって、地域の場所に自由にアクセスできることを犠牲にしているとも言えます。

1度しか使えない手法による建て替えは、共有の財産を時間という意味で先取りして、食い潰してしまっていること。ゲート型の集合住宅とは、共有の財産を空間という意味で囲い込み、私有化してしまっていること。千里ニュータウンの建て替えで起こっているのは、共有の財産を痩せ細らせることと言えるかもしれません。

もちろん、これは勝手な思い込みの可能性かもしれませんし、そうであればよいと願いますが、これは何十年か経過したときに、改めて検証すべきことだと考えています。