『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

住み慣れたニュータウンに住み続けるために:東京都江戸川区なぎさニュータウン

東京都江戸川区に「なぎさニュータウン」があります。1,234戸、3,000人が暮らす分譲マンションで、入居開始は1977年です。
「なぎさニュータウン」に限らず、ニュータウンには同じ世代の人が一斉に入居する傾向があるため、高齢化も急激に進むという傾向がみられます。現在、「なぎさニュータウン」の高齢化率は約38%だとのこと。

「なぎさニュータウン」では「なぎさ虹の会」という認定NPO法人が活動しています。活動の目的は、「なぎさニュータウン」とその周囲の高齢者が、住み慣れた地域で暮らし続けることを実現すること。「なぎさ虹の会」の前身は、「なぎさニュータウン」の住民が、1999年に設立した自治会員同士の「なぎさ助け合いの会」。この後、次のように様々な活動を重ねてきた団体です。


「なぎさ虹の会」沿革

  • 1999年:自治会員同士の「なぎさ助け合いの会」発足
  • 2004年:「特定非営利活動(NPO)法人なぎさ虹の会」として法人化する
  • 2005年:介護保険指定サービス事業所「NPO虹の会介護ステーション」を開始
  • 2005年:江戸川区より「高齢者等福祉拠点」を貸与され、コミュニティ施設運営を開始
  • 2006年:介護保険居宅支援事業開始
  • 2006年:障害者自立支援事業開始
  • 2007年:福祉用具貸与・販売事業開始(2014年終了)
  • 2010年:通所介護「NPO虹の会デイサービス」開始
  • 2012年:コミュニティカフェ「虹の空」オープン
  • 2013年:認定NPO法人取得・障害者相談支援開始
  • 2016年:地域密着型デイサービスへ移行

「なぎさ虹の会」の事業

  1. 助け合い事業:困ったときに助け合う会員制システムです。利用者も活動者も入会金1,000円、年会費2,000円をお願いします。
  2. すこやか事業:趣味や健康増進、介護予防、認知症予防の為、ふれあい、楽しく過ごします。
  3. 介護保険事業:住み慣れた地域で、生き生きと自分らしい生活を送ることができるよう、介護専門のプロがサービスを行います。
  4. 障害者総合支援事業:障害者が地域で安心して自分らしく暮らせるよう、介護福祉士・ヘルパーがお手伝いします。

*「なぎさ虹の会」リーフレットより


「なぎさ虹の会」設立のきっかけでもある会員制の助け合いでは、

  • 支援活動:掃除、洗濯、料理、買い物などの「生活支援」、散歩付添い、話し相手などの「介護支援等」、「外出支援」、パソコン技術支援、美容、カットなどの「技術支援」
  • 育児支援活動:子どもの一時預かり、産前・産後のお世話など
  • 相談活動:子育てや育児、介護、各種手続きの相談など

が行われています。利用者も活動者も共に会員に入会するとともに、利用者は内容に応じた謝礼を活動者に支払うという仕組みが取られており、現在、会員数は約400人だとのこと。
「なぎさ虹の会」の方に、前身となった「なぎさ助け合いの会」を立ち上げたきっかけを伺ったところ、介護保険では決められたことしかできず、ちょっとした困り事を頼むことができないという状況があったとのこと。そこで、当時の自治会、管理組合の役員で、「なぎさ虹の会」を終の住処にするためには、助け合いの仕組みを作る必要があるという話をされたとのことです。
会員制の助け合いにおいて考えられたのは、助ける側と助けられる側とが対等な関係である関係を作りたかったということ。高齢になっても、いつも一方的に助けられる存在としてではなく、それまで地域で一生懸命生きてきた存在であることが尊重され、けれどもこの部分ができなくなったから助けてもらうことができる。このような仕組みにしたかったと伺いました。

2010年から行われているデイサービスについても、住み慣れた地域にデイサービスがあれば、地域の人々との関係を継続できるという考えから始めることになったとのことです。

2012年にはコミュニティカフェ「虹の空」が開かれました。「虹の空」は「なぎさニュータウン」の敷地外で運営されています。あえて「なぎさニュータウン」の敷地外を選んだ理由は、通りすがりの様々な人に立ち寄ってもらうことが目的だとのこと。もし、「なぎさニュータウン」の敷地内に作っていたら、決まった人しか来ず、仲間だけのたまり場になっていた可能性があるという話。
「なぎさ虹の会」では、「虹の空」を試行錯誤しながら運営してきたということですが、現在は月曜〜金曜まで運営されており、午前中は朗読会、社協とストレッチ、ロコモ体操と脳トレ、うたごえ喫茶、笑いヨガ&椅子ヨガ、コグニサイズ、気功クラブなどの「カルチャータイム」が行われています。そして、12時〜16時までは「カフェタイム」としてコーヒーや紅茶、甘酒(いずれも250円)、アイスコーヒー(300円)、手作りケーキ(250円〜)などが提供されています。
毎月第4木曜の13時〜15時は「熟年相談室 みどりの郷福楽園」によるオレンジカフェが開催。オレンジカフェとは認知症の方やその家族の方が地域の人々とお茶を飲みながらゆっくりくつろぐと共に、専門家による相談を受けることができる場所です。

このように「なぎさ虹の会」では多様な活動が展開されていますが、話を伺って感じたのは、いずれの活動にも、地域で共に暮らしてきた人々が、住み慣れた地域に住み続けるようにしたいという思いが通底していることです。会員制の助け合いも、デイサービスも、コミュニティカフェ「虹の会」もそのための仕組み。
「なぎさ虹の会」では、介護保険の枠組にはおさまりきらない多様な活動が行われていますが、これを介護保険から漏れ落ちた部分の補完だと捉えることは正しくないのだろうと思います。まず介護保険があって、それを補完するのではない。逆に、まずは「なぎさ虹の会」で大切にされている地域での暮らしがあり、介護保険などの制度はその暮らしの一部分を切り取っているに過ぎないということです。制度によって暮らしが断片化されないようにするためにも、「なぎさ虹の会」のような地域での暮らしを大切にする活動が求められているのだと思います。

1977年に入居が始まった「なぎさニュータウン」は、1962年から入居が始まった千里ニュータウンより15年若いニュータウン。同じニュータウンという名前がついていても、千里ニュータウンは大阪府吹田市・豊中市にまたがる戸建住宅地を含む町であるのに対して、「なぎさニュータウン」は分譲マンションという違いがあります。
今回「なぎさ虹の会」の方からは、「なぎさニュータウン」では同じ世代の人が一斉に入居したこと、この第一世代の人々はニュータウンという町を作るところから活動を重ねてきたこそ、それが現在の活動につながっているという話を伺いました。こうした状況は、例えば、千里ニュータウン新千里東町のコミュニティカフェ「ひがしまち街角広場」の運営には、第一世代の人々がそれまで行ってきた活動の積み重ねの延長にあることと共通点があることに気づかされました。