『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

みま〜も:医療と介護の連携を越えた地域での暮らし続けるためのネットワーク

東京都大田区で行われている「おおた高齢者見守りネットワーク」(愛称:みま〜も)という活動を、少し前、訪問・見学させていただく機会がありました。

「みま〜も」とは「地域のすべての人たちによる「見守り支え合いのネットワーク」と、医療・福祉・介護専門職による「支援のネットワーク」の有機的な連携により、高齢者が安心して暮らし続けられる地域づくりを目指」す活動(*「みま〜も」ウェブサイトより)。

非常に多様な活動が展開されていますが、2008年4月、地元の牧田総合病院の専門職と地元の百貨店「ダイシン」の社員が「大田北高齢者見守りネットワークをつくる会」を設立したのがきっかけ。ウェブサイトには設立のきっかけとして、「急速に高齢化が進んでいく大都市部において、地域包括支援センターが介護保険制度の枠組みの中で1つ1つの相談に「もぐらたたき」的に対応しているだけでは、高齢者が安心して暮らせる地域は実現できない」(*「みま〜も」ウェブサイトより)という問題意識があったと書かれています。

高齢者を対象とする活動の設立に、なぜ百貨店が関わっているのかと思われるかもしれませんが、「何十年も夕方になるとダイシン〔百貨店〕に買い物に来ていた」という生活習慣を何歳になっても続けて欲しいという地元に密着した百貨店だからこその思いがあり、それが結果として高齢者の地域での暮らしを支えると同時に、百貨店の運営を成立させることにもなるのだと。
設立に地元の百貨店が関わったことに加えて、「みま〜も」は地元の企業の協賛によって活動資金(の一部)を得ており、現在、協賛企業は94。企業からの協賛を受けることの意義について、次のような話を伺いました。
高齢者というと医療と介護の連携だと考えられる傾向にあるが、医療と介護の専門職だけで連携するのは身内で活動するようなもので、どうしても介護予防という話になってしまう。現在社会において、医療と介護の専門職に求められているのは、地域に出て、何が求められているのかを知ること。
活動に様々な得意分野をもつ企業に入ってもらうと、活動が一気に豊かになる。企業が「みま〜も」に協賛することの意味は、「みま〜も」のパンフレットやチラシに企業名が載る広告効果という狭いものではなく、日常的に高齢者と関わることで、ニーズを知ることができ、超高齢社会を迎える時代において、地域に密着しながら経営を成立させるための数多くのヒントが得られること。
「みま〜も」では個人からの協賛は受けつけておらず、団体としての協賛を受けつけていること。いくら活動に協力的な個人であっても、所属する団体の理解がなければ「みま〜も」に自由に出入りしにくい。それに対して、所属する団体が協賛してくれたなら、そこに所属する個人は堂々と「みま〜も」に出入りできるからだと考えられてのことです。

「みま〜も」で目指されているのは、高齢者が元気なうちから、医療や介護の専門職、地元の企業と日常的に出会えることであり、同時に、医療や介護の専門職、企業が地域の高齢者と日常的に出会えること。こうした話を伺い、「みま〜も」では何歳になっても地域で暮らし続けることを徹底して大切にするものだと気づかされました。

これまで「みま〜も」では次のような活動が行われています。

地域づくりセミナー(2008年5月〜)
「みま〜も」の前身である「大田北高齢者見守りネットワークをつくる会」の頃から行われているもの。地域の専門職や企業の人に講師になってもらうという地域密着型で行われているセミナーで、参加者は100人を越えるとのこと。
ウェブサイトには、当初想定していたセミナーの参加者は高齢者を支える側の若い世代や民生委員だったが、実際には70〜80代の高齢者の参加者が多かったこと、70〜80代の高齢者は一見すると支えられる側の存在だと思われがちだが、高齢になっても互いに見守るという意識を持ってセミナーに参加していることがわかったと書かれています(*「みま〜も」ウェブサイトより)。

SOSみま~もキーホルダー(2009年8月〜)
「地域づくりセミナー」がきっかけとなり始められたもので、自分自身の個人情報と、担当の地域包括支援センターの連絡先が書かれたキーホルダーを持つという取り組み。個人情報の更新と、地域包括支援センターとの関係の更新の意味もこめて、年1回、誕生月に担当の地域包括支援センターで情報更新することが原則とされています。
「SOSみま~もキーホルダー」は2012年4月から「大田区高齢者見守りキーホルダー事業」として、大田区の事業となり、大田区全域の65歳以上すべての住民にキーホルダーが手渡されています。さらに、このキーホルダー事業は全国の自治体にも広がっています。

みま〜もステーション(2011年4月〜)
「地域づくりセミナー」の参加者は100人を越え、一見すると大成功に思えたが、参加する高齢者にとっては専門職や企業が講師となるセミナーに「お客さん」として来ているだけではないのか? 主体をもって活動に関わってもらうのはどうすればいいか? こうした問題意識から、商店街の無料休憩所「アキナイ山王亭」とその裏にある新井宿第一児童公園を拠点とするサロン事業として始められたのが「みま〜もステーション」です。

「アキナイ山王亭」は商店街の空き店舗を活用した無料休憩所であり、「みま〜も」はここで様々な講座や活動を開催。例えば、「日本文化と脳トレ講座」、「シニアのためのパソコン教室」、「手話ダンス部」、「手芸部」、「ポールdeウォーク学校」など様々な講座や活動が行われています。

空き店舗のすぐ裏の新井宿第一児童公園は、大田区のふれあいパーク活動事業として「みま〜も」が管理運営を行うこととされました。商店街の裏とJRの線路に挟まれた細長い公園は、かつては人気がなく、荒れ果てた公園でしたが、「みま〜も」が管理運営するようになってから蘇ったとのこと。この後、大田区によって全面改修されることに。全面改修に際して、「みま〜も」からは公園に農園と健康器具を設置して欲しいという要望を出し、いずれも実現。2014年4月、公園はリニューアルオープンしています。
現在、公園では毎週火曜の10:30〜11:30まで公園体操が行われたり、毎週月・水・金曜の9時〜10時まで「みま〜もファーム」という農園での野菜作りが行われたりしています。訪問した日はちょうど公園体操が行われており、30人ほどの高齢者が参加。講師は牧田総合病院の専門職の方がつとめておられました。以前は人気がなかった公園も、今では子どもたちが遊べる場所となっており、高齢者が公園体操をしている隣では、保育園の子どもたちが遊んでいる光景が見られました。

「みま〜もステーション」の活動に応援団として関わっているのが「みま〜もサポーター」という地域の高齢の方々。「みま〜もサポーター」は講座に参加したり、講師をつとめたり、公園の手入れ、野菜つくりなどに関わっているとのこと。活動に主体的に関わってもらうため、「みま〜もサポーター」は登録料を払って登録することにされているということです。

まちづくりが元気!おおた登録事業(2014年8月〜)
「SOSみま~もキーホルダー」が高齢者が元気なうちから医療や介護の専門職と直接つながる仕組みであるのに対して、「まちづくりが元気!おおた登録事業」は高齢者が元気なうちから企業・事業所と直接つながるための仕組み。登録した企業・事業所は「まちづくりに向け、自分たちにできることは何か」を話し合い、地域へのメッセージとしてステッカーに記入。これを皆の目の届く所に掲示するというもの。
例えば、「地域包括支援センター入新井」では、表には「私たちは、まちづくりに取り組んでいます。急な雨でお困りの際、傘 お貸しします」というメッセージが書かれたステッカーが掲示されているのを見かけました。

元気かあさんの見守り食堂(2015年6月〜)
「みま~もサポーターが、この地域の“かあさん”として、お食事をご提供! 誰でも気軽に立ち寄れて、ゆっくり過ごせる場所」(*「みま~もステーション」リーフレットより)として、毎週金曜の11時〜13時まで「アキナイ山王亭」で運営されている食堂で、管理栄養士が考案した500円の定食(1日20食限定)と100円の珈琲が提供されています。
ウェブサイトには、「元気かあさんの見守り食堂」は「みま〜もサポーター」がステップアップした活動と紹介されています。「それまでのサポーターの活動目的は、「自分の楽しみや健康、生きがいのため」が中心でした。それは介護予防の第一歩としてとても重要な事です。しかし私たちは、そこをゴールにはしていませんでした。サポーターである高齢者自身も地域をつくる担い手になるような働きかけを、少しずつしていきました。その際気をつけたことは、「無理強いをしない」こと。まずはサポーター自身の満足感・幸福感が満たされることが第一です。自身が満たされると、不思議なことにこちらからお願いするまでもなく、「人のために何かをしたい」と、気持ちは自然と周囲に向かってきたのです」(*「みま〜も」ウェブサイトより)。

自身の満足感・幸福感から地域を良くする活動への広がり。これは最初から想定していたのかと「みま〜も」の方に伺ったところ、活動を考えるうちにこう考えるようになり、活動の幅が広がってきたという話でした。

おおもり語らいの駅(2017年5月〜)
最近、新たに生まれたコミュニティ・カフェ。元々、床屋だった店舗を活用した空間で、中央にテーブルがあり、道路側には子どもが遊べるコーナー、カウンター下には図書が並んでいました。家賃等は牧田総合病院が負担。スタッフも牧田総合病院に勤める看護師、介護福祉士、社会福祉士、管理栄養士、薬剤師などが日替わりで担当。月曜~金曜まで運営されており、次のように「カフェタイム」、「チャレンジタイム」、「グループタイム」の3つの時間がもうけられています。

  • カフェタイム:10時~13時、10時~15時、10時~16時など、時間は日によって変わります。メニューはカフェ(150円)、カプチーノ(200円)、煎茶(掛川・知覧・八女)(150円)、ジュース(150円)、蒸しパン饅頭(100円)、マフィン(150円)など。
  • チャレンジタイム:健康・病気・生活習慣など、より良く暮らすための講座。訪問した日は、協賛企業の方による「美味しい煎茶の入れ方講座&カジュアル抹茶」が行われており、午前中、公園体操に参加されていた女性が何名か来られていました。
  • グループタイム:17時~21時まで、専門職や地域団体に打合せ、食事会の場所としてスペースの貸し出しが行われています。

「おおもり語らいの駅」にも「まちづくりが元気!おおた登録事業」のステッカーが掲示されており、「5月、6月は、暑さにからだが慣れていないので、熱中症に注意が必要です!! 麦茶・冷たいタオルのご用意あります。お気軽にどうぞ」と書かれていました。

「みま〜も」ではこのように多様な活動が展開されていますが、上に書いた通り、いずれの活動も、何歳になっても地域で暮らし続けることを実現するための仕組み。

「みま〜も」を訪問して気づかされたのは、地域とは歩いたり、顔見知りの人と出会ったり、買い物をしたり、病院、図書館などの施設に行ったりと様々なことが行われる場所であり、医療や介護との関わりは(もちろん重要だとしても)地域での暮らしのごく一部だということです。何歳になっても地域で暮らし続けるとはどういう状態なのかを、それぞれの地域ごとに考えていく必要があると実感させられました。

もう1つ気づかされたのは、高齢者が主体性をもって活動することについて。
現在、高齢者が主体性をもって地域に関わることが重要だとしばしば指摘されますが、なぜ高齢者の主体性が求められるのかに立ち戻って考える必要があるのではないかと考えさせられました。それはもしかしたら、高齢者が暮らしにおいて医療や介護の比重が大きくなり、施設において専門職から一方的なサービスを受ける存在になっているという状況があるからではないのか。施設においてはサービスを提供する専門職と、サービスを受ける高齢者という明確な役割があったとしても、地域においては誰もが対等な個人同士。それぞれできることが違っても、自分にできることを通して助けたり/助けられたりできる関係を築くこと。これが、何歳になっても地域で暮らし続けることなのかもしれません。
「みま〜も」が目指している何歳になっても地域で暮らし続けることができること。こうした状況自体が、現在社会において自主性という言葉によって目指されている姿ではないか。「みま〜も」を訪問させていただき、このようなことを考えさせられました。