『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

マングローブを活用したエコツーリズム@フィリピン・オルモック市

フィリピン・オルモック市のバゴング・ブハイ(Barangay Bagong Buhay)では、高齢者を中心とする住民の手によってIbashoプロジェクトが進められています。
プロジェクトのメンバーはペットボトルのリサイクル、農園での野菜の栽培・収穫した野菜の販売、調理した食事を販売するモバイル・カフェなどの活動を行ってきました。また、まだ実現していませんが財布、ポーチ、帽子などの編み物の制作・販売をするという話も出されています。これらの活動の実施においては、地域の課題解決を通して生活環境を改善すること、生計を立てることにつながり、また、プロジェクトの収入となることで持続可能性を実現することが考えられています(ライブリフッド ・プロジェクト/Livelyhood Project)。


バゴング・ブハイのIbashoプロジェクトの参考にするため、2018年2月20日(火)、同じオルモック市のナウンガン(Barangay Naungan)で活動するNSJMPA(Naungan San Juan Mangroves Planters Association)のマングローブ・エコツーリズム・パークを訪問しました。

ナウンガンの海岸から2~3人乗りのボートに乗ってマングローブ・エコツーリズム・パークへ。竹の通路が張り巡らされており、いくつかのコテージが建てられています。東屋でNSJMPAの代表の女性から話を伺いました。

この地域はかつてはマングローブが生育していましたが、1980年代には開発によりマングローブは消滅。また、違法な漁も行われていたとのこと。
こうした地域の状況の中、1991年、NSJMPAはフィリピンの環境天然資源省(DENR=Department of Environment and Natural Resources)のプログラムからの助成を受けて、マングローブの植林をスタート。このプログラムはコミュニティに対する助成であり、3つの地域(Barangay)からボランティアを募って活動をスタートしたとのこと。マングローブの植林は成功したため、現在はマングローブをいかしたエコツーリズムと、違法な漁の見回りが主な活動になっているという話でした。

エコツーリズムとして、マングローブ・エコツーリズム・パークを訪問した人々に対してバード・ウォッチング、マングローブのツアー、マングローブで獲れたシーフード料理の提供、カヤック、パドルボート、マングローブ内の水泳、ピクニック、日光浴、釣り、マングローブの植林などのプログラムが提供されています(有料。料金はプログラムによる)。

Ibashoフィリピンのメンバーは、どんな活動をしているか? どんな課題があるか? 活動資金はどうしているか? などを質問。話を伺った後、エビ、カニ、魚など新鮮な魚介類の食事をいただきました。この日はIbashoのメンバー以外にも、何組かが視察に訪れていました。

Ibashoのプロジェクトが行われているバゴング・ブハイ(Bagong Buhay)という名前は「新しい生活」の意味で(Bagongは新しい、Buhayは生活)、名前の通り比較的新しく開発された地域。1991年のオルモック市の大洪水で被災した人々も多く移り住んでいます。新しく開発された地域であるがゆえに、バゴング・ブハイにはマングローブという自然環境・生態系の財産はありません。それでは、バゴング・ブハイにおいてマングローブに相当するものは何なのか? それは他の自然環境かもしれませんし、物かもしれませんし、場所、歴史かもしれません。あるいは、人間関係なのかもしれません。Ibashoプロジェクトが、バゴング・ブハイの財産を発見するきっかけになればと思います。


2018年6月24日(日)、バゴング・ブハイのIbashoプロジェクトのメンバーに加えて、ネパール・マタティルタ(Matatirtha)村のIbashoプロジェクトのメンバー、大船渡の「居場所ハウス」のメンバーらと、マングローブ・エコツーリズム・パークを再訪しました。この日は天気も良く、日曜だったためか、マングローブ林の中でピクニックをしたり、泳いだりしたりする人々を見かけました。

この時にもNSJMPA代表の女性から話を伺いました。特に次のような話が印象に残っています。

  • NSJMPAは3つの地域(Barangay)が参加しているが、中心になっているのは2つの地域。残りの1つの地域は農業が中心で、マングローブの重要性を十分に認識していなかった。
  • NSJMPAの活動はボランティア。マングローブが再生したという利益は受けているが、活動に参加することによる直接の金銭的なメリットはない。
  • 20年以上の活動を継続できたモチベーションは、マングローブを保護すること自体だけでなく、魚が再び獲れるようになったことが大きい。漁獲量は目に見えて増えてきた。
  • NSJMPAのメンバーの中心は高齢の世代であるため、現在、18歳以上の若い世代を対象としてトレーニングを行なっている。若い世代と高齢者が共に活動している。
  • 自分たちが直面する課題は違法な漁であるが、これは、違法な漁の背後にある資本主義がもたらすものである。

(更新:2018年7月3日)