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ベッドタウンとしての千里/様々な世代の生活の拠点となる本来の「ニュータウン」を目指す泉北

都市住宅学会の機関誌『都市住宅学』102号(2018 SUMMER)では、「持続型都市に向けたニュータウンの再生」という特集が組まれています。
大規模ニュータウンの開発を可能にした新住宅市街地開発法(新住法)が1963年に制定されてから今年で55年*1)。これまでに数多くのニュータウンが整備されてきましたが、室田氏が次のように指摘しているように、日本では「その後の環境変化や社会変化に伴う再生やより豊かに育てる仕組みや運営などについては必ずしも十分とはいえない」(室田昌子)。

「日本は宅地開発やニュータウン建設について様々な実績を積み重ねてきたが、一方、その後の環境変化や社会変化に伴う再生やより豊かに育てる仕組みや運営などについては必ずしも十分とはいえない。時間の経過を成熟化した環境づくりや豊かな社会づくりに持続的につなげていける技術や手法、制度や組織の再構築に向けて、法制度、社会・組織、経済・経営、都市計画、建築、土木、環境などの観点からの見直しが必要である。」
*室田昌子「持続型都市に向けたニュータウンの再生」・『都市住宅学』102号 2018 SUMMER

こうした問題意識から「持続型都市に向けたニュータウンの再生」という特集が組まれています。この中で取り上げられているニュータウンの1つが大阪府の泉北ニュータウンです。
泉北ニュータウンは、千里ニュータウンに次いで、日本で2番目に開発された大規模ニュータウンです。泉北ニュータウン、千里ニュータウンを比較すると、長い期間をかけて開発されたこと、規模がより大きいことが泉北ニュータウンの特徴です。

泉北ニュータウン

  • 場所:大阪府堺市・和泉市
  • 開発主体:大阪府企業局
  • 事業期間:1965年12月〜1983年3月
  • まちびらき(入居開始):1967年12月
  • 開発面積:1,557ha
  • 計画人口:18万人
  • 住区数:16住区

千里ニュータウン

  • 場所:大阪府吹田市・豊中市
  • 開発主体:大阪府企業局
  • 事業期間:1960年10月〜1970年3月(10年間)
  • まちびらき(入居開始):1962年
  • 開発面積:1,160ha
  • 計画人口:15万人
  • 住区数:12住区

佐藤由美氏は特集の中で、次のような指摘をされています。

「開発から年数が経過し、再生が求められるニュータウンは全国に数多くある。しかし、それぞれのニュータウンの立地条件や開発規模といった「出自」を変えることはできず、開発当時のような住宅需要圧を期待することは難しい。これまで、泉北NTは常に千里NTとの比較でそのあり方が検討されてきたが、再生を進めるに際しては、地域の特性、居住者の特性を活かしていくことが必要であり、泉北ならではのニュータウン再生をめざすことが重要である。」(p.50)
*佐藤由美「泉北ニュータウンの変化と再生に向けた実践」・『都市住宅学』102号 2018 SUMMER

佐藤氏は「立地条件や開発規模といった「出自」を変えることはでき」ないとした上で、泉北ニュータウンが目指す方向として次のように述べています。

「泉北NTは、臨海部の工業地帯の開発と大阪通勤圏の住宅需要に対応するために開発されたが、現時点では同一沿線や市内での住み替えが多く、住宅市場圏域は狭まっている。こうしたことを活かし、親族との近居志向、都心以外の職との近接居住志向、ゆとりのある郊外居住思考等をもつ人々を対象に、大阪南部の多様な住宅需要にきめ細かく対応していくことが現実的な解となるであろう。そのためには、需要に対し過剰な住宅供給が行われないような市場環境づくり、市場性の乏しい住宅の改善や用途転換・除却等、住宅の需要をコントロールする仕組みが求められる。と同時に、公的賃貸住宅が半数を占める泉北NTでは、そのあり方がニュータウンの持続性の鍵を握っており、事業者間のさらなる連携や泉北NTとしてのストック活用(例えば、一元的な管理や居住支援等)の可能性等を追求することも必要であろう。
また、職住分離のベッドタウンとしての住宅都市から、様々な世代の生活の拠点となるまちに転換していくことも必要である。そのためには、豊かな居住環境と自立した生活圏を志向する本来の「ニュータウン」をめざし、周辺の農業・地場産業との結びつきを強化したり、ニュータウン内外に先端産業を創出したりすることが必要〔で〕あろう。「仕事づくり」の取組みはそうしたまちとしてのニュータウンの自立度を高め、「職」を通じて新たなコミュニティを形成する効果が期待される。
同時に、魅力ある居住環境を創出するため、人口減少にあわせて、豊かな居住環境を維持できるような空間コントロール手法を確立することが不可欠となろう。千里NTで成功した建替えによる高層化・高密化と余剰地の高度利用を組み合わせた再生手法とは異なる手法が必要である。例えば、既存ストックの居住密度を緩やかに低下させ、「ふつうのまち」のように住宅地に生活機能を複合化させることにより、減少した人口でも、無理なく維持管理・運営が行える住宅市街地に作り変えていくような「泉北モデル」の展開が期待される。」(p.50)
*佐藤由美「泉北ニュータウンの変化と再生に向けた実践」・『都市住宅学』102号 2018 SUMMER

それぞれのニュータウンは「立地条件や開発規模といった「出自」を変えることはでき」ない。だから、泉北ニュータウンは千里ニュータウンとは違う道を歩むのだということ。
千里ニュータウンの現状を振り返る時、「職住分離のベッドタウンとしての住宅都市から、様々な世代の生活の拠点となるまち」、「豊かな居住環境と自立した生活圏を志向する本来の「ニュータウン」」という指摘は特に興味深いと感じました。

近年、千里ニュータウンでは集合住宅の建替えが盛んに行われており、人口は増加傾向にあります。集合住宅の建替えが行われている背景には大阪都心へのアクセスの良さがあり、千里ニュータウンはベッドタウンとして大きな魅力をもつ街となっています。佐藤氏が指摘するように「出自」に負うところが大きいということです。
その一方で、何十年か後の千里ニュータウンを考える時、集合住宅の建替が盛んに行われ、人口が増加しているという他のニュータウンからは羨ましがられる成功が、かえって問題を先送りにしているのではないかということも危惧されます。

千里ニュータウンは、「建替えによる高層化・高密化と余剰地の高度利用を組み合わせた再生手法」が成功したことにより従来からの職住分離のベッドタウンであり続けている。ただし問題は、再開発が一斉に行われ、新たに入居する人は同じ世代の人が多いことです。

2018年春時点での千里ニュータウンの年齢構成をみると*2)、大きな2つの山ができていることがわかります。1つは75〜79歳を中心とする第一世代、45〜49歳を中心とする第二世代。興味深いのは、2018年時点では第二世代のボリュームが大きくなりつつあると同時に、第二世代の人々も確実に歳を重ねていること(年齢構成の山が右に移動していること)。
同じ世代の人が一斉に入居しているため、いずれ高齢化が急激に進むことが予想されます。実はこれは千里ニュータウンがこの半世紀で経験したことであり、急激な高齢化に対する根本的な対応がなされることなく、同じことが繰り返されることになります。

最大の問題は、「建替えによる高層化・高密化と余剰地の高度利用を組み合わせた再生手法」は一度しか使えない手だということ。近年の再開発は、例えば5階建ての中層の棟が10〜15階建ての高層の住棟へ建替えられてきましたが、同じ手はもう使えません(全ての住棟をタワーマンションにするというのは現実的ではない)。一度しか使えない手を使ってしまったというのは、街の資産を食いつぶしているということになります。

遺産を食いつぶすことでベッドタウンとしての地位を維持している千里ニュータウン。それに対して、千里ニュータウンと同じ再開発が行えないが故に、「職」を含む本来のニュータウンを目指そうとしている泉北ニュータウン。将来から振り返った時、どちらの方向性が正しかったと評価されることになるのだろうかと思います。


注:

  • *1)初めて新住宅市街地開発法に基づいて開発されたのが、千里ニュータウンの新千里北町です。新千里北町には今でも、新住宅市街地開発法に基づいて開発されたことを示す看板が2つ残されています。
  • *2)人口は吹田市・豊中市の住民基本台帳の値を利用。吹田市は3月31日、豊中市は4月1日時点のデータ。

参考:

  • 室田昌子「持続型都市に向けたニュータウンの再生」・『都市住宅学』102号 2018 SUMMER
  • 佐藤由美「泉北ニュータウンの変化と再生に向けた実践」・『都市住宅学』102号 2018 SUMMER
  • 堺市「泉北ニュータウンの概要」のページ