『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

相槌神社(京都府八幡市)と聖地巡礼

実家の近くにある京都府八幡市の「相槌神社」(あいつちじんじゃ)。
最近、「刀剣乱舞」というゲームの影響で、参拝客が急増していると聞きました。「刀剣乱舞」に登場する名刀「髭切」(ひげきり)・「膝丸」(ひざまる)が作られたのが相槌神社。クラウドファンディンングにより老朽化した本殿や社務所を修繕するという動きも生まれているとのこと。

市が発行している観光パンフレット「京都・八幡市 観光ガイド 2018秋 八幡さんぽ」には、相槌神社が「聖地」として紹介されています。

刀剣ゆかりの神社
相槌神社(あいつちじんじゃ)
近頃「刀剣女子」と呼ばれる女性たちの間で聖地のひとつとして密かな人気を呼んでいます。天下五剣のひとつ「童子切安綱(どうじきりやすつな)」の作者、大原五郎太夫安綱(おおはらごろうたゆうやすつな)と稲荷の神様が、境内に涌く山ノ井の水を使い、相槌をして名刀「髭切(ひげきり)」と「膝丸(ひざまる)」を造ったと伝わる場所です。「良縁結叶」や「悪縁斬祓」の御神徳にあやかることができます。
*「京都・八幡市 観光ガイド 2018秋 八幡さんぽ」より

今まで数え切れないくらいこの神社の前を通ってきましたが、最近、相槌神社という名前であることを初めて知りました。

相槌神社

  • 住所:京都府八幡市八幡平谷10
  • アクセス:京阪電車八幡市駅から徒歩約10分
  • 月次祭:毎月1日・15日の9時30分〜12時頃。お札、お守り、御朱印が授与される

相槌神社は日本三大八幡宮の1つで、2016年、国宝に指定された石清水八幡宮の表参道脇に位置。相槌神社脇の階段も、表参道につながっています。京阪電車の八幡市駅からは徒歩で10分ほど。石畳の敷かれた東高野街道の傍にあります。

向かって左手が本殿、右手が社務所。社務所の前(向かって右手)には山ノ井(藤木井)と呼ばれる井戸があり、今も水が沸いています。

訪れた日は月次祭の日(毎月1日・15日)ではなかったため訪れている人は見かけませんでしたが、月次祭には多くの人が訪れるとのこと。

本殿・社務所には、年末年始の予定(12月31日は終夜開所、1月1日は特別朱印を授与)、八幡市駅前の観光案内所でポストカードを販売していること(ポストカードの1枚が相槌神社の写真)、本殿・社務所を改修するためのご寄進の依頼、走井餅の案内など、最近貼られたと思われる掲示物が見られました。


近年、アニメや映画に登場する場所やロケ地への訪問が聖地巡礼(アニメ聖地巡礼)が話題になることがあります。この意味について、社会学者の田所承己氏は『場所でつながる/場所とつながる』(弘文堂 2017年)において、次のように指摘しています。

「他方で、アニメ聖地巡礼で、舞台となった土地をめぐる行為は、「その土地の文化や歴史に触れること」ではなく、あくまでも「アニメの背景を巡る行為」に他ならない。そこでは現実の「場所」そのものは、アニメの虚構世界を構成しているわけではない。むしろ「場所」は、アニメ的世界観を呼び起こすための“触媒”として機能している。アニメ聖地巡礼においては現実の場所は、アニメという虚構世界を支えるプラットフォームにすぎないのだ。
・・・・・・「場所」は、アニメの世界観という新たな「コンテクスト」を呼び出すための装置として機能している。つまり、聖地巡礼における「場所」は、社会的に形成されたその土地のイメージとは全く異なるコンテクスト(アニメの虚構世界)を喚起するための「コンテクスト・マーカー」となっているのだ。
このように、ある建物、ある街路に遭遇するだけで、たちどころに異空間の経験世界を立ち上げることができる——こうした瞬時のコンテクスト転換を引き起こす“呼び水”として「場所」は新たな意義を帯び始めているといえよう。」

「・・・・・・、アニメ聖地巡礼で求められているのは、当該地域の社会的なイメージの消費ではなく、あくまでもアニメという虚構世界の追体験であるからだ。人びとは、舞台となった場所に出かけていった際に、その場所をめぐるイメージや社会的フィクションに浸るのではなく、その場所に微かに見い出せる虚構世界の「部分」に批たる耽溺している。「場所」は、イメージの“指示対象”というよりも、物語世界を呼び起こす“手掛かり”に過ぎなくなっているのだ。」
*田所承己『場所でつながる/場所とつながる』弘文堂 2017年

相槌神社を訪れたり、お札、お守り、御朱印の授与を受けることも、「その土地の文化や歴史に触れること」ではなくゲームの「背景をめぐる行為」であり、ゲームという「虚構世界の追体験」なのか。もしかしたらこうした側面があるかもしれませんが、相槌神社への聖地巡礼ではもう少し別のことが生まれているような気がします。

「刀剣乱舞」というゲームに登場するのは、相槌神社それ自体ではなく、髭切・膝丸という名刀。相槌神社への聖地巡礼が行われるのは、「ゲームに登場する場所だから」ではなく、「ゲームに登場する『名刀が作られた』場所だから」。この点で、他の聖地巡礼(アニメ聖地巡礼)とは少し状況が異なります。
相槌神社への聖地巡礼が行われるにあたっては、「名刀が作られた場所はどこなのか?」というように、ゲームと現実の場所とのつながりを見出すというステップが含まれています。

このステップがあることで、現実の場所はゲームという「物語世界を呼び起こす“手掛かり”」のみならず、「その土地の文化や歴史」自体を発見する可能性に開かれている。

相槌神社への聖地巡礼が一過性のブームなのか、継続するものなのかは現時点ではわかりませんが、少なくとも老朽化した本殿や社務所をクラウドファンディングにより修繕するという動きが生じることはなかった。相槌神社を巡る動きは、聖地巡礼の1つの可能性なのかもしれません。