ソーク研究所(Salk Institute for Biological Studies)は、カリフォルニア州サンディエゴ郊外のラホヤ(La Jolla)にある生命科学の研究所。ポリオワクチンを開発したジョナス・ソーク(Jonas Salk/1914〜1995年)博士によって創設された研究所で、数多くのノーベル賞学者を輩出。ソーク研究所は、建築界の巨匠、ルイス・カーン(Louis Kahn/1901~1974年)が設計した建築としても知られています。建築の完成は1966年。
ソーク博士は、この研究所を「ピカソが来たいと思うような研究所にしたい」と考えていたとのこと。
「この研究所をソーク博士は、世界最高の生命科学の研究所となるべく計画を立てたが、それだけでなく、人間の様々な創造活動の交流点としようと考えていた。そのような、専門分野の枠を越えた幅広い交流こそが、真の科学の創造とつながると考えたからである。すなわち彼は、医学・生命科学の研究の根幹に、広く深く人間性についての理解がすえられねばならないという信念を持っていた。「私はここを、ピカソが来たいと思うような研究所にしたい」というソーク博士の言葉がそれを言い表わしている。」
※香山寿夫『ルイス・カーンとはだれか』王国社 2003年
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研究棟の間の中庭。最も魅力的な場所であり、かつ、最も有名であろう場所。研究棟という建物によって、中庭という場所が生み出されていることを強く感じます。
中庭には、メキシコの建築家ルイス・バラガン(Luis Barragan/1902〜1988年)の助言に従い、樹木は一本も植えられませんでした(香山, 2003)。
中庭の向こうには太平洋と空の青が広がっています。中庭の中央に通された水路は、そのまま太平洋に繋がっていくようです。
中庭の水路は真西を向いており、1年に2回、春分と春分の日には水路の延長線上に陽が沈みます。大学の設計の授業で、建築は敷地とセットで考えるようにと指導を受けましたが、この建築はまさに敷地とセットになっていることを感じます。
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ソーク研究所は、人の姿を見かけなくても、それ自体が芸術作品だと思えるくらい美しかったです。けれども、中庭に設けられたベンチに座ったり、中庭を行き交うスタッフがおり、建築は(人が利用しない)彫刻でないことを教えられます。
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打合せが行われたのか、見学者が描いていったものかはわかりませんが、中庭脇のピロティの黒板には絵や文字が描かれていました。
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中庭の先にある水盤。水盤の先は段差になっており、水が滝となって下の水盤に流れ落ちます。
段差を降りたエリアにはテーブルと椅子が並んでいますが、段差があるため、上で紹介したポイントからはテーブルや椅子が並んでいることはわかりません。
ルイス・カーンに師事した建築家の香山寿夫は、「奉仕する/奉仕される」空間という観点から、ソーク研究所について次のように指摘しています。
「カーンは、研究所は、研究者が思考する場所が主人たる空間でなければならず、ごちゃごちゃした機械や配管類と研究者が雑然と同居する従来の研究室の姿は間違っていると考えた。研究者が創造的な研究に従事するための空間と、それに奉仕するための機械設備のための空間は、先ず分離され、それぞれに適切な空間が与えられた後に、統合されねばならない。このふたつの種類の空間の分節と統合のシステムが、研究所という建築類型の持つオーダーとなる。」
「ソーク研究所においては、研究室と実験室が明確に区分された。科学者が、真に創造的な結果を生み出すためには、ただ熱心に共同で実験するだけではなく、ひとりになって思考する場所もまた必要であるという考えにおいて、ソーク博士とカーンは一致したのである。研究室は、それぞれ中庭に面し、中庭という共同の出会いの場所を囲みつつ、それぞれが、輝く太平洋を望む窓を与えられた。又一方実験室は、共同の実験研究が研究計画に応じて何時でも自由に、又容易に組み立て直すことができるような充分な広さを与えられた上に、設備更新がいつでも出来るように、人が立って自由に歩けるだけの階高を持つ設備階(パイプ・ラボラトリー)で挟まれる断面構成がとられた。
このように、ソークにおいては「奉仕する/奉仕される」という空間理念は、ひとつの完成といえるレベルにまで高められている。理想を持つ設計者と理想を持つクライアントという類い稀な組み合わせ、美しい広大な敷地がこれを可能にした。そして何よりも、生命科学の研究、という明確な目標に向っている建築の働きが「奉仕する/奉仕される」という空間区分を明快にしてくれるものだった。」
※香山寿夫『ルイス・カーンとはだれか』王国社 2003年
今回、実際にソーク研究所を訪れて、写真や図面を見ているだけでは気づかなかったいくつかのことに気づかされました。
時間の経過に伴って味が出てくる木と異なり、コンクリートは時間の経過によって汚れた感じを受けることがあります。けれども、完成から半世紀以上が経過してているにも関わらず、ソーク研究所の建物からは汚れた印象を全く受けませんでした。
建物のファサードにはチーク材の建具が取り付けられていること。ファサードはコンクリートの打放しとばかり思っていたため、これは意外でした。
カリフォルニアの天候も印象に残っています。強い日差しと、真っ青な空と海。こうしたカリフォルニアの天候に、コンクリートによるボリュームが負けていないこと。真っ青な空と海に対峙する白い躯体は明るく、また、力強く感じました。
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週末はツアーが行われていませんが、周囲がオープンになっているため建物のすぐそばまで近づくことができます。中庭の先のテーブルと椅子が並んだエリアにも入ることができます。ただし、この建築の最も魅力ある場所である中庭には入ることができません。
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■参考
- 香山寿夫『ルイス・カーンとはだれか』王国社 2003年