団地の住棟配置の方法の1つに、東西に細長い住棟を平行に配置していく手法があります。かまぼこ型の住棟が等間隔に並ぶ典型的な団地の風景は、平行配置と呼ばれるこの方法によって生み出される光景。平行配置のメリットは、全ての住戸を南面させることができるため、日照の面で有利だということ。
けれども、千里ニュータウンには平行配置とは異なる方法での住棟配置が見られます。
それが囲み型配置で、主に大阪府の府営住宅で採用されています。住棟を「コ」の字型、あるいは、「ロ」の字型に配置することで車が侵入しない中庭を作り、この中庭を住民がコミュニティを築くための場所とすることが考えられた配置。全ての住戸を南面させることはできなくなりますが、日照よりもコミュニティ形成が大切にされた。住棟配置だけでコミュニティが生み出せるというのは安易ではないかという批判もあると思いますが、住宅の大量供給が求められた時代において(1960年代後半)、日照よりもコミュニティ形成が大切にされた団地があるということは、歴史としてきちんと継承しておくべきことだと思います。
千里ニュータウンの開発主体は大阪府(大阪府企業局)ですが、大阪府が千里ニュータウン開発に力をいれていたことが、囲み型配置にも現れていると言ってよいと思います。
なお、囲み型配置によって西に面する窓ができてしまうため、西側の窓には緑の日除けが取り付けられています。緑の日除けは、囲み型配置がされた団地であることの目印でもあります。
囲み型配置が採用された団地の1つに、千里ニュータウン新千里南町の府営新千里南住宅があります。
写真のように「コ」の字型に配置された住棟を連続させ、片側が中庭、反対側が駐車場にされています。中庭のある側には歩行者専用道路が通っており、この歩行者道路を通って小中学校、公園、近隣センターなどにアクセスすることができる。駐車場のある側には車道が通っている。これによって、歩車分離、つまり、歩行者のアクセスと車のアクセスの分離が実現されています。
ニュータウン計画の分野では、歩車分離の方法としてラドバーン方式という名前が時々出されます。ラドバーンとは、アメリカ・ニュージャージー州に計画された戸建住宅地。府営新千里南住宅の住棟配置による歩車分離は、ラドバーン方式を団地にあてはめたものだと指摘されることもあります。
このように府営新千里南住宅は、日本の戦後の団地計画における重要な場所ですが、現在、建替が進められており、近いうちに取り壊される予定です。世界遺産に登録された「ベルリンのモダニズム集合住宅群」のように有名建築家が設計した団地ではありませんが、日本の集合住宅の歴史において重要な団地が1つ、失われることになります。