先日、宮城県岩沼市のJOCA東北に食事に立ち寄りました。
JOCA(青年海外協力協会)は、青年海外協力隊の経験者が中心となって設立した組織で、JICA海外協力隊の育成・支援を行うと同時に、途上国支援で培った経験・ノウハウにもとづく国内への貢献として、日本各地の拠点で地域づくりを行っています*1)。
JOCA東北は、この拠点の1つとして2021年3月末にオープン。「岩沼市の地方創生プロジェクト“生涯活躍のまち”をテーマ」として、「子どもからお年寄りまで、障害の有無や国籍を問わず、みんな“ごちゃまぜ!”になって日常的につながり合える地域の拠点」となることが目指されています*2)。「ごちゃまぜ」は、石川県の社会福祉法人・佛子園が、三草二木西圓寺、シェア金沢、B’s行善寺、輪島KABULETなどのプロジェクトで掲げているテーマであり、JOCA東北の運営や建築には、佛子園の経験・ノウハウがいかされています*3)。
JOCA東北は、JR岩沼駅から線路に沿って北に5分ほど歩いたところにあります。敷地はおおよそ長方形で、北は中層の集合住宅、東と南は戸建住宅を中心とする住宅地、西はJRの線路となっています。
JOCA東北の建物の東は駐車場。北の集合住宅との間の歩道にはベンチが置かれていました。
(南西角より)
(北西角より)
(北東角より)
(北側の集合住宅との間の歩道)
JOCA東北の住棟は、西のJRの線路に向かって開かれた「コ」の字型に配置されており、「コ」の字の中庭は園庭となっています。2階には園庭を囲むようにテラスがもうけられています。
1階には、JOCA東北のオフィス、認可保育所、子育て支援センター、児童発達支援、共生型デイサービス、2階にやぶ亀(食事処)、温泉、ゴッチャ!ウェルネス輪島(フィットネス)、足湯など多様な場所が配置されています。
(「コ」の字の中庭)
(2階のテラス)
訪れた日はゴールデンウィーク中だったため、1階の認可保育所、共生型デイサービスなどは休みだったようですが、2階の食事処、温泉、フィットネスは営業しており、地元の人と思われる人の姿を見かけました。
先にご紹介した通り、JOCA東北では「ごちゃまぜ」が目指されています。多様な場所が配置されていること自体も「ごちゃまぜ」ですが、建築として考慮されているのが様々な目的をもつ人々の動線を重ね合わせる「動線の複層化」。JOCA東北を設計したkymaのウェブサイトには、建物の2階について、「廊下は様々な目的を持って(または持たずに)ここを訪れる人たちの出会いの場と捉えている。動線を複層化させることで出会いのきっかけを生むことを意図している。スタッフが常駐するオープンカウンターを隣接させていることもコミュニケーションを生む仕掛けである」と説明されています*4)。
JOCA東北の2階には、食事処、温泉、フィットネスが配置されています。これらが広い廊下によって連結され、食事処、温泉、廊下で販売されている野菜、駄菓子、飲物、クラフトなどの精算のカウンターが1つにまとめられるという「動線の複層化」が考えられています。
食事処、温泉、フィットネスの位置に注目すれば、JOCA東北は、これまでの佛子園の場所よりも近くに配置されています。
- 三草二木西圓寺:リノベーションした廃寺内に食事処、温泉を配置。後に、通りを隔てた向かいにフィットネスを新築
- シェア金沢:本館に食事処、温泉をやや距離を置いて配置
- B’s行善寺T:第一期の建物に食事処、温泉を近づけて配置。第二期の建物の2階にフィットネスを配置
- 輪島KABULET:拠点施設に食事処、温泉を近づけて配置。通りを隔てた向かいにフィットネスを新築
- JOCA東北:建物の2階に食事処、温泉、フィットネスを配置
JOCA東北を実際に訪れると、食事をしている人の近くで、フィットネスを終えた人が休憩したり、温泉に来た人が食事処のカウンターで受付をしたりというように、食事処、温泉、フィットネスが近くに配置されていることによる「ごちゃまぜ」の光景が生まれているように思いました。
(食事処と温泉の間の廊下)
(食事処より)
JOCA東北は、佛子園の場所で使われていた食事処、温泉、フィットネスがもうけられており、JOCA東北を訪れると、佛子園で見かけたシーンが思い起こされます。しかし、当然ながら全くのコピーではありません。
今回、JOCA東北を訪問し、「ごちゃまぜ」を実現するための緩やかなスタイルが生み出されていることを感じました。ある場所の経験・ノウハウを、画一的な施設にすることなく継承するとはこのようなあり方を言うのかもしれない。このようなことも感じました。
■注