先日、社会福祉法人・佛子園が運営する石川県輪島市の輪島KABULET(カブーレ)を見学させていただく機会がありました。
佛子園は1960年に発足。当初は、障害をもつ子どもの入所施設としてのスタートでしたが、近年は、人々が障害の有無や年齢などの属性によって分けられないという「ごちゃまぜ」をコンセプトとするプロジェクトを進めています。佛子園のターニングポイントになったと言われているのが、2008年に廃寺をリノベーションして開かれた三草二木西圓寺です。
「生活介護と高齢者デイサービス、障害者の就労継続支援施設、地域住民が利用できる温泉入浴施設の機能を兼ね備えた『三草二木西圓寺』の運営は、佛子園関係者の事前の想像を上回る化学反応を引き起し、後に『シェア金沢』や『B’s行善寺』、『輪島カブーレ』を構想していく上での土台になっていく。佛子園による福祉のまちづくりの『シーズン1』だ。」(雄谷良成・竹本鉄雄, 2018)
「そうした姿を目の当たりにして、社会福祉の仕事で最も重要なのは、障害者や高齢者が自ら役割を見つけ、生きる力を取り戻すことで、サービスの提供に自分たちが頑張り過ぎるのは、彼らから力を発揮する機会を奪い、逆効果なのではないかと痛感したという。」(雄谷良成・竹本鉄雄, 2018)
三草二木西圓寺は佛子園のプロジェクトに大きな影響を与えたとのこと。いずれも、一般的に想像される福祉という枠組みを越えた場所であり、輪島KABULETは「シーズン4」と位置づけられています(雄谷良成・竹本鉄雄, 2018)。
- シーズン1:三草二木西圓寺(2008年オープン、小松市)
- シーズン2:シェア金沢(2014年全面オープン、金沢市)
- シーズン3:B’s行善寺(2016年グランドオープン、白山市)
- シーズン4:輪島KABULET(2018年全面オープン、輪島市)
輪島KABULET
輪島KABULETは、佛子園が輪島市、JOCA(青年海外協力協会)と連携して取り組んでいる「漆の里・生涯活躍のまちづくりプロジェクト」(雄谷良成・竹本鉄雄, 2018)で、KABULETの名前は、何かに感化されるという意味での「かぶれる」、加賀藩主・前田利家にまつわる「かぶき者」、漆に「かぶれる」などからつけられたということで、プロジェクトの主役となる人が「かぶれ人」*1)と呼ばれています。
拠点施設
三草二木西圓寺が廃寺のリノベーション、シェア金沢が新たな街の開発、B’s行善寺が佛子園本部のリニューアル*2)であるのに対して、輪島KABULETは街に点在する空き家、空き地をリノベーションすることで、街全体を「ごちゃまぜ」に変えていくという特徴があります。輪島KABULETで、拠点施設の位置を決めるにあたっては、輪島市内の空き家の調査が行われ、空き家、空き地がまとまっているところに決めたということです。
拠点施設は、複数の空き家、空き地を活用したもので、温泉「三ノ湯・七ノ湯」、足湯、食事処「輪島やぶかぶれ」、住民自治室、生活介護、放課後等デイサービス、高齢者デイサービス、訪問介護ステーションがあります。温泉は、近隣の209世帯の人々には無料で開放。食事処は、自家製粉、自家製麺のそばに加え、アルコール類も提供されていますが、注文しなくても過ごすことができるフリースペースでもあります。このような多様な機能をもつ拠点は、障害のある人が働く場所でもあります。
(拠点施設)
(食事処「輪島やぶかぶれ」)
拠点施設と道路を挟んだ向かいに位置するのが地域密着型の健康増進施設「GOTCHA!WELLNESS輪島」(ゴッチャ!ウェルネス輪島)。空き家のリノベーションと、空き家に隣接する空き地への新築によって作られた場所で、「GOTCHA!WELLNESS輪島」の会員にも、拠点施設の温泉が無料で開放されています。
(GOTCHA!WELLNESS輪島)
(GOTCHA!WELLNESS輪島から拠点施設を見る)
「GOTCHA!WELLNESS輪島」から住宅2件を隔てた並びには、空き家をリノベーションした「Café KABULET」(カフェ・カブーレ)。子どもが料理、洗濯、掃除などの初めての経験を、母親と、本物の環境で、セルフで行えるママカフェをコンセプトする場所。2階には、ボディケアサロンの「ボディケアゆらり輪島店」が営業しています。
(Café KABULET)
(右が拠点施設、左がGOTCHA!WELLNESS輪島)
拠点施設を中心としてこのような多様な機能を担う場所が作られていますが、「ごちゃまぜ」を実現するうえでは、多様な機能を単に空間的に近い位置に配置するだけでなく、生活のシーンの重ね合わせということが大きな意味を持っていると感じました。
先にご紹介した通り、佛子園においては三草二木西圓寺がターニングポイントとされています。三草二木西圓寺で実現された「ごちゃまぜ」をシェア金沢で再現するうえでは、設計においてクリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』が用いられました。『パタン・ランゲージ』を用いることは、佛子園の雄谷良成理事長からの提案で、シェア金沢、B’s行善寺、輪島KABULETの設計を担当した五井建築研究所の西川英治社長は、シェア金沢の設計について次のように話しています。
「雄谷さんが『パタン・ランゲージ』を知っているということがまず驚きでしたね。でも、『ごちゃまぜ』をコンセプトに佛子園がどんな空間づくりを目指しているのか、合点がゆきました。計画全体の枠組みをまず決め、そこから各施設を機能別にどう集合・配置させるかというところに私たちの考えは偏っていたので、人が集まる場、人と人がコミュニケーションを取る場をどうつくり、『ごちゃまぜ』にしていくかに軌道修正しました。生活の中の小さなイメージシーンをいくつも積み重ねて全体を構成する、当初とは真逆の手法への転換です」(雄谷良成・竹本鉄雄, 2018)
シェア金沢は、『パタン・ランゲージ』を用いて「生活の中の小さなイメージシーンをいくつも積み重ねて全体を構成する」という手法によって作られました。シェア金沢以降のプロジェクトでは『パタン・ランゲージ』は使われなくなったようですが、実際に輪島KABULETを訪れると、温泉に来た人、温泉からあがって水を飲んで休憩する人、食事処で食事をする子連れの人やデイサービスの人、食事処で働く人、食事処のカウンターで打ち合わせをするスタッフというように、多様な人々が居るシーンの重なりがこの場所を作りあげているということを感じました。また、輪島KABULET拠点施設のカウンター周りは、B’s行善寺のカウンター周りの作り方が活かされているようにも感じました。
(輪島KABULETの拠点施設のカウンター周り)
(B’s行善寺のカウンター周り)
拠点施設の中だけでなく、拠点施設と周りの場所は一体として使われています。例えば、高齢者デイサービスに通う人が向かいの「GOTCHA!WELLNESS輪島」に入っていく光景を見かけました。「GOTCHA!WELLNESS輪島」は通りに面して大きな開口部があり、夏休み中はここでラジオ体操をしているとのこと。また、拠点施設と「GOTCHA!WELLNESS輪島」の間を歩行者天国にして、餅つき、ビアガーデンなどを開催しているという話も伺いました。
拠点施設と他の場所をつなぐ
輪島KABULETは、拠点施設の周りだけでなく、障害のある人向けのグループホームや短期入居住宅、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)と輪島市内に広がっています。こうした中で、輪島KABULETの「セカンド・シーズン」と位置づけられているのが「うめのや」で、拠点施設から400mほど離れた位置に開かれました。
(うめのや)
中央の建物は元々遊郭だった建物で、手前は「中華そばいぶき」、奥はゲストハウスの「うめのやGUEST HOUSE」になっています。右の建物は蔵がコワーキング・スペース「コ・ワークうめのや」としてリノベーション。左の建物は新築された建物で、1階は配食のお弁当を作るキッチンとなっています。現時点では、昼食、夕食、それぞれ120食を配達しているということで、障害のある人の仕事場にもなっています。
(うめのやGUEST HOUSE)
(左がゲストハウス、右がコワーキング・スペース)
「うめのや」自体にも多様な機能があり、食事をする人、ゲストハウスに泊まりに来た人、コワーキング・スペースで仕事をする人と多様な人々が行き交う場所になっていますが、加えて、ゲストハウスの宿泊客は拠点施設の温泉が無料で入れるなど、「うめのや」と拠点施設とをつなげる工夫がされています*3)。
次のような話を伺いました。当初、地域には、障害のある人のグループホームを建設することに賛同しない人もいたとのこと。しかし、グループホームに入居している人が、毎日、グループホームと仕事場の間を行き来する途中に挨拶することを繰り返すうちに、地域の人も、障がいがあっても自分たちと同じだということがわかって、障害のある人に対する見方が変わっていったという話でした。
輪島KABULETを訪問して、人が場所に居るシーンを重ね合わせることで面として「ごちゃまぜ」が実現されること、同時に、点在する場所を線としてつなぐ人が移動する、挨拶するというシーンによっても「ごちゃまぜ」が生まれること。いずれの場合でも、ひとよって多様な機能をもつ空間が関係をもち始めるということを感じました。
■注
- 1)「輪島KABULETって?」のページより。2023年6月1日、佛子園はJR小松駅に、KABULETの名を冠した新たな場所「小松KABULET」をオープンさせている。
- 2)佛子園本部のリニューアルは、新築、体育館のリノベーションにより行われている。
- 3)新型コロナウイルス感染症によって中断しているが、輪島商工会議所によって、市内を循環する電動カート(電動小型低速車)を走行させるという新たな交通の取り組みも行われている。
■参考文献
- 雄谷良成監修 竹本鉄雄編著(2018)『ソーシャルイノベーション:社会福祉法人佛子園が「ごちゃまぜ」で挑む地方創生!』ダイヤモンド社
- クリストファー・アレグザンダー(平田翰那訳)(1984)『パタン・ランゲージ:環境設計の手引』鹿島出版会