現在、北京では、中心部の南東の通州区に副都心(サブセンター)の開発が進められています。2023年12月27日、副都心の都市緑心森林公園内に3つの文化施設がオープンしました。北京芸術センター、北京大運河博物館、そして、ここでご紹介する北京市立図書館(Beijing City Library)の3つです*1)。
北京市立図書館は、ノルウェーを拠点とする建築事務所のスノヘッタ(Snøhetta)と、中国のECADI(East China Architectural Design & Research Institute)が設計。世界最大級の読書スペースは、高さ16mの「丘」とその間を縫うように通された「渓谷」からなり、イチョウの木を模した柱が林立しています。
「渓谷からそびえ立つ段々畑のような丘は、地面、座席、棚として機能する彫刻のような内部の地形を作り出すようにデザインされています。そこは、くつろいだり、話したり、静かに本を読んだりできるインフォーマルなゾーンでありながら、広い空間とつながっています。半個室の読書エリアと会議室は丘に埋め込まれ、書庫とテーブル席は頂上の長く平らな場所に設置されています。この中央のオープンエリアは完全にアクセス可能で、世界最大級の書籍自動保管・検索システム(ASRS)が組み込まれています。
渓谷のスケールと本のスケールを移行させるために、大空間を彩るのは、イチョウの葉の形をした平らなパネルにマッシュルーム状になった背の高い細長い柱です。これは中国原産の樹齢2億9000万年のイチョウの葉を模しています。重なり合うパネルと間仕切りのガラスが、キャノピーのような屋根を作り出し、フィルターを通した日光が室内に降り注ぎます。このイチョウのキャノピーの下で、本の渓谷とその向こうに広がる広々とした風景の地平線を見下ろす山頂に到達することができます。身近な環境との一体感や、本の中で提供される想像の世界との一体感を体験することで、読者はその場所ならではの思い出を作ることができます。
グリーンウッド〔※スノヘッタのパートナーでアジア太平洋地域担当ディレクター〕は言います。『段々畑のような風景と樹木のような柱は、訪問者が視線を上げ、遠くに焦点を合わせ、全体像を把握するよう誘います。ここは、木の下に座って好きな本を読むことができる場所なのです』『北京市立図書館には世代を超えた質があり、自分の物語を子供たちに伝え、自分が好きだったタイトルを子供たちに紹介します』」*2)
読書体験を拡張するメタバース体験館、温度や照明のリアルタイムでの調整、蔵書管理と貸出、巡回ロボットによる貸出や案内サービス、高齢者には自動で文字サイズを拡大するデスクに設置された端末(smart-tops at desks)など、デジタル時代の図書館として様々な技術が導入されています*3)。
先日、北京市立図書館を訪問する機会がありました。訪れたのは日曜日の午前中。エントランスでは荷物のセキュリティ検査が行われており、入管を待つ20人ほどの列ができていました。



エントランスを抜けたところにあるメタバース体験館は、近未来的な空間。デジタルによる館内の案内もされています。



ここを抜けると、丘、峡谷、イチョウの木々からなる読書スペース。その大きさには圧倒されます。








子どもから高齢者まで、多くの人々が過ごしていること、テーブルはほぼ満席でノートパソコンやタブレットで勉強をしたり、作業をしたりしている人が多かったことも印象に残っています。
■注
- 1)CRJ Online「北京の副都心の三大文化建築が正式に一般公開」2023年12月28日
- 2)architecturephotoの「スノヘッタとECADIによる、中国の「北京市立図書館」。デジタル時代の図書館の在り方を追求した計画。機能性や地域への貢献を考慮して、“渓谷”の様な内部空間を“イチョウの葉”を参照した屋根で覆う建築を考案。社会的な交流や知識の共有を可能にする場を作る」2024年2月29日
- 3)International Federation of Library Associations and Institutions「From Books to Digital Worlds: The Beijing Library’s Role in Shaping a Community-Centered Future」2024年11月30日