『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

韓国の計画都市:果川の光景

写真は韓国の果川(グワチョン・Gwacheon)。果川は、ソウル中心部の南に位置する行政都市で、1978年、政府機関の移転先に選定。1980年代から1990年代にかけて幾つかの政府機関が果川に移転し、職員のための住宅が建設されました。1986年に市に昇格。
Wikipediaによると市の面積は35.86K㎡、2010年の人口は72,088人、人口密度は2,010.3人/K㎡となっています(※千里ニュータウンの開発面積は11.6K㎡、2015年の人口(吹田市8住区と豊中市4住区)は97,156人、人口密度は8,375.5人/K㎡)。

案内してくださった方に聞いたところ、果川は政府機関が移転することが決まったため、まずは政府機関の公務員の住宅地として最初に開発。しかし、ソウル中心部から最も近い住宅地であるにも関わらず、開発当初は成功した住宅団地というイメージはなかったようですが、今では高級なアパートのある住宅地というイメージが定着しているということです。

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果川では戸建て住宅、大規模な団地も見かけました。千里ニュータウンの近隣センターのような商店街もあり、煙突があったことから、案内してくださった方は、以前は銭湯があったのではないかという話でした。

果川を歩いて、千里ニュータウンと共通する点、千里ニュータウンとは異なる点として、特に次のようなことが印象に残っています。

まず、果川の中心部、地下鉄4号線の政府果川庁舎駅(Gwacheon Government Complex Station)で協会を見かけたこと。大阪府が開発した千里ニュータウンでは宗教施設が計画されませんでした。宗教施設が中心部にある果川の光景は、千里ニュータウンでは見かけない光景として印象に残っています。

次に、歩行者専用道路によって歩車分離が考えられていること。案内してくださった方からは、果川は緑のネットワークが考えられて計画されているという話を伺いました。

果川の中心部、店舗が並ぶエリアと中央公園の間から、東に向かって歩行者専用がもうけられています。歩行者専用道路は木々が大きく育ち、ベンチももうけられており、歩いていて気持ちのよい道でした。

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歩行者専用道路は、車道(Byeoryang-ro)の下を潜るかたちで歩車分離がされています。立体交差による歩車分離は、計画された街らしい光景だと感じます。

最後に、先に紹介した歩行者専用道路で、マーケットが開かれていること。野菜、唐辛子、魚介類などの食品を売る店が多いですが、靴を売っている店も見かけました。案内してくださった方の話では、販売しているのは開発前にこの付近で農業を営んでいた人々。今は別のところに移り住んでいるが、ここでマーケットを開いているとのことです。マーケットはプランナーが計画したものではなく、自然発生的に生まれたもので、今では公認されたマーケットとして毎日開かれているとのことでした。

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この風景を見て、以前、千里ニュータウンにお住まいの方から、千里にないものとして「店の人とやり取りできる市場がない」「店頭で作って売る店(コロッケ屋さんのような店)がない」「商品がパック詰めになっていて買物の楽しさがない」という話を聞いたのを思い出しました。
果川のマーケットはまさにこのような場所。プランナーが計画した店舗だけでなく、店の人と直接やりとりし、話をしながら買い物ができる場所があることも、町の魅力を高めるのだと改めて感じました。


案内してくださった方から、果川は住民運動が活発だという話も聞きました。住民活動は大きく3つの種類があり、1つ目は行政と関わりのある運動で50~60代の人が参加するもの。2つ目は草の根の運動で40代の人参加するもの。3つ目は再開発に関する運動で40代の人が参加するものだいうことです。

2つ目の草の根の運動の参加者の3分の2は女性であり、専業主婦が多いとのこと。子育て中の母親は、子どもの目線で住環境を見るため、住環境に問題があれば解決したいと考える。それが住民運動に参加する動機となり、「子どもセンター」と呼ばれる場所が開かれたとのこと。
けれども、こうした動機で参加する女性は、子どもが大きくなると住民運動への関心が薄くなる。しかしその頃には、子育て中の新たな30代の人が運動に関わるようになるという話でした。ある世代が住民活動から引いた後、すぐ下に住民運動を担う世代がいることで、このような世代間のバトンタッチができるわけですが、その背景には、果川では定住する住民の割合が小さいという状況もあるということでした。

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千里ニュータウンの場合も、第一世代の人々は、例えば、府営住宅の中庭にプレイロットを作ったり、幼稚園、小学校、中学校のPTAに関わったりというように、子育てが地域に関わるきっかけになっていることは同じだと感じました。けれども、千里ニュータウンの場合は定住率が高いため、世代に偏りがある傾向があります。これは、果川と千里ニュータウンの大きな違いです。

(更新:2024年10月13日)