『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

韓国のニュータウン:果川新都市における住民活動と定住率

写真は韓国の果川市(グワチョン・Gwacheon)。2012年9月に訪問した時に撮影したものです。

果川市はソウル特別市の南に隣接する住宅団地で、1982年、ソウル特別市から政府機関の一部が果川市に移転。その後、1984年から本格的な開発が始まりました。Wikipediaによると市の面積は35.86K㎡、2010年の人口は72,088人、人口密度は2,010.3人/K㎡となっています(*千里ニュータウンの開発面積は11.6K㎡、2015年の人口(吹田市8住区と豊中市4住区)は97,156人、人口密度は8,375.5人/K㎡)。

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案内してくださった方に聞いたところ、果川市は政府機関が移転することが決まったため、まずは政府機関の公務員の住宅地として最初に開発されたとのこと。
ソウル中心部から最も近い住宅地であるにも関わらず開発当初は成功した住宅団地というイメージがなかったが、今は高級なアパートのある住宅地というイメージが定着しているとのことです。

戸建て住宅、連続住宅も、大規模な団地もありましたが、歩いて特に印象に残ったのが中心部に教会があったこと。これは宗教施設が建設されなかった千里ニュータウンとは対照的です。
住宅地の中には千里ニュータウンの近隣センターのような商店街もありました。煙突があったので、以前は銭湯があったのではないかとのこと。案内してくださった方の話では、果川市は緑のネットワークが考えられて計画されており、千里ニュータウンより道が多いという話でした。

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歩道で開かれていたマーケットも印象に残っています。マーケットは果川中央公園の東側、2つの団地の間の歩道で開かれているもので、販売されているのは野菜、唐辛子、魚介類など食品を売る店が多いが、靴を売っている店も見かけました。販売しているのは高齢の女性の方が多く、店の表に出した椅子に座っている人が多い。
果川市を案内してくださった方の話では、販売しているのは開発前にこの付近で農業を営んでいた人々。今は別のところに移り住んでいるが、ここでマーケットを開いているとのことです。
このマーケットはプランナーが計画したものではなく、自然発生的に生まれたもので、今では公認されたマーケットとして毎日開かれているとのことでした。

この風景を見て、以前、千里ニュータウンにお住まいの方から、千里にないものとして「店の人とやり取りできる市場がない」「店頭で作って売る店(コロッケ屋さんのような店)がない」「商品がパック詰めになっていて買物の楽しさがない」という話を聞いたのを思い出しました。
果川市のマーケットはまさにこのような場所。プランナーが計画した店舗だけでなく、店の人と直接やりとりし、話をしながら買い物ができる場所があることも、町の魅力を高めるのだと改めて感じました。

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果川市は住民運動が活発だという話も聞きました。住民活動は大きく3つの種類があり、1つ目は行政と関わりのある運動で50~60代の人が参加するもの。2つ目は草の根の運動で40代の人参加するもの。3つ目は再開発に関する運動で40代の人が参加するものだいうことです。

2つ目の草の根の運動の参加者の3分の2は女性であり、専業主婦が多いとのこと。子育て中の母親は、子どもの目線で住環境を見るため、住環境に問題があれば解決したいと考える。それが住民運動に参加する動機となり、「子どもセンター」と呼ばれる場所が開かれたとのこと。
けれども、こうした動機で参加する女性は、子どもが大きくなると住民運動への関心が薄くなるが、その頃には、子育て中の新たな30代の人が運動に関わるようになるという話でした。果川市には、ある世代が住民活動から引いた後、すぐ下にも住民運動を担う世代がいるからこうしたバトンタッチができるわけですが、果川市では定住する住民の割合が小さいという背景があるということです。

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千里ニュータウンの場合も、第一世代の人々は、例えば、府営住宅の中庭にプレイロットを作ったり、幼稚園、小学校、中学校のPTAに関わったりというように、子育てが地域に関わるきっかけになっていることは同じだと感じました。けれども、千里ニュータウンの場合は定住率が高いため、年齢がすぐ下の世代の人が活動を引き継ぐというわけではない部分が大きな違いです。

(更新:2018年11月1日)