『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

高層のスターハウス:Y字型の平面をもつ集合住宅住棟

中層のスターハウス

団地の住棟というと、一般的に板状の住棟がイメージされることがありますが、ポイントハウス(ポイント型住棟)と呼ばれる塔状の住棟があります。ポイントハウスは、斜面地などに、単調になりがちな団地の景観に変化を持たせるアクセントとして配置されました。ポイントハウスにはいくつかの平面形態がありますが、その中に「Y字型」の平面をもつ住棟があります。このような住棟は、その形態から「スターハウス」と呼ばれてきました。
再開発前の千里ニュータウンには中層のスターハウスが見られました。その多くは既に取り壊されましたが、現在でも佐竹台公園の近くに中層のスターハウスが残されています。

(佐竹台の中層のスターハウス)

中層のスターハウスは、千里ニュータウンに限ったものでなく、各地に見られます。例えば、東京都北区の赤羽団地のスターハウスは、2019年7月に国の登録有形文化財に指定。現在、URまちとくらしのミュージアムとされています。

高層のスターハウス

中層のスターハウスは各地に見られますが、千里ニュータウンのUR千里竹見台団地には、14階建てという珍しい高層のスターハウスが3棟(C26〜28棟)ありました。このうち、C26棟はUR千里グリーンヒルズ竹見台の101棟として建て替えられましたが、「く」の字を2つくっつけたような平面形となっており、建替え前と同じでないもののスターハウスの平面になっています。そして、現在、C28棟の建て替えが進められています。

(再開発前のUR千里竹見台団地)

(建て替えられた住棟)

海外のスターハウス

スターハウスは珍しい住棟ですが、日本だけに見られるものではありません。これまで、3回、高層のスターハウスを見かけたことがあります。

1回目は、イギリスのハーロウ・ニュータウン。ファーストアベニュー(Fisrt Avenue)とハワード・ウェイ(Howard Way)が交差するラウンドアバウントの北東にあるStort Towerという10階建てのスターハウスです。

(ハーロー・ニュータウンのスターハウス)

2回目は、ニューヨーク・マンハッタンのハーレム。地下鉄1系統(1 Line)の125丁目駅(125th Stree)の北東に高層のスターハウス群が建ち並んでいるのを見かけました。ニューヨーク市住宅公団(New York City Housing Authorit:NYCHA)によるマンハッタンヴィル・ハウス(Manhattanville Houses)と呼ばれる6棟、20階建ての集合住宅で、設計はスイス出身の建築家のウィリアム・レスケイズ(William Lescaze:1896〜1969年)。

(ニューヨークのスターハウス)

3回目は、韓国の果川(グワチョン・Gwacheon)。果川は政府機関の移転先として開発された行政都市。地下鉄4号線の政府果川庁舎駅(Gwacheon Government Complex Station)の南東(Kolon-roとByeoryang-roの交差点の南東)の、近年開発されたと思われる高層住棟が建ち並ぶエリアの中に、高層のスターハウスが建ち並んでいるのを見かけました。

(果川のスタハーハウス)

香港のスターハウス

これまで海外ではイギリスのハーロウ・ニュータウン、アメリカのニューヨーク、韓国の果川の3回しかスターハウスを見かけたことがありませんでしたが、香港に訪れた時に多くのスターハウスを見かけたのが印象に残っています。香港で見かけたのは、日本に多い中層のスターハウスでなく、UR千里竹見台団地ような高層のスターハウスです。

香港では、これまで9つのニュータウンが開発されました。9つのニュータウンは、第1期〜第3期の3つの時期に分けられています。すべてのニュータウンを訪れたわけではありませんが、3つの時期全てのニュータウンで高層のスターハウスを見かけました。

■第1期のニュータウン

  • 荃湾(Tsuen Wan)ニュータウン:MTRの青衣(Tsing Yi)駅の北西にある長安邸(Cheung On Estate)、長発邸(Cheung Fat Estate)
  • 沙田(Sha Tin)ニュータウン:MTRの沙田井(Sha Tin Wai)駅のすぐ東側にある博康邸(Pok Hong Estate)

(荃湾ニュータウンの長安邸)

(荃湾ニュータウンの長発邸

■第2期のニュータウン

  • 大埔(Tai Po)ニュータウン:林村河と大浦河が合流する地点の南東にある廣福邸(Kwong Fuk Estate)、林村河と大浦河が合流する地点の北にある富善邸(Fu Shin Estate)、MTRの太和(Tai Wo)駅の西の太和邸(Tai Wo Estate)
  • 元朗(Yuen Long)ニュータウン:MTRの朗屏(Long Ping)駅の北西にある朗屏邸(Long Ping Estate)

(大埔ニュータウンの廣福邸)

(大埔ニュータウンの富善邸)

(大埔ニュータウンの太和邸)

■第3期のニュータウン

  • 天水囲(Tin Shui Wai)ニュータウン:MTRの天水囲(Tin Shui Wai)駅の北にある天耀邸(Tin Yin Estate)

(天水囲ニュータウンの天耀邸)

高層のスターハウスが建ち並んでいるのが写真からおわかりいただけると思います。少し歩いただけでもこのように多くの高層のスターハウスを見かけたため、香港のニュータウンには他にももっと高層のスターハウスがあると思われます。

ここで紹介しなかったニュータウンのうち、北ランタオ(North Lantau)ニュータウンを除くニュータウン、つまり、第1期の屯門(Tuen Mun)ニュータウン、第2期の粉嶺・上水(Fanling-Sheung Shui)ニュータウン、第3期の将軍澳(Tseung Kwan O)ニュータウンには、航空写真で高層のニュータウンが確認できました。

このような光景を目の当たりにすると、なぜ香港には高層のスターハウスがこのように多く建設されたのか、香港だけでなくアジアの国々のニュータウンにも高層のスターハウスは建設されているのかなどの疑問が湧いてきます。


【2024年8月14日追記】香港以外では、イギリスのハーロウ・ニュータウン、アメリカのマンハッタンヴィル・ハウス、韓国の果川でしか高層のスターハウスを見かけたことがないと書いていましたが、2024年7月、シンガポールのニュータウンでも高層のスターハウスを見かけました。
シンガポールの住宅開発庁(HDB)が開発するトア・パヨ(Toa Payoh)というニュータウンにある53号棟。1963年に完成した住棟で、現在一般公開されていないものの、屋上には展望ギャラリーがもうけられており、ここからはトア・パヨを一望できたということです。この住棟には、国内外から多数の要人が訪問したことから、VIP住棟(VIP Block)とも呼ばれています*1)。53号棟は、シンガポールの公営住宅の歴史に名を刻む住棟としてトア・パヨ・ヘリテージ・トレイルでヘリテージ(遺産)として指定されています。

(トア・パヨの53号棟)

本文中では「香港だけでなくアジアの国々のニュータウンにも高層のスターハウスは建設されているのか」と書いていましたが、トア・パヨの53号棟は、香港以外のアジアの国々における高層のスターハウスの例となっています。


■注

(更新:2024年10月11日)