アメリカのメリーランド州にグリーンベルト(Greenbelt)という郊外住宅地があります。ニューディール政策によって開発された3つのグリーンベルト・タウンの1つで、1937年に入居が始まりました。グリーンベルトを訪れ色々驚いたことがありますが、その1つが、グリーンベルトという郊外住宅地を管理・運営するために、何十人もの専属の専門家がいる存在していることです。
グリーンベルトで当初開発された1,600戸の住宅のある住宅地エリアは、グリーンベルト・ホームズ(GHI=Greenbelt Homes Inc.)という共同組合(Co-op)によって管理・運営されています。1,600戸という戸数は、千里ニュータウンの住区のほぼ半分という戸数になります*1)。
GHIはグリーンベルト内にオフィスを構えており、そこで41人もの専属のスタッフ(共同組合GHIによって雇用されているスタッフ)が働いています。少し情報が古いですが、2008年10月時点のスタッフは以下の通りです。
- マネジメント:4人
- メンバー・サービス:3人
- 財務:6人
- 建物メンテナンス:5人
- 機械:8人
- 土地:4人
- 構造:6人
- 技術サービス:5人
1,600戸の住宅地で、41人もの多様な専門領域のスタッフが勤務している。この割合は千里ニュータウンにあてはめれば、千里ニュータウンの各住区に約94人の専属のスタッフがいる計算になります。
GHIでは、住民が選ばれた人が理事会を結成し意志決定を行っており、理事会の下では住民有志が会計監査、選挙、建築、財務、マーケティング、コミュニティ、投資、コミュニケーション(情報)、森林、建築、動物飼育などの委員会に参加し、管理・運営に関わっています。こうした住民による管理・運営をサポートするのが41人もの専属スタッフ。
もちろん、千里ニュータウンでも住民が自治活動を行ったり、そのための組織が作られたりしています。けれども、任期ごとに役員が変わってしまうため自治活動の継続性が持ちにくいこと、GHIのように様々な領域について専門的知識をもつ人が揃っているわけではないこと、日中は都心に通勤しているなどの理由で地域のことに必ずしも詳しいわけでないことなどの難しさがあるように感じます。
住民参加の活動が重要であることは間違いありませんが、それをきちんとした専門的知識を背景としてバックアップする専門家がいない、その町のことだけ考えている専門家がいない。この部分が、千里ニュータウンの住民参加の活動に欠けているような印象を受けます。
GHIと同じくらいの割合、即ち、千里ニュータウンの各住区に90人を越える専属の専門家が働いているという環境であれば、千里ニュータウンを取り巻く状況は大きく変わるかもしれません。
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■注
- 1)住民基本台帳によれば千里ニュータウンの12住区の世帯数は2015年3月末の時点で44,523戸。1住区あたりの平均は約3,710世帯になる。戸数と世帯数は厳密には一緒でないが、GHIが管理・運営する,600戸という戸数は、千里ニュータウンの1住区の世帯数の約0.43倍になる。
(更新:2022年4月17日)