2017年8月上旬、ネパールのマタティルタ(Matatirtha)村においてIbashoプロジェクトの掲示板作りを行いました。8月4日(金)のワークショップでは、Ibashoプロジェクトでまず取り組みたい活動として、チャウタリ(Chautari)という菩提樹の下の人々が集まる場所の改善、Ibashoプロジェクトの情報を掲載した掲示板作り、高齢者住宅(Oldage Home)に開く図書館のための本棚作りの3つがあげられました。 8月7日(月)のワークショップでは、それぞれの具体的なデザインの検討と、どのような材料を入手する必要があるか、どのくらい費用がかかるかについて意見交換。 チャウタリの改善にはレンガ、セメントを使います。大掛かりな工事になるため、デザインと費用を十分に検討してから工事に取りかかる必要があるという話になり、まず木を材料とする掲示板、本棚作りから始めることとなりました。 掲示板は、Ibashoに関わる活動が村のどの場所で行われているかを掲載したもの。1つの建物内で活動するのではなく、「Ibasho as a Village」(Ibashoの8理念が実現される村)を実現する上では重要なものです。 8月4日(金)のワークショップでは掲示板に地図を掲載したいという意見が出されていました。これを踏まえ、8月7日(月)のワークショップでは参考として、大船渡市の「居場所ハウス」の掲示板、Ibashoフィリピンの掲示板の写真を紹介。その後、今年3月にもマタティルタ村を訪問したアメリカの建築家・Sさんから掲示板を大きく2つの部分に分け、地図を掲載する部分と、チラシなど随時情報を更新する部分をもうけるのはどうかという提案。また、ワシントンDCの「Ibasho」代表のKさんからは、地図には地震の時に有用な防災情報も掲示してはどうかという提案がありました。村の方は、いずれの意見にも賛成されていました。 掲示板を設置する場所として、村の方からは4ヶ所があげられていました。そこで、まずはSさんのアドバイスを受けながら、見本として1つを一緒に作ることに。材料については、鉄の方が長持ちするという意見がありましたが、費用のこと、また、みなで作業できるよう木材で作ることに。Sさんからは、見本として作った掲示板が気に入らなければ、作り替えたらいいし、木ならそれができるという意見。木材は、実際に木材屋で確認することになりました。
掲示板作りのプロセス
8月7日(月)
高齢者住宅(Oldage Home)での意見交換を終えた後、高齢の男性、Mさんら2人と、高齢者住宅のスタッフDさんと木材屋へ。紹介してもらった材屋は高齢者住宅から車で10分ほど行ったところにありました。木材を確認し、あらかじめ整形された木材ではなく、量り売りされている端材が使えるということになり、掲示板のフレームに使えそうな端材を選びます。その後、Sさんの図面に基づいてカット、表面のクリーニングをしてもらいました。
8月8日(火)
この日も高齢の男性Mさん、高齢者住宅のスタッフDさんとともに木材屋へ。この日は掲示板の板部分と、地面に固定するための柱部分、雨よけのための屋根部分の木材を購入しました。本棚の材料も購入する予定でしたが、Sさんの図面通りに作ろうとすると値段が高くなることがわかったため、掲示板の材料のみ購入することとなりました。 本棚については、図面さえあれば村の人だけで作れる(ネパールから帰国後でもよい)という話があり、掲示板作りを優先して行うことに決定しました。
8月9日(水)
村の方はどのような工具を持っておられるかを見せたもらうため、この日はまず高齢の男性Mさんの家を訪問することに。Mさんは元大工。ノコギリ、金槌などの工具を見せていただきました。この他、村の方に聞いたところ、ノコギリを持っている方はほとんどいないことがわかりました。 夕方、電動ドリルを買うためカトマンズ(Katmandu)中心部へ。掲示板作りのためにSさんが必要と話されていたもので、値段は2,500NPR(約2,500円)。実は電動ドリルを購入するか否かについては議論がありました。わざわざ新たな道具を買わなくても、村にある道具を使った方が良いのではないか、ワシントンDCの「Ibasho」の役割はお金や物の寄付ではない、など。しかし、Ibashoプロジェクトのコーディネーターである「Bihani」代表の方から、電動ドリルの使い方を教えると村の人も使えるようになるし、電動ドリルの使い方を覚えれば自分たちで作れるものの幅が広がるという意見がありました。掲示板作りが終わった後は、村の人に電動ドリルを貸し出す仕組みを作ればいいという話をしました。
8月10日(木)
この日から掲示板作りを開始。これまでIbashoプロジェクトのワークショップは高齢者住宅で行っていましたが、掲示板作りには広いスペースが必要であること、村の人が出入りしやすい場所が好ましいことから、女性グループ「Mahila Samuha」の建物を使わせていただけることになりました。先日もご紹介した通り、女性グループのメンバーが自らの手でレンガを積み、建てた建物です。内装のペンキ塗りまで行われており、今後、外壁も青で塗装したいという話でした。 高齢者住宅から女性グループの建物に木材、工具を運んだ後、掲示板作りをスタートしました。初めに、先日購入した電動ドリルの使い方講習。講習会には高齢の男性、高齢者住宅のスタッフ2人、そして、女性グループのメンバーが参加。Sさんの説明の後、実際に電動ドリルを触ってもらうことになりました。何人かが電動ドリルを試していたところ停電に。電動ドリルの使い方講習会は一旦中止し、掲示板作りを行うことになりました。Kさんの図面に従い、掲示板のフレーム部分の組み立てを行いました。 掲示板作りをしている隣では、1人の高齢の男性が、女性グループのメンバーにイヤリングの作り方を教えておられました。イヤリング作りはIbashoプロジェクトで取り組んでいる活動の1つ。針金とビーズを使ったイヤリングで渦巻き型、三角形型のものなどいくつかの種類がありますが、三角形型は今のところ、この高齢の男性しか上手く作れないとのこと。男性は三角形型のイヤリングを作ルため、板に3本の釘をさした道具を自作されており、道具を使ったイヤリング作りの方法を教えておられるようでした。
8月11日(金)
村を訪問する最終日。12時前に、女性グループの建物に到着したところ、既に元大工の男性Mさんが待っておられました。まず、昨日停電で中断してしまった電動ドリルの使い方の説明。この日は建築家のSさんではなく、村の人同士で電動ドリルの使い方を教え合っておられました。 この後、フレーム、掲示板を立てるための柱、そして、雨よけのための屋根を作るため、3つのグループに分かれての作業。14時半頃、作業をしていた男性に掲示板作りを続けるか、休憩してミーティングをするかを確認したところ、このまま掲示板を作ってしまいたいとの返事。最後まで掲示板作りをすることになりました。16時過ぎ、フレーム、柱、屋根を組み合わせ、掲示板の構造が完成。 なお、この日も掲示板作りが行われている隣では、女性グループのメンバーらがイヤリング作理をしたり、掲示板に載せる地図の検討をされたりしていました。
後日、建築家のSさんに、今回の掲示板作りを振り返ってもらったところ、木材や工具の入手が大変で、木材もカットすることから行う必要があったため予想より時間がかかってしまったとのこと。時間の余裕がなかったこともあり、今回は自分が描いた図面に基づいて木材をカットしてもらったが、もしもう一度掲示板作りをするとすれば、村の人のアイディアを取り入れたデザインにしたいと話されていました。また、Kさんは、今回の掲示板作りには元大工の男性のMさん、高齢者住宅スタッフのDさんを中心として、多くの人が一貫して関わってわってくれたことはよかったし、そのような村の人の姿に驚かされたと話されていました。 構造が完成した掲示板。村の人によって、屋根の防水、ペンキ塗り、地図の作成が行われた後、高齢者住宅近くのチャウタリ付近に設置される予定です。また、この掲示板を参考にして、高齢者住宅(Oldage Home)、女性グループの建物、もう1ヶ所のチャウタリの近くに設置する掲示板も作られる予定です。
今回の掲示板作りの意味
今回の掲示板作りには次のような意味があったと考えています。
- 「Ibasho as a Village」(Ibashoの8理念が実現される村)の実現に向け、Ibashoに関わる場所が村のどこで行われているかについての情報を共有するためのプラットフォームができた。
- 具体的な活動を行い、その結果が目に見える変化をもたらすことにつながった。その過程では、元大工の高齢の男性が中心的な役割を担ったように、高齢になっても自分にできることを通して村に関わるための機会となった。
- お金や物を直接寄付するのではなく、掲示板の作り方、電動ドリルの使い方という知識・技術の伝授ができた。特に電動ドリルについては、使った経験のある人はほとんどいなかったが、何名かが使い方を習得された。村の人の話し合いで、電動ドリルは高齢者住宅で管理し、Ibashoプロジェクトに関わるメンバーへの貸し出しが行われることとなりました。村の人たちが自分たちで作れるものの可能性が広がればと思います。
- 掲示板作りを女性グループの建物で行ったことで、Ibashoの活動が村の中に出る機会となった。作業の様子を覗きに来られた方もおり、Ibashoプロジェクトのことを知ってもらうきっかけになった。
- 掲示板作りが行われている隣では、女性グループのメンバーらがイヤリング作りをされていました。また、建物に出入りする人もいました。それぞれが思い思いに過ごせる場所に置いて、掲示板作りが行われている。Ibashoの活動とは、必ずしもみなが同じ活動に参加する形で行われるものではなく、村での日々の暮らしの一部として行われるものだという形を作ることができた。