『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

ネパール・マタティルタ村におけるIbashoの拠点のコンセプト

マタティルタ(Matatirtha)村における2017年3月13日(月)、14日(火)の2日間のワークショップを終えた後、Ibasho/Ibasho Japanのメンバー、Ibashoプロジェクトのコーディネートを担当するソーシャル・ベンチャー「Bihani」のメンバー、建物の建設について協力してもらっている米国ニューヨーク在住の建築家、ネパールの大学(Himalaya College of Engineering)の教員らで、拠点となる建物について出された意見の整理と、次回のワークショップに向けたミーティングを行いました。
ニューヨーク在住の建築家、Sさんが中心となって議論を進め、拠点となる建物のコンセプトを次のように整理しました。

①Ibashoのエコシステムを生み出す
Ibashoは建物を建設するプロジェクトではなく、高齢者が地域の暮らしに参加することを目指すものであり、そのための多世代の活動を行うもの。従ってIbashoプロジェクトの建物を単体として建てるのではなく、既にIbashoプロジェクトの活動が行われている農園、高齢者住宅(Matatirtha Oldage Home)、そして、女性グループ(Mahila Samuha)の建物、学校など村にある既存の場所とのネットワークを考える。例えば、農園で収穫した野菜、高齢者住宅(Matatirtha Oldage Home)で作ったクラフト・グッズをIbashoの建物で販売したり、必要に応じてIbashoの建物や女性グループの建物の使い分けを行ったりする。Ibashoの建物をこのようなネットワークの拠点とすることで、高齢者が地域の暮らしに参加するための多世代の活動が行われやすい村を実現する。

②建物を建設することで広場を活かす
敷地の南側にある広場は村にとって重要な場所であるため、建物をセットバックさせることで既存の広場をより広く使えるようにし、広場に面した部分に開口をもうけることで広場と建物との連続性を実現する。

※マタティルタ村の例ではありませんが、2015年のネパール大震災の後、被災地支援に訪れたINGOなどの団体によって多くの仮設の建物が建設されたとのこと。仮設の建物は被災地支援として必要なものですが、仮設の建物が広場の真ん中に建てられることで、暮らしにとって重要な広場(バハール/ビハールと呼ばれる広場など)が使いにくくなっている事例があるという話を伺ったことがあります。広場とは、建物が建っていない空白のスペースではないことを忘れてはなりません。

③家具を上手く使って多用途に使える空間とする
村の方から要望として出された機能を、1つずつ別々の部屋にすることはできない。家具や棚を上手く活用することで多用途に使える空間とする

④村の人々が自分たちで建築する・増築する
コーディネートを担当する「Bihani」の方から、村の人は自分たちで建物を建てることができるという話。実際に敷地の近くにある女性グループ(Mahila Samuha)の建物は、女性たちがレンガを使って建てた建物。Ibashoプロジェクトに参加しているメンバーや、メンバーの兄弟には建築関係の仕事に就いていた/就いている人もいる。そこで、Ibashoのプロジェクトでは、完成した建物を村の人が利用するのではなく、建物を建てること自体も村の人人の活動の一環とする。また、後から水平方向・垂直方向に増築できるように、最初は1階部分だけのシンプルな建物にしておく。

※この点についてはミーティングに参加したメンバーで多くの議論がありました。村の人たちが自分たちで建築するとしても、コストを算定したり、適切な素材について情報提供したりする役割は誰が担うのか。ミーティングで議論した内容を村の方々と共有し、それを建物を建てる段階に移行させる方法を考える必要がある、などの議論です。ミーティングの参加者によって専門家はどのような役割を担うのかについての考え方が違ったという理由もありますが、これらの議論からは、Ibashoプロジェクトを進める上では、高齢者に向けられる眼差し、高齢者の役割を変えていくのと同時に、専門家が担う役割自体も変えていく必要があるのではないかと痛感させられました。


3月17日(金)に開催するワークショップでは、以上のコンセプトを村の人々と共有するため模型を作って説明することとなりました。模型は3月16日(水)、17日(木)の2日間で作るという話に。また、Ibashoのエコシステムについては、ワークショップで村にある場所を地図にしてもらうことも話し合いました。