フィリピン・オルモック市のバゴング・ブハイ(Barangay Bagong Buhay)ではIbashoフィリピンの活動が行われています。
2014年4月、2013年台風30号(台風ヨランダ)の被災地支援を行う国際NGO・HelpAge/COSEのコーディネートで、ワシントンDCの非営利法人・Ibashoがバゴング・ブハイを訪問。3度の訪問の後、バゴング・ブハイの高齢者協会(Senior Citizens Association)の有志が自主的にペットボトルのリサイクルをスタートさせました。ワシントンDCのIbashoの最初の訪問から4年半以上、ペットボトルのリサイクル活動から3年半位以上が経過。現在、拠点となる建物の建設が進められており、2019年1月上旬にはオープニングが行われる予定です。
Ibashoフィリピンの活動が新たな段階に差し掛かるタイミングで、IbashoフィリピンのメンバーへのIbasho Ambassadorのトレーニングが行われました。トレーニングはワシントンDCのIbasho代表のKさによって行われました。目的は、今まで自分たちで取り組んできた活動のことを、地域(バランガイ・バゴング・ブハイ)の人や、他の地域(他のバランガイ)の人に説明できるようにするため。もちろん、その過程で自分たちが取り組んできた活動を振り返ってもらうという意味もあります。
トレーニングは2018年11月23日(金)、11月24日(土)の2日間にわたって行われました。
目次
トレーニング1日目
- 日時:2018年11月23日(金) 9:15~16:10
- 場所:バゴング・ブハイの多目的室(Multipurpose Room)
- Ibashoフィリピンからの参加者:13人(男性4人、女性9人)
トレーニングの目的の説明・アイスブレーキング
- 9:15~9:45
最初にEさんからトレーニングの目的の紹介と、トレーニングで注意することとして、②1~2人だけで会話を支配しないようにすることの2点の説明がありました。
この後、アイスブレーキングとして2人ずつ組みになってもらい、子どもの頃のCraziest Thingを互いに紹介し合うというアクティビティが行われました。
Ibashoの8理念のセブアノ語訳
- 9:45~10:35
2つのグループに分かれてもらい、グループごとにIbashoの8理念をセブアノ語に訳してもらいました。事前にIbashoの8理念をベースにした絵本(英語・日本語)を配布しており、英語からセブアノ語への翻訳への翻訳をしてもらいました。
Ibashoの8理念のセブアノ語訳の発表・議論
- 10:35~12:00
グループごとにセブアノ語に翻訳したIbashoの8理念を発表。発表の後、他の地域から視察に来ている人という想定で質疑応答。8つの中で1番重要な理念は何か? 理念を会議に採用するにはどういう工夫をすればいいか? 若い世代が高齢者を尊敬するにはどうすればいいか? などの質疑応答が行われました。
休憩
- 12:00~12:20
Ibashoの8理念の紹介
- 12:20~12:35
ワシントンDCのIbashoのEさんから、Ibashoの8理念をどのような考えで作ったかについての話がありました。
昼食
- 12:35~13:30
Ibashoの8理念のセブアノ語訳の完成
- 13:30~15:25
午前中、2つのグループに分かれてIbashoの8理念をセブアノ語に翻訳してもらい、2つのバージョンの翻訳ができました。午後からは、全員で議論して1つの翻訳としてまとめてもらいました。2つの翻訳を見比べながら議論が行われましたが、この時にもより良い翻訳にするための作業を行なったとのこと。理念の1つにある地域の文化についての議論になった時には、中国でもスペインでもアメリカでもなく、自分たちの国の文化だという話もされていました。1時間ほどで、2つの翻訳を1つにまとめる作業が完成し、完成した翻訳が模造紙に書かれました*1)。
Ibashoフィリピンの振り返り
- 15:25~16:05
Ibashoフィリピンでは、これまでどのような活動を行ってきたかを振り返りました。活動を振り返るのは、自分たちの活動を説明できるようになるためですが、もう1つ、次のような意味もあります。上に書いた通り、現在、拠点となる建物の建設が進められていますが、Ibashoは建物を建設するだけのプロジェクトではなく、高齢者に対する眼差しを変えていくことを目的とする活動。そのためIbashoフィリピンではペットボトルのリサイクル、農園、フィーディング・センター(Feeding Center)のリノベーションなどの活動を重ねてきました。これらのプロセス全てが大切だということを改めて共有するためです。
そこで、模造紙に2014年4月のワシントンDCのIbashoの最初の訪問から現在までの期間について、主な出来事を書き込んで年表を作成しました。そして付箋に名前を書いてもらい、自分が初めて参加した時期に貼ってもらいました。次に自分が建物の建設にどのように協力したか、建物の建設以外にどのような活動に関わったかを付箋に書いて模造紙に貼ってもらいました。最後に、模造紙に貼られた活動の中で、自分が好きなもの、好きでないものを記入してもらいました。
まとめ
- 16:05~16:10
明日のトレーニングの内容の紹介が行われました。
トレーニング2日目
- 日時:2018年11月24日(土) 9:05~12:30
- 場所:バゴング・ブハイの多目的室(Multipurpose Room)
- Ibashoフィリピンからの参加者:14人(男性3人、女性11人)
Ibashoフィリピンの紹介方法の議論
- 9:05~9:40
2つのグループに分かれてもらい、Ibashoフィリピンの活動をどう紹介するかを議論してもらいました。テーブルの上には、先日作成したI活動年表を置いており、随時参考にしてもらいました。
Ibashoフィリピンの活動の紹介
- 9:40~10:40
他の地域から視察に来た人に説明するという想定で、グループごとにIbashoフィリピンの活動を紹介してもらいました。
活動を紹介した後、質疑応答と議論。活動した内容を時系列で羅列するのではなく、物語のように話した方が伝わりやすい、海外から支援してもらったことを強調するのではなく、自分たちで取り組んできたことを話した方がいいなどの議論が行われました。また、Ibashoに参加することでどのような利益があるのか、なぜ、拠点となる建物が必要かなどの議論も行われました。Ibashoに参加することの利益について、ある女性は、Ibashoに参加する前は家にいて孫の子守をしており、同じ世代の人と一緒に活動することは滅多になかったと話されていました。
休憩
- 10:40~11:00
拠点となる建物の位置づけの共有
- 11:00~11:25
拠点となる建物ができることは大切だが、Ibashoは建物を建設するプロジェクトではなく、これまで拠点となる建物なしで何年も活動してきたことを忘れてはならないことを確認。そして、拠点となる建物は高齢者が物理的に集まれるシンボルであると同時に、高齢者に何ができるかを表現するためのシンボルであること、また、建物ではなく場所(Place)を作ることが大切だという話などが行われました。
アカウンタビリティ(Accountability)とリクルートのアイディアの議論
- 11:25~12:05
2つのグループに分かれてもらい、片方のグループにはIbashoフィリピンのアカウンタビリティ(Accountability)について、もう片方のグループにはメンバーを増やすためのアイディアについて話し合ってもらい、発表してもらいました。アカウンタビリティのグループからは、ミーティングに参加すること、参加できない場合は連絡すること、自分の役割を果たすこと、課題を共有することなどの意見が出されました。
自分がIbashoに対してできること/したいことの紹介と授与式
- 12:05~12:30
自分がIbashoに対してできること/したいことを付箋に書いて、模造紙に貼ってもらいました。そして順番に前に出てきてもらい、模造紙に貼った内容を順番に紹介。この後、Ibasho Ambassadorの授与式を行いました。
以上のように2日間のIbasho Ambassadorのトレーニングを行いましたが、ワシントンDCのEさんが、「今回は私が教えるのではなく、みなさんから教えてもらうために来た」と話されているように、トレーニングは一方的なものではなく、互いに学び合う機会として開かれ、実際、そのような機会になったと思います。これができたのも、時々しか訪問しないとしても、顔の見える関係が築かれていたからこそだと思います。
今回のトレーニングではIbashoの8理念について多くの時間を割きました。理念は活動のベースになるものですが、理念だけでは個々の活動を実践することはできない(理念からどのように実践すればよいかが自動的に導かれるわけではない)ことも事実。理念から実践へという一方通行ではなく、理念は実践として具現化し、実践を経験したからこそ理念をより深く理解できるという双方向的な関係になると思いますが、こうした関係にある理念と実践とをセットで共有していけるようなもの(理念と実践を媒介するもの)を考えることが、次のステップとして求められるのかもしれません。
注
- *1)翻訳作業により、メンバーはより深く理念を理解できるようになったと思うとローカル・コーディネーターのIさんが話されていた通り、理念の翻訳は、理念を自分たちのものにする作業だと思います。ただし、英語からセブアノ語への翻訳が可能だったのは、フィリピンで英語が普及しているから、つまり、アメリカ文化の強い文化を受けているから。地域の文化について、トレーニングでは中国の文化でも、スペインの文化でも、アメリカの文化でもなく、自分たちの国の文化だという議論がなされていたように、フィリピンでは自分たちの国の文化とは何かという問い直しが行われている。英語は自分たちの国の文化を覆い隠すものである。けれども、英語は外部とのコミュニケーションの窓口であるが故に、英語からセブアノ語への翻訳が可能だったとも言えます。IbashoフィリピンのメンバーにはこれまでIbashoの8理念を何度も伝えてきましたが、ローカル・コーディネーターのIさんが口頭で翻訳することはあっても、翻訳したものを文字として残すという作業は今回が初めて。翻訳作業をもっと早い時期に行うべきだったか否かについては議論があると思いますが、英語で表記されたIbashoの8理念の押し付けではなく、自分たちのものになるためには、これまで数年にわたって活動してきたというプロセスの経験が重要だったのではないかと思います。トレーニングでは英語からセブアノ語への翻訳はかなりの時間をかけて議論されましたが、表面的な言葉の翻訳ではなく、経験を伴った翻訳だったからこそ、時間が必要だったのではないかと考えています。午前中に行われたセブアノ語訳の中には、Komunidada/Communidad、Kulture、Tradisyon、Normalというように、英語のCommunity、Culture、Tradition、Normalから類推できる単語(外来語?)が含まれていましたが、完成版の翻訳にはこうした単語はなくなっていました。ここには議論により自分たちの言葉として翻訳しようとしたことの結果が現れていると思います。