『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

Ibashoフィリピンの活動拠点となる場所

2018年9月17日(月)、フィリピン・オルモック市のバゴング・ブハイ(Barangay Bagong Buhay)で活動するIbashoフィリピンで、拠点となる建物の建設が始まりました。

2013年台風30号(台風ヨランダ)の被災地支援を行う国際NGO・HelpAge/COSEのコーディネートで、ワシントンDCの非営利法人・Ibashoが訪問した後、2015年1月末、バゴング・ブハイの高齢者協会(Senior Citizens Association)の有志が自主的にペットボトルのリサイクルを開始。これが、Ibashoフィリピンの始まりとなります。
拠点となる建物がなかったため、ペットボトルのリサイクルを始めて以降、農園での野菜作りと収穫した野菜の販売、モバイル・カフェビンゴ大会などの活動を少しずつ積み重ね、活動資金を蓄えてきました。身の回りの環境を改善するための活動として、バランガイ・ホール前にあるフィーディング・センター(Feeding Center)のリノベーションも行いました。

2018年6月24日(日)、「居場所ハウス」、Ibashoネパールのメンバーらの訪問に合わせて、拠点となる建物を建設するための地鎮祭を開催。その後、9月中旬から建設作業が始まりました。

写真は2018年11月末に訪問した時に撮影したもの。柱、壁は完成に近づいており、梁の部分の作業が行われていました。建設作業に従事しているのはフィリピン軍・第802歩兵旅団の6人の兵士です。

上に書いた通り、Ibashoフィリピンでは活動資金を少しずつ蓄えてきましたが、それだけでは建設資金は十分ではありません。現在、Ibashoフィリピンのプロジェクトは、世界銀行・防災グローバルファシリティ(GFDRR)のプログラムとして行われていますが、このプログラムでは建設資金(建設にかかる人件費)はサポートの対象外となっています。

そこでIbashoフィリピンのメンバーはオルモック市と交渉し、フィリピン軍・第802歩兵旅団が地域貢献として建設作業を担当してもらえることになりました。ただし、建設作業が行われている期間、作業に従事する兵士はバゴング・ブハイの住民の家に寝泊まりし、飲食を提供するというのが条件です。
Ibashoフィリピンのメンバーは食事を届けたり、軽食・ジュースなどを差し入れしたりしているとのこと。男性メンバーの中には建設作業にほぼ毎日顔を出し、作業の監督をしたり、手伝ったりしている人もいるとのこと。こうした協力の他、建設にかかる申請書類を市役所に持参したり、資金獲得のためのビンゴ大会を開催したりと、建設作業にはIbashoフィリピンのメンバーの参加により進められています。

拠点となる建物を建設するためには様々な作業が必要になりますが、拠点となる建物をもつことには次のような意味があると考えています。
1つは、建物を建設するプロセスは、活動に、そして、地域に関わるためのきっかけになること。ローカル・コーディネーターのIさんは、もし建物を建設するという目標がなかったら、メンバーはここまで活動を続けることができなかったかもしれないと話されていました。
もう1つは、人々が集まり、関われる具体的な場所ができること。拠点となる建物が建設されているのは屋根付きのバスケットボール・コート(Covered Court)脇の空き地。バスケットボール・コートは若者・子どもがバスケットボールをしたり、様々な地域のイベントが行われたりする地域の中心となる場所。また、地域の中心になるバランガイ・ホール(Barangay Hall)のすぐ近く。このように立地の良い土地であるため、今は想像できないような多様な関わりが生まれるだろうと思います。


2018年11月22日(木)、Ibashoフィリピンでミーティングが開かれました。テーマの1つは、これからの活動のスケジュールを共有すること。
建物の建設は重要ですが、建物の建設だけがIbashoフィリピンの活動ではありません。そこで、模造紙を建物の建設と、建設以外の活動に分けた上で、それぞれの州で取り組む内容を付箋に書き込み、該当する部分に貼ってもらいました。模造紙に貼られた付箋を順番に見ながら、今後1〜2ヶ月で取り組む活動を共有。また、2019年1月5日(土)に建物のオープニングの行事を開催することも決まりました。

被災地支援/開発途上国支援の1つとして、外部から支援に入った団体が建物を建設して地域に引き渡すというあり方があります。
けれども、バゴング・ブハイにおけるIbashoプロジェクトでは、これとは違うプロセスをとってきました。高齢者に対する眼差しを変えていくという理念を実現するためには、一方的な支援として場所を与えるのではなく、高齢者も場所を作りあげるプロセスに関わることが大切だと考えているからです。
Ibashoフィリピンでは、上に紹介したペットボトルのリサイクル、農園、モバイル・カフェ、フィーディング・センターのリノベーションなどの活動を重ねてきました。こうした活動を重ねてきたメンバーの協力により、拠点となる建物の建設が進められています。
大切なのは拠点となる建物が完成した後も、これまで取り組んできた活動との連携を考えながら、拠点となる建物を運営すること。この日のミーティングでは農園で収穫した野菜を使った料理を作る、収集したペットボトルで作品を作って販売するなどの意見交換も行われました。

もちろん建物が完成してしまうと、これまでのプロセスをよく知らない人からは、Ibashoとは建物を建設するプロジェクトだという誤解を受ける恐れもあります。地域の状況によっては新築ではなく、既存の建物のリノベーションにより拠点を確保する方法もありますが、Ibashoフィリピンのように建物を新築した場合には、この恐れはより大きなものになります。
こうした恐れがあるとしても、拠点となる建物には大きな可能性があります。だから、こうした誤解を避けるためには、Ibashoフィリピンが何を目指すのか、そして、どのような活動を積み重ねてきたかを共有していくことが大切になります。この点は、ミーティングの翌日・翌々日に行われたトレーニングでも議論になったことです。