『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

千里ニュータウン再開発の光景:古江台の変化

千里ニュータウンの集合住宅(団地)は2000年代に入って以降、大規模な再開発が行われ、光景は大きく変化しました。
再開発は必ずしも否定すべきことではありませんが、千里ニュータウン開発ではどのような工夫がなされ、どのような課題が生じたのかが総括されないままに歴史が急速に失われること、また、再開発が一斉に行われたため、将来も急激に人口の高齢化、建物の老朽化が生じるであろうことなどの問題もあると感じます。もちろん、再開発のあり方については今後も議論とa検証がされていくと思いますが、それとは別に再開発前の光景は記録として残しておくべきだと考えています。
千里ニュータウンには再開発前の光景を残すような体制や仕組みがないため、それならば個人でもできることをと考え、千里ニュータウンを訪問する際には意識的に写真や動画を撮影してきました。ここでご紹介しているのはこのような考えで撮影した動画です。

動画は2011年に入ってから撮影するようになりました。当時、スマートフォンなどの端末が普及し始めており、手軽に動画を撮影することができるようになりつつありました(当初はアップルのiPod Touchを使って撮影していました)。現在のスマートフォンに比べると画質も劣り、また、最初の撮影時点でも既に府営住宅の再開発が始まっていますが、少しでも再開発前の様子をお伝えできればと思います。

千里ニュータウンにお住まいの方々が昔を振り返るための資料、子どもたちが千里ニュータウンのことを知るための資料などに役立てばと考えています。

2012年1月30日撮影(阪急千里線:山田駅→北千里駅)

2012年8月22日撮影(阪急千里線:山田駅→北千里駅)

府営千里古江台住宅

団地の住棟配置においては、一般的に各住戸の日当りを確保するために南側に部屋を配置することが考慮されます。結果として、団地では東西に細長い住棟(東西軸の住棟)が平行に配置されることになります(平行配置)。板状の住棟が整然と並ぶという一般的にイメージされる団地の景観は、「平行配置」によって生み出されたものです。
これに対して、千里ニュータウンの府営住宅(B棟)では、住棟を中庭を作るように配置することで、いくつかの住棟によってコミュニティのまとまりを作ることが考えられました(囲み型配置、または、コの字型配置)*1)。

千里古江台住宅の南側(動画ではメタセコイア並木より前に映っている部分)は「囲み型配置」がなされています。高低差のある敷地に、中層住棟が「囲み型配置」された千里古江台住宅は、千里ニュータウンの、特に吹田市域の典型的な府営住宅の風景を作り出していました。

(千里古江台住宅の囲みの内側)

一方、千里古江台住宅の北側(動画ではメタセコイア並木より前に映っている部分)は「平行配置」となっています。ただし、このエリアには団地の風景に変化をつけるためのポイント型住棟も配置されています。

(千里古江台住宅の平行配置された住棟)

このように、南側と北側とで異なる配置がなされているのが千里古江台住宅の特徴です。

当初、千里ニュータウンの府営住宅の住戸内には風呂場が設置されていませんでしたが(当初は近隣センターの銭湯を利用していた)、その後、住戸には部屋と風呂場が増築されました。動画で見られる出っ張りが、増築部分です。増築は階段室の出入口と反対側(中庭側)に向かってなされており、住棟によって増築の向きが違うことがわかります。また、階段室がある向きも住棟によって異なるため、よく見るとベランダのある側に階段室がある住棟、ベランダのない側(のっぺりした側)に階段室がある住棟というように、住棟の表情も異なります。
「囲み型配置」を採用することで、一部の住棟には西向きの窓ができるため、西向きの窓(動画では反対側のため映っていない)には緑色の日除けが設置されています。緑色の日除けからも、この団地が「囲み型配置」されていることがわかります。

一見すると団地の住棟は同じように見えますが、ここでご紹介したように府営住宅では様々な工夫がされています。住棟で中庭を作るという物理的な操作でコミュニティが形成されるという考えは安易ではないかという批判もあると思いますが、半世紀前の府営住宅でこのような工夫がされたことは忘れてはならないことです。

千里古江台住宅の北側は、吹田古江台住宅への建替えが進められており、動画の後半に完成した吹田古江台住宅の住棟が映っています。

「昭和30年代、大阪府で公共団体の手による初の東西向住戸をもつ(南北軸線)中層集合住宅が出現し、それに対し環境工学者から疑問が提起され、方位と熱環境に関する実測調査が行われた*1。それによると予期に反して南北向住戸の東西向住戸に対する優位性を定量的に明確に示すことができなかったとしている。居住者の応答では、いずれも南北向が有利であることを示したと報告されている。その調査では、居住者がすでに入居しており、生活しているそのままの状態で行なわれている。」*2)
※澤田絋次「方位の異なる集合住宅の自然室温の実測調査」・『日本建築学会東北支部研究報告集』Vol.38 pp.171-178 1981年11月


■注

  • 1)「囲み型配置」により生まれる南北軸線の住棟に対しては、住戸の日当りが悪くなるのではないかという問題提起が建築学会の環境工学者によってなされています。しかし、以下のように、実測調査からは南北軸線の住棟と東西軸線の住棟とでは、熱環境に定量的な差が見られなかったとされています。
  • 2)引用文の中で(*1)として参照されているのは以下の資料である。中村泰人「建築学会 環境工学委員会熱シンポジウム 第7回 『住宅の方位と熱環境』」。

(更新:2024年2月25日)