新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、レストランやカフェでの食事の仕方が大きく変わりました。これによって、都市や街にどのような変化がもたらされたのか。その1つとして、道路を屋外ダイニングの場所にすることをあげることができます。具体的には、車両通行止めにした道路をレストランの屋外席にするストリータリー、レストラン前の歩道にテーブルを置いて屋外席にする、パークレット(Parklet)を設置するという取り組みです。ここでは、パークレットについてご紹介したいと思います。
目次
サンフランシスコ発祥のパブリック・パークレット
パークレットとは路肩の駐車スペースにテーブルや椅子、ベンチなどを置いたり、植栽を植えたりして、人々が過ごせる場所にするという取り組みです。2010年、サンフランシスコで初めて公式に設置されたもので、その後、各地に広がっていきました。2019年5月時点でサンフランシスコには50の「パブリック・パークレット」(Public Parklet)がありました。
(写真はいずれも新型コロナウイルス感染症以前に撮影したもの)
パブリック・パークレットを管轄するサンフランシスコ市郡の機関のGroundplayのウェブサイトには、パブリック・パークレットが次のように説明されています。
■パークレットとは何ですか?
パークレットは、歩道に隣接する道の一部を人々のためのパブリックスペースとして再利用するものです。このような小さな公園では、座席、植栽、駐輪場、アートなどのアメニティが提供されています。パークレットは近隣のビジネス、住民、コミュニティ団体によって資金提供され、メンテナンスされていますが、誰もが自由にアクセスできるパブリックな場所です。パークレットには、スポンサーやデザインを担当するする人々や組織の多様性と創造性が反映されています。また、徒歩や自転車の利用を促進し、コミュニティを強化するサンフランシスコ市の取り組みも反映されています。■パークレットはどこにありますか?
ほとんどのパークレットは、歩行者や歩道での活動の多い近隣の商業道路に設置されています。パークレットは常に駐車レーンに設置されており、通常、1~2台分の長さです。■誰がパークレットの設置者、スポンサーになれますか?
パークレットを設置したり、スポンサーになったりするための提案は、中小企業、コミュニティ団体、学校、住民などのコミュニティの多様なステークホルダーから出されています。これらのカテゴリーに当てはまらない場合でも、心配しないで下さい。思いがけない良いアイディアを歓迎します。■どのようにしてパークレットの建設を申し込むことができますか?
パークレットのスポンサーになるには、3つのフェーズがあります。
①提案
提案書には、敷地に関する情報と、コミュニティのサポートを受けることができることの証明が必要です。パークレット・チームは、提案書の完全性と実現可能性をレビューします。
②デザイン・許可
パークレット・チームは提案されたデザインをレビューし、安全性、アクセシビリティの要件を全て満たしていることを確認します。デザインが承認されると、パークレットの許可申請を行うことができます。
③建設
許可が降りた後、パークレットを建設、設置することができます。建設工事の前後には現場検査が行われます。継続的なメンテナンスの計画を立てることを忘れないでください。
※Groundplayの「Parklets」のページに記載内容の翻訳。
パブリック・パークレットは、中小企業、コミュニティ団体、学校、住民などがスポンサーとなり設置し、メンテナンスを行います。そうであるにも関わらず、スポンサーはパブリック・パークレットで商業行為を行うなど占有することはできず、パブリックに公開されていなければならないことは興味深い点です。また、スポンサーが勝手に設置できるわけでなく、設置を申請する際にはコミュニティのサポートを受けることが可能だと証明しなければならないという条件が設けられているのも興味深い点です。
このような意味で、パブリック・パークレットは、まさにパブリックな場所だと言うことができます。
パブリック・パークレットからシェアード・スペースへ
パブリック・パークレットは新型コロナウイルス感染症以前からサンフランシスコに設置されていましたが、新型コロナウイルス感染症への対応として注目されるようになりました。それが、サンフランシスコにおけるシェアード・スペース・プログラム(Shared Space Program)です。
新型コロナウイルス感染症への対応として、サンフランシスコ市郡では歩道や路肩の駐車スペースなどの屋外空間を、レストランの屋外席にしたり、商業のための場所にしたり、イベント会場にしたりするシェアード・スペース・プログラムが開始されました。
シェアード・スペースの種類
■歩道のシェアード・スペース(Sidewalk Shared Spaces)
①歩道での商品のディスプレイ(Sidewalk Merchandising)。
②歩道のカフェのテーブル・椅子(Sidewalk Café Tables and Chairs):既存の歩道でのダイニングの許可証と似ているが、より合理的な公示要件がある。
③商業を目的としない歩道の利用(Non-Commercial Sidewalk Installations):コミュニティ主催の座席の設置や美化活動など。■路肩のシェアード・スペース(パークレット)(Curbside Lane Shared Spaces(Parklets))
④パブリック・パークレット(Public Parklet):新型コロナウイルス感染症以前から設置されていたパークレットと同様に、固定された構造物で、常時パブリックに開放され、商業行為を行わない。
⑤可動式の商業用パークレット(Movable Commercial Parklet):事業者が営業時間内に、可動式の家具によってスペースを占有し、ベンチやその他のパブリックな座席を提供するもの。例えば、ブランチレストランを午後1時まで営業して、それ以降は荷物の積み込みや短時間の駐車に利用するなど、日中は他に必要な機能のために路肩のスペースを利用することができる。
⑥商業用パークレット(Commercial Parklet):既存のシェアード・スペースと同様に、事業者が営業時間中に商業行為のためにパークレットを利用する。固定された構造物で、ベンチやその他のパブリックな座席が備えられており、営業時間外の日中はパブリックに開放されている。■車道のシェアード・スペース(Roadway Shared Spaces)
⑦近隣住民が主体となり、無料でパブリックに公開されるコミュニティ・イベントや定期的なイベント(Community Event or Recurring Event, neighborhood-led, free and open to the public):これらのイベントはSFPD、SFFD、SFMTA、Public Worksなどの主要部門が参加する既存のISCOTTプロセスによって承認される。■私有地のシェアード・スペース(Private Property Shared Spaces)
⑧空き地、中庭、裏庭(In open lots, courtyards and rear yards)。午前9時から午後10時までの時間帯。■エンターテイメント、アート、カルチャー(Entertainment, Arts & Culture)
⑨ライブミュージックやその他のパフォーミング・アーツは、上記の全ての屋外スペースで定期的に行うことが容易になる。
※サンフランシスコ市郡の「Making the Shared Spaces Program Permanent」のページに記載内容の翻訳。
シェアード・スペースの種類の1つとしてパークレット(路肩のシェアード・スペース)が挙げられていることがわかります。
新型コロナウイルス感染症以前に設置されていたパークレットは、プライベートな人々や団体がスポンサーとなり設置・メンテナンスしますが、スポンサーは自らのパークレットで商業行為を行うことができず、常時、パブリックに開かれていました。この意味で「パブリック・パークレット」と呼ばれていましたが(リストの④)、新型コロナウイルス感染症への対応として新たに設置されるパークレットの中には、特定の事業者が営業時間内に商業行為を行う場所もあります(リストの⑤⑥)。両者は、パークレットとしての見た目は同じでも、パブリックへの開かれ方が異なっている点は注意が必要です。
なお、サンフランシスコ市郡では、シェアード・スペース・プログラムの恒久化を検討しており、パークレットのプログラムを、シェアード・スペースのプログラムに移行することが計画されています*1)。
ホノルルのパブリック・パークレット
サンフランシスコで生まれたパブリック・パークレットは各地に広がっていきます。ハワイのホノルル市郡もその1つ。
ホノルル市郡でも、新型コロナウイルス感染症の発生前からパブリック・パークレットのプログラムが行われてきましたが、ホノルル市郡内にあるカイムキ(Kaimuki)地区では、新型コロナウイルス感染症の発生後に、コミュニティのプロジェクトとしてパブリック・パークレットが設置されました。
ホノルル市郡では、2016年からパブリック・パークレットのプログラムが開始されました。『パークレット・プログラム・ガイド』(Parklet Program Guide)(July 2020)では、パブリク・パークレットが次のように説明されています。
■パークレットとは何ですか?
パークレットとは、路上の駐車スペースに作られたパブリックスペースのことで、ベンチ、テーブル、椅子、プランターやランドスケープ(造園)、日陰、駐輪場が設置されています。パークレットは一時的に設置されるもので、設置期間は数時間から数年に及びます。
パークレットはプライベート・パートナがスポンサーになっていますが、全ての設備は無料で、自由に利用できるかたちでパブリックに公開されていなければなりません。広告、テーブルサービス、その他の商業行為は禁止されています。■パークレットがもたらす利益
・パブリックスペースの追加(Additional Public Space):パークレットは、人々が座り、リラックスし、私たちの都市を楽しむことができる場所を提供します。
・より広い歩道(Wider Sidewalks):パークレットは、歩道が狭かったり混雑していたりする場所に、人々が歩くためのスペースを提供します。
・ローカルビジネスの活性化(Vibrant Local Businesses):パークレットはユニークなパブリックスペースであり、近隣のビジネスに客席を提供し、潜在的な顧客を引き付けます。
・ソーシャルライフ(Social Life):パークレットは、昔からの友人と会ったり、新しい友人を作ったりすることができる快適な公共スペースを作ることで、コミュニティ意識を育みます。■パークレットの適格性
・申請者の対象
ビジネス改善地区(BID)、商工会議所、通りに面したビジネスのオーナー、不動産所有者、非営利団体、コミュニティ団体、学校などが申請者の対象となります。・パークレットの位置
パークレットは一般的にビジネス街に適しており、推奨されています。
その他の地域では、ケースバイケースで検討されます。全ての路上駐車場がパークレットに適しているわけではありません。パークレットは、既存の歩行者の活動がある場所に設置すると効果的です。近隣に飲食店や小売店、交通機関、文化施設などがあることが、パークレットの設置場所を選ぶための重要な要素となります。・・・・・・・適している用途
パークレットのデザインには創造性が求められますが、一般的なパークレットは、人々が観察、社会的活動(socializing)、読書、屋外ダイニング、駐輪のための設備を備えています。焚き火、たいまつ、調理を伴う活動は禁止されています。また、パークレットには、有線の電気接続、配管、ガスの接続、発電機を設置することはできません。
※ホノルル市郡『パークレット・プログラム・ガイド』(Parklet Program Guide)(July 2020)に記載内容の翻訳。
これらの他にも、『パークレット・プログラム・ガイド』には、申請者がパークレットで行われる活動に活動を持つこと、清掃や修繕、植栽の手入れ、テーブルや椅子などの可動式の家具を管理する必要があること(可動式の家具は夜間は固定するか、屋内に収納する)、ただし、申請者は調味料やナプキンの配置を含めて一切のテーブルサービスを行ってはならず、パークレットをパブリックに開放しなければならないことなどが記載されています。以上のことから、ホノルル市郡のパークレットは、サンフランシスコと同じ「パブリック・パークレット」であると捉えることができます*2)。
ホノルル市郡の『パークレット・プログラム・ガイド』にはコミュニティ・アウトリーチとして次のような記載がなされており、コミュニティの場所にすることが意識されていることも伺えます。
■コミュニティ・アウトリーチ
申請者は、提案するパークレットに対するコミュニティの支持を書面で集める責任があります。また、関係のある近隣委員会(neighborhood board)へのプレゼンテーションも必要です(委員会の正式な決定は求められません)。
※ホノルル市郡『パークレット・プログラム・ガイド』(Parklet Program Guide)(July 2020)に記載内容の翻訳。
ホノルルのカイムキのパブリック・パークレット
2020年、非営利団体のベター・ブロック・ハワイ(Better Block Hawaii)は新型コロナウイルス感染症によるパンデミック期間中に、安全で責任ある買物や食事、社会的活動(socializing)の機会を提供するために「パークレット・ブリッツ」(Parklet Blitz)を開始し、ローカル・ビジネス、コミュニティ団体、アーティストと協力して、カイムキ地区のワイアラエ通り(Waialae Ave)に3つのパブリック・パークレットを設置しました。いずれのパブリック・パークレットもリサイクルした木材を用いて作られています*3)。
カイムキ地区におけるパブリック・パークレットの設置は、ホノルル市郡のクイック・ビルド・プロジェクト(Quick Build Projects)としても位置付けられています*4)。
「クイック・ビルド・プロジェクトは、コミュニティの目標を達成するために、安価な材料を使って短期間で道路を改善するプロジェクトです。「クイック・ビルド・プロジェクトは、コミュニティのメンバーやローカル・アーティストを巻き込み、コミュニティにおける関係性を活用して、道路の安全性を高め、近隣の美観を向上させるために創造的・協力的に構築環境を変えていきます。クイック・ビルド・プロジェクトはこのように協力的なものであるため、コミュニティの結束を強め、コミュニティのアイデンティティーを強固なものにします。
ホノルル市郡は、装飾による縁石の拡張や交通信号ボックス(交通信号制御機)のペイントなど、道路や歩道のいくつかのクイック・ビルド・プロジェクトをサポートしています。」
※ホノルル市郡「Community Resources」のページに記載内容の翻訳。
カイムキ地区。パブリック・パークレットが設置されているワイアラエ通りは、山の麓を(写真では左右に)走る通りです。ワイアラエ通りは、バスが走る幹線道路で、各種の店舗が並んでいます。
Bean About Town Parklet
- 位置:Bean About Town(住所:3538 Waialae Ave, Honolulu, HI 96816)の前
- パートナー企業:Bean About Town
- デザイン・建設:Re-use Hawaii
- アート:Kris Goto
- 植栽:Trees for Honolulu’s Future、Trees for Kaimuki
カイムキ・コミュニティ・パーク(Kaimuki Community Park)の向かいにあるパブリック・パークレット。
再利用した木材により3つの備え付けのテーブルが作られています。テーブルのプランターには、カイムキ地区に樹冠を増やすためのコミュニティ主導のプロジェクト「Trees for Kaimuki」により、アラヘエ(Alahe’e)とリグナムバイタ((Lignum vitae、ラテン語で「生命の樹」の意味)が植えられています。樹木について詳しく知ることができるよう、樹木にはQRコードの付いた説明書が付けられています。アラヘエ(Alahe’e)の「ala」は香り、「he’e」は蛸を意味し、アラヘエの花は「蛸のようなスベスベした香り」(a slippery fragrance like an octopus)がすることで知られている。パブリック・パークレットに描かれたアートは、「蛸のようなスベスベした香り」にインスピレーションを受けたものだということです*5)。
The Surfing Pig Parklet
- 位置:The Surfing Pig(住所:3605 Waialae Ave, Honolulu, HI 96816)の前
- パートナー企業:The Surfing Pig
- デザイン・建設:Re-use Hawaii
- アート:MelonJames
再利用した木材により3つの備え付けのテーブルが作られています。パブリック・パークレットが位置するのは、ワイアラエ通りのちょうど丘になっている部分で、かつてはこの丘から2つの海岸を見渡せたとのこと。背面に描かれたアートはこのことにインスピレーションを得たものになっているということです*6)。
駐車スペース2台分を活用したパブリック・パークレットで、3つの中で最も大きなパークレット。左右の囲いの両側にも座れる場所が設けられています。
パブリック・パークレットのすぐ隣には、先に紹介したクイック・ビルド・プロジェクトによりペイントされた交通信号ボックス(交通信号制御機)があります。
Juicy Brew Parklet
- 位置:Juicy Brew(住所:3392 Waialae Ave, Honolulu, HI 96816)の前
- パートナー企業:Juicy Brew
- デザイン・建設:Re-use Hawaii
- アート:Kim Sielbeck
再生材により作られたパブリック・パークレットで、内部には丸いテーブルが3つ置かれています。カラフルなアートは地元の食べ物や植物からインスピレーションを受けたものということです*7)。
パブリック・パークレットは、地域の企業、コミュニティ団体、学校、住民などがスポンサーとなり設置し、メンテナンスするもの。ただし、スポンサーが勝手に設置できるわけでなく、サンフランシスコでもホノルルでも、パブリック・パークレットを設置する際には周辺のコミュニティからのサポートを受けるという条件がもうけられていました。さらに、スポンサーは商業行為を行うことを含めてパブリック・パークレットを占有することができず、コミュニティ以外の人々に対してもパブリックな場所として公開しなければならない。
この意味で、パブリック・パークレットは、プライベートな人々や団体が作り出すパブリックな場所だと捉えることができます。道路は公共セクターが管理する公共的な空間ですが、そこをパブリックな場所にする上では、プライベートなものが大きなきっかけになっていることは興味深い点です。
ただし、新型コロナウイルス感染症への対応としてサンフランシスコに設置されているシェアード・スペースには商業用パークレットがありました。パブリック・パークレットと商業用パークレットは見た目は同じでも、パブリックへの開かれ方が異なっている点は注意が必要です。
パブリック・パークレットが、新型コロナウイルス感染症を契機としてさらに広まっていくのか、あるいは、一時的なものとして撤去されるのか、その際、パブリックな場所としての性格は維持されるのか、商業用という性格を強めていくのか。パークレットをめぐるこれらの動きには、これからも注目したいと思います。
■注
- 1)Groundplayの「Parklets」のページ。
- 2)ホノルル市郡の『パークレット・プログラム・ガイド』には、設置場所の選定、アウトリーチ、デザインの参考として、サンフランシスコのパークレット・マニュアルへのリンクが貼られており(※ただし、2021年9月5日時点でリンク切れとなっており閲覧不可)、サンフランシスコのパブリック・パークレットが他の地域の参考にされていることが伺える。
- 3)Better Block Hawaiiの「Parklet in Kaimuki」のページより。ベター・ブロック・ハワイについてはこちらの記事も参照。
- 4)ホノルル市郡のクイック・ビルド・プロジェクトについてはこちらの記事を参照。
- 5)Better Block Hawaiiの「Parklet in Kaimuki」のページより。
- 6)Better Block Hawaiiの「Parklet in Kaimuki」のページより。
- 7)Better Block Hawaiiの「Parklet in Kaimuki」のページより。
※「アフターコロナにおいて場所を考える」のバックナンバーはこちらをご覧ください。
(更新:2022年4月12日)