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タクティカル・アーバニズム①:ハワイのクイック・ビルド・プロジェクトより(アフターコロナにおいて場所を考える-29)

タクティカル・アーバニズム(Tactical Urbanism)という都市計画の手法があります。ウェブサイト「TACTICAL URBANIST’S GUIDE」によると、端的には「タクティカル・アーバニズムとは行動することである」(Tactical Urbanism is all about action.)と表現されるもので、行政、非営利団体、草の根のグループ、市民の主導により、短期間の、低コストで、拡張可能な介入を触媒として長期的な変化をもたらす(hort-term, low-cost, and scalable interventions to catalyze long-term change)地域づくりのアプローチのこと。DIYアーバニズム、プランニング・バイ・ドゥーイング、都市の鍼治療(Urban acupuncture)、アーバン・プロトタイピングなどと呼ばれることもあります。タクティカル・アーバニズムは、ニューヨークのプラザ・プログラムのような公式の取り組みから、1~7日間だけのデモンストレーション・プロジェクトのような小規模な取り組みまで形式は様々ですが、低コストの素材を用いて、街路のデザイン変更について実験し、意見を集めるという共通点があります*1)。

タクティカル・アーバニズムの生みの親は、2009年にフロリダ州マイアミに設立された都市計画、デザイン、リサーチ・アドボカシーを行うStreet Plans Collaborative社のマイク・ライドン氏(Mike Lydon)とトニー・ガルシア氏(Tony Garcia)で*2)、その後、国際的なムーブメントになったと言われています。


タクティカル・アーバニズムには様々な形式がありますが、その1つがパークレット(Parklet)。

パークレットとは路肩の駐車スペースにテーブルや椅子、ベンチなどを置いたり、植栽を植えたりして、人々が過ごせる場所にするもので、2010年、サンフランシスコで初めて公式にパブリック・パークレット(Public Parklet)が設置されました。
パークレットは、元々、新型コロナウイルス感染症とは無関係でしたが、感染防止対策として屋外での食事に注目されたことから、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生後にアメリカの各地でパークレットが設置されるようになりました*3)。

ハワイ州ホノルル市郡のカイムキ(Kaimuki)地区でも、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生後にパブリック・パークレットが設置されました。

(カイムキ地区のパブリック・パークレット)

カイムキ地区におけるパブリック・パークレットの設置は、ホノルル市郡のクイック・ビルド・プロジェクト(Quick Build Projects)として位置づけられています。

クイック・ビルド・プロジェクト

ホノルル市郡のクイック・ビルド・プロジェクト(Quick Build Projects)は次のように説明されており、タクティカル・アーバニズムの手法が用いられていることがわかります。

「クイック・ビルド・プロジェクトは、コミュニティの目標を達成するために、安価な材料を使って短期間で道路を改善するプロジェクトです。クイック・ビルド・プロジェクトは、コミュニティのメンバーやローカル・アーティストを巻き込み、コミュニティにおける関係性を活用して、道路の安全性を高め、近隣の美観を向上させるために創造的・協力的に構築環境を変えていきます。クイック・ビルド・プロジェクトはこのように協力的なものであるため、コミュニティの結束を強め、コミュニティのアイデンティティーを強固なものにします。
ホノルル市郡は、装飾による縁石の拡張や交通信号ボックス(交通信号制御機)のペイントなど、道路や歩道のいくつかのクイック・ビルド・プロジェクトをサポートしています。」
※ホノルル市郡「Community Resources」のページに記載内容の翻訳。

ホノルル市郡のウェブサイトには、行政担当者のメールアドレスが記載されており、自らのコミュニティでクイック・ビルド・プロジェクトを立ち上げる方法についてはお問合せくださいと書かれています。行政が、コミュニティのメンバーやローカル・アーティストを巻き込んだ参加型のプロジェクトをサポートしていることは興味深いですが、具体的に次のようなプロジェクトが行われています。

カイムキ地区のパークレット

ホノルル市郡では、2016年からパブリック・パークレットのプログラムが開始されました。ホノルル市郡のウェブサイトには、パークレットが次のように紹介されています。

■パークレットとは?
パークレットは、路肩の駐車スペースに作られパブリックスペースで、ベンチ、テーブル、椅子、プランター、ランドスケープ(造園)、日陰、駐輪場などから構成されます。パークレットは通常、民間のパートナーがスポンサーとなって、数時間から数年にわたって、一時的に設置されるものです。パークレットの設備は全て、一般の人が無料で自由に利用できる状態で維持されなければなりません。

■パークレットがもたらす利益
・パブリックスペースの追加(Additional Public Space):パークレットは、人々が座り、リラックスし、私たちの都市を楽しむことができる場所を提供します。
・より広い歩道(Wider Sidewalks):パークレットは、歩道が狭かったり混雑していたりする場所に、人々が歩くためのスペースを提供します。
・ローカルビジネスの活性化(Vibrant Local Businesses):パークレットはユニークな公共スペースであり、近隣のビジネスに客席を提供し、潜在的な顧客を引き付けます。
・ソーシャルライフ(Social Life):パークレットは、昔からの友人と会ったり、新しい友人を作ったりすることができる快適な公共スペースを作ることで、コミュニティ意識を育みます。

■一般的なデザインのガイドライン
①近隣の美しさと特徴に貢献し、通行人が立ち止まり、座り、リラックスし、他の人と関わったり、他の人を観察したりすることを促すような、興味深く、居心地の良いスペースであること。
②座席は耐久性があり、あらゆる年齢や能力の個人とグループにとって快適なものであること。様々な気候条件のもとで利用できるデザインにすること。
③半恒久的な構造物で、日々の屋外での過酷な利用に耐えられるものであること。素材とデザインは、耐久性があり、あまりメンテナンスしなくてよいものであること。
④デザインはユニークなものとし、近隣のビジネスと視覚的に明らかな関係を持たないものであること。
⑤例えば、特に狭い歩道や混雑した歩道では歩くためのスペースを提供したり、テイクアウトのレストランが多い場所では座って食事するための場所を提供したりするなど、周辺環境に対応するものであること。
⑥歩行者や自転車の移動パターンや行動を考慮して、潜在的な衝突を最小化し、ストリートライフやパブリック領域(street life and the public realm)への貢献を最大化するデザインであること。
⑦簡単に設置でき、必要に応じて撤去できること。
※ホノルル市郡「PARKLET PROGRAM GUIDE」に記載内容の翻訳。

ホノルル市郡が2020年7月に発行した『パークレット・プログラム・ガイド』には、パークレットを設置するまでの流れが次のように紹介されています。

■パークレット設置の流れ
申請者が最初の企画書を作成→申請前の会議→パークレットの申請書の作成・提出→(市による修正依頼)→市による申請書の承認→申請者が道路使用許可申請書を作成・提出→設置→市による設置後の現場検査→(許可書の更新)
※ホノルル市郡『パークレット・プログラム・ガイド』2020年7月より作成*4)。

このプログラムのもと、新型コロナウイルス感染症にパンデミック発生前には、毎年9月のPark(ing) Day*5)に1日だけ設置されるパークレットと、カカアコ(Kaka’ako)地区に設置された2つの半恒久的なパークレットなどが作られてきました*6)。

この後、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生。地元企業を支援しつつ、安全な買物、食事、社会的活動(socializing)の機会を提供することが目的として、ベター・ブロック・ハワイによってカイムキ(Kaimuki)地区に3つのパークレットが設置されました*7)。このプロジェクトが、ホノルル市郡のクイック・ビルド・プロジェクトとして位置づけられています。

(カイムキ地区のパブリック・パークレット)

塗装による縁石の拡張

ホノルル市郡のカリヒ(Kalihi)地区では、安全で歩きやすい道路にするために道路面への塗装により縁石を拡張する取り組みがクイック・ビルド・プロジェクトとして行われました。
このプロジェクトには、タクティカル・アーバニズムの生みの親であるマイク・ライドン氏(Mike Lydon)とトニー・ガルシア氏(Tony Garcia)のStreet Plans社が、ハワイ州保健局の雇用により参加。Street Plans社、行政職員、コミュニティのメンバーとの協力で、タクティカル・アーバニズムのパイロット・プロジェクトとして、2018年秋と2019年初めの一連のワークショップから始められました。
プロジェクトには、カリヒ地区にあるファーリントン高校(ガバナー・ウォーレス・ライダー・ファーリントン・ハイ・スクール/Governor Wallace Rider Farrington High School)の工学部の生徒も参加し、プロジェクトの場所の選定、縁石拡張のデザインの開発が行われました。最終的に、生徒はN King St沿いの3つの交差点を選定したということです。
道路の塗装は、行政当局が道路の変更案をテストする間、1年間はこのままの状態で維持されるとのこと。塗装による縁石の拡張により、交差点を曲がる車の速度が低下したと指摘されています*8)。

写真はファーリントン高校のすぐ前のN King StとHaka Drの交差点。道路に葉をデザインした塗装がされ、縁石拡張の標識とされています。そして、拡張された縁石の外周に沿って線誘導標(線形誘導標/Delineator)として白いポールが設置されています。ただし、一部の線誘導標は倒れています。

(N King StとHaka Drの交差点)

ホノルル市郡の資料には、縁石の拡張により横断歩道の距離が15~40%短くなり、これによって横断歩道を渡る時間が15~20%短くなるという効果があったと書かれています。このプロジェクトは、安全性とアクティブ・トランスポーテーション(active transportation:徒歩や自転車など人力による移動)を優先させることを目的とする一連のプロジェクトの出発点として参考になること、保健局など従来とは異なる資金源が、このような投資のきっかけになり得ることを示しているとも書かれています。
その一方、資料では塗料の性能が計画通りでなかったため、6ヶ所の塗装のうち、2ヶ月後には2ヶ所しか残らなかったこと(写真のN King StとHaka Drの交差点)、縁石外周に設置された視線誘導標が当初は接着されていただけだったため、後にボトルで締め直したこと、さらに、今後どのように維持することが不明であることなどの課題が指摘されています。また、当初の視線誘導標の配置では、バスが停留所に容易に、効果的に出入りするための十分なスペースが確保されておらず、クイック・ビルド・プロジェクトでは素早く、柔軟に対応することが重要だとしても、それが難しい場合があることも指摘されています*9)。

交通信号ボックスの塗装

カイムキ(Kaimuki)地区を走るWaialae Aveでは、クイック・ビルド・プロジェクトとして荒らされた交通信号ボックス(交通信号制御器)にアーティストが壁画(Mural Art)を描くプロジェクトが行われています。

(Waialae Aveの交通信号ボックス)


■注

  • 1)TACTICAL URBANIST’S GUIDEのAboutのページより。
  • 2)Street Plansの「Our Team」のページより。
  • 3)2010年にサンフランシスコで生まれたパークレットは、プライベートな人々や団体がスポンサーとなり設置・メンテナンスするものの、スポンサーは自らのパークレットで商業行為を行うことができず、常時、パブリックに開かれていた。これに対して、新型コロナウイルス感染症後に設置されたパークレットは特定の事業者が営業時間内に商業行為を場所もある。そのため、見た目は同じでもパブリックへの開かれ方が異なっている点は注意が必要である。詳細はこちらの記事を参照。
  • 4)「Parklet Program Guide」City and County of Honolulu, July, 2020
  • 5)Park(ing) Dayもタクティカル・アーバニズムの1つである。
  • 6)「FHWA’s Fostering Multimodal Connectivity Newsletter 」USDOT Federal Highway Administration, Winter 2022より。
  • 7)Better Block Hawaiiの「Parklet Blitz」のページより。ベター・ブロック・ハワイの活動はこちらの記事も参照。
  • 8)Street Plans「Kalihi Quick Build | Honolulu, HI」のページより。掲載している写真は2022年1月のものであり、少なくともこの時点までは道路の塗装が維持されていることがわかる。
  • 9)ホノルル市郡の資料「KALIHI QUICK BUILD, COMPLETE STREETS PROJECTより。

※「アフターコロナにおいて場所を考える」のバックナンバーはこちらをご覧ください。

(更新:2022年4月12日)