『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

タクティカル・アーバニズム②:ベター・ブロック・ハワイの活動より(アフターコロナにおいて場所を考える-30)

タクティカル・アーバニズム(Tactical Urbanism)という都市計画の手法があります。行政、非営利団体、草の根のグループ、市民の主導により、短期間の、低コストで、拡張可能な介入を触媒として長期的な変化をもたらす(hort-term, low-cost, and scalable interventions to catalyze long-term change)地域づくりのアプローチのこと*1)。

タクティカル・アーバニズムには様々な形式がありますが、その1つがパークレット(Parklet)。
パークレットとは路肩の駐車スペースにテーブルや椅子、ベンチなどを置いたり、植栽を植えたりして、人々が過ごせる場所にするもので、2010年、サンフランシスコで初めて公式にパブリック・パークレット(Public Parklet)が設置されました。
パークレットは新型コロナウイルス感染症とは無関係に生まれたものですが、感染防止対策として屋外での食事に注目されたことから、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生後にアメリカの各地でパークレットが設置されるようになりました*2)。

ハワイ州ホノルル市郡のカイムキ(Kaimuki)地区も、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生後にパブリック・パークレットを設置した地区です。

(カイムキ地区のパブリック・パークレット)

カイムキ地区にパブリック・パークレットを設置したのはベター・ブロック・ハワイ(Better Block Hawaii)という非営利団体ですが、この団体はパブリック・パークレット以外にも興味深い活動を行っています。

ベター・ブロック財団

オランダのような自転車専用レーン、タイのようなナイト・フードマーケット、ミュンヘンのようなビアーガーデンが欲しい。しかし、何十年も前に定められた条例によって、自分たちが望む空間を実現することができなかった。2010年の週末、このような思いを描いた人々がテキサス州ダラスの荒廃したブロック(街区)を占拠し、自動車専用レーン、ポップアップのフードマーケット、ビアガーデンを作りました。この実験により、コミュニティは共に考え、学び、最終的には活気のあるパブリックスペースを通して、自らの近隣を変えることができた。この実験は「ベター・ブロック」(Better Block)と名づけられ、周辺地域に、そして、世界中の都市に広がっていったということです。
2015年、ベター・ブロックの創設者であるアーティスト、市民活動家、都市デザイナーのジェイソン・ロバーツ(Jason Roberts)氏は、米国の非営利団体であるナイト財団(ジョン・S・アンド・ジェームズ・L・ナイト財団:John S. and James L. Knight Foundation)からの助成を受けて、ベター・ブロック財団(Better Block Foundation)が立ち上げられました*3)。

ベター・ブロックの目的は、コミュニティとそのリーダーに対する教育、技術の伝達、エンパワーメント(educates, equips, and empowers)を通じて、健康で活気のある近隣を促進するためのパブリックスペースの再形成と再活性化(reshape and reactivate)を行なうこと。そのためのアプローチとして、迅速、かつ、一時的なプレイスメイキング(rapid and temporary placemaking)により、都市計画や実施の長いプロセスを回避する実践的なプロジェクト(hands-on projects)が採用されています。ベター・ブロックのプロセスは90日、及び、120日で、多くの場合、次のような5~6段階のフェーズから構成されています*4)。

■ベター・ブロックのフェーズ

  • 最初にコミュニティのメンバーと協力して、再構築(reimaging)を必要とするコミュニティの中で、最も影響力のある場所(site)を選ぶ(select)
  • 近隣住民、議員、中小企業経営者など全てのステークホルダーに働きかけ、アウトリーチ、パブリックアート、ボランティア募集、プログラミング、市とのやり取り(city dealings)などそれぞれのプロジェクトのニーズにあう関心分野を扱うパートナーシップや委員会を立ち上げる(form partnerships and committees)ことから、関与のプロセスを始める。
  • アンケート調査、ステークホルダーからの意見、キックオフイベントで収集した情報をもとに、空間のニーズにあったデザイン(design)を考え、許認可や計画実施に取り掛かる。
  • 実際の構築(build)プロセスは、再構築されたスペースの立ち上げ、しばしばブロックパーティーのような形式で行われる、の1週間前から始まる。その際、デザイナーチームがコミュニティの人々と一緒にワークショップを行い、ペンキを塗るローラーと、必要な変化を即座に引き起こす力をコミュニティの手に取り戻す。
  • 全てが終わった後、永続する道筋(route to permanency)を記した報告書、物理的なインフラ、そして、委員会のリーダーたちとの新たなつながりのもとに、責任とリソースをコミュニティの手に引き渡す。

※Better Blockの「ABOUT US」のページに記載内容の翻訳。下線部は、原文で強調されている部分である。

直接言及されていませんが、ベター・ブロックが用いている手法は、タクティカル・アーバニズムと共通していることがわかります。

ベター・ブロック・ハワイ

ベター・ブロックは周辺地域に、そして、世界中の都市に広がっていきました。その1つが、ベター・ブロック・ハワイ(Better Block Hawaii)。
ベター・ブロック・ハワイは2013年に設立された非営利団体で、ベター・ブロック財団と同じく、コミュニティとそのリーダーに対する教育、技術の伝達、エンパワーメント(educates, equips, and empowers)を通じて、健康で活気のある近隣を促進するためのパブリックスペースの再形成と再活性化(reshape and reactivate)を目的とする活動を行なっています*5)。

■ベター・ブロック・ハワイの目標
①プレイスメイキングを通じてパブリックスペースを変える(TRANSFORM PUBLIC SPACES THROUGH PLACEMAKING)
:ローカル・パートナーの招待を受けて、「軽く、早く、安い」(light, quick, cheap:LQC)*6)プレイスメイキングのプロジェクトをファシリテートし、ハワイならではの都市整備をデモンストレートする。

②市民主導の変化をエンパワーする(EMPOWER CITIZEN-LED CHANGE)
:コミュニティが変化起こせるような実践的なプロジェクト(hands-on projects)をファシリテートすることで、都市計画や許認可の長過ぎるプロセスを回避できるアプローチを採用する。

③シビック・リーダーの教育・育成(EDUCATE & TRAIN CIVIC LEADERS)
:コミュニティのワークショップやシンポジウムを通して、都市計画の専門家、シビック・イノベーター、建築家などに触れ、トレーニングを受ける機会をコミュニティに提供する。

④コミュニティの構築(BUILD COMMUNITY)
:政府機関、近隣組織、中小企業、地元のアーティストを結びつけ、より強く、より協力的なコミュニティを構築する。
※Better Block Hawaiiのトップページに記載内容の翻訳。

ベター・ブロック・ハワイの現在の活動

ベター・ブロック・ハワイは2013年の設立以来、様々なプロジェクトを行なってきましたが、現在のプロジェクトとして、次の3つが紹介されています。

カイムキ・カリヒにおけるパークレット・ブリッツ

1つ目のプロジェクトが、先に紹介したパブリック・パークレットの設置です。
2020年、ベター・ブロック・ハワイは新型コロナウイルス感染症によるパンデミック下において地元企業、コミュニティ組織、アーティストと連携して、ホノルル市郡のカイムキ(Kaimuki)地区に3つのパブリック・パークレットを設置する「パークレット・ブリッツ」(Parklet Blitz)を開始しました。地元企業を支援しつつ、安全な買物、食事、社会的活動(socializing)の機会を提供することが目的です*7)。設置された3つのパブリック・パークレットは、いずれもリサイクルした木材が用いて作られています*8)。

Bean About Town

  • 位置:Bean About Town(住所:3538 Waialae Ave, Honolulu, HI 96816)の前
  • パートナー企業:Bean About Town
  • デザイン・建設:Re-use Hawaii
  • アート:Kris Goto
  • 植栽:Trees for Honolulu’s Future、Trees for Kaimuki

The Surfing Pig

  • 位置:The Surfing Pig(住所:3605 Waialae Ave, Honolulu, HI 96816)の前
  • パートナー企業:The Surfing Pig
  • デザイン・建設:Re-use Hawaii
  • アート:MelonJames

Juicy Brew

  • 位置:Juicy Brew(住所:3392 Waialae Ave, Honolulu, HI 96816)の前
  • パートナー企業:Juicy Brew
  • デザイン・建設:Re-use Hawaii
  • アート:Kim Sielbeck

ベター・ブロック・ハワイはホノルル市郡のカリヒ(Kalihi)地区でも「パークレット・ブリッツ」を進めており、2021年11月、カリヒ地区で最初のパブリック・パークレットがRichie’s Drive Innというレストラン前に完成しました。

Richie’s Drive Inn

  • 位置:Richie’s Drive Inn(住所:1188 N King St, Honolulu, HI 96817)の前
  • パートナー企業:Richie’s Drive Inn
  • デザイン・建設:Re-use Hawaii
  • アート:Boz Schurr

カリヒ地区ではもう1つのパブリック・パークレットの設置が計画されているとのことです*9)。

アアラパーク付近のパブリックアート・プレイスメイキング

2つ目のプロジェクトはアアラパーク(’A’ala Park)における「パークス・フォー・ピープル・プログラム」(Parks for People Program)。
このプログラムは、サンフランシスコに拠点を置く非営利団体のトラスト・フォー・パブリック・ランド(Trust for Public Land:TPL)によって始められたもので、ベター・ブロック・ハワイも協力。パブリックアートにより歩行者の安全性を高め、交差点を美化し、公園の歴史と文化の重要性を広めることが目指されており、コミュニティ・ベースのデザインプロセスが採用されています*10)。

アアラパークは、ホノルル市郡のチャイナタウンから川を越えた北側に位置。川とN King St、N Beretania Stに囲われた三角形に近い形をしています。

プログラムにより、公園の周囲のバス停と交通信号ボックス(交通信号制御器)に壁画(Mural Art)が描かれました。

壁画が描かれたバス停は、N King StとN Beretania Stの交差点付近の3ヶ所のバス停です。

壁画が描かれたユーテリティボックスは、N King St、N Beretania St、そして、2つの道路の交差点付近の3ヶ所見かけました。いずれのユーティリティボックスにも花をデザインした壁画が描かれています。

プログラムには、高校の壁画(Mural art)クラブの生徒も参加したということです。

ツリーズ・フォー・カリヒ

3つ目のプロジェクトはホノルル市郡のカリヒ(Kalihi)地区におけるツリーズ・フォー・カリヒ(Trees for Kalihi)。都市の樹幹を増やし、都市の熱を減らし、パブリックな座席を提供することを目的とするプロジェクトで、具体的には地元のパートナーと協力して、地区内を通るN King StとN School Stに椅子の付いた樹木のプランターボックスを設置することが予定されています*11)。


タクティカル・アーバニズムはアメリカで生まれた手法であり、ここでもクイック・ビルド・プロジェクト、ベター・ブロック・ハワイというアメリカの事例を紹介しました。しかし、この手法は日本、あるいは、アジアでも参考になると考えています。

ワシントンDCの非営利団体Ibashoがフィリピンとネパールで進めているプロジェクトで、コミュニティの人々と一緒にフィーディング・センターの再塗装、菩提樹の周りのチャウタリの改修などによって身の回りの環境を改善することに取り組んだことがあります。大阪府の千里ニュータウン研究・情報センター(ディスカバー千里)では、子どもたちとコミュニティの資源である車止めのペンキの塗り替えを行いました。
これらを通して、ペンキの塗装などの比較的容易な方法で身の回りの環境に手を加えることは、コミュニティの人々にとって具体的な役割を生み出すこと、そして、コミュニティが目に見えるかたちで変化するために活動の狙いや成果が多くの人に共有されやすいこと、これらがコミュニティに対する愛着や帰属意識の醸成につながる。このようなことを考えたことがあります。

コミュニティにはどのような短期間の、低コストで、拡張可能な介入の余地があるのか。このような目で身の回りの環境を見直すことは楽しいことであり、身の回りの環境がこれまでとは違ったかたちで浮かびあがってくるのではないかと考えています。


■注

  • 1)TACTICAL URBANIST’S GUIDEのAboutのページより。タクティカル・アーバニズムについてはこちらの記事も参照。
  • 2)2010年にサンフランシスコで生まれたパークレットは、プライベートな人々や団体がスポンサーとなり設置・メンテナンスするものの、スポンサーは自らのパークレットで商業行為を行うことができず、常時、パブリックに開かれていた。これに対して、新型コロナウイルス感染症後に設置されたパークレットは特定の事業者が営業時間内に商業行為を場所もある。そのため、見た目は同じでもパブリックへの開かれ方が異なっている点は注意が必要である。詳細はこちらの記事を参照。
  • 3)Better Blockの「ABOUT US」のページ、Better Block Hawaiiのトップページより。
  • 4)Better Blockの「ABOUT US」のページより。
  • 5)Better Block Hawaiiのトップページより。
  • 6)原文では、「”light, quick, cheap” placemaking」の部分に、Project for Public Spacesのウェブサイトへのリンクが貼られている。
  • 7)Better Block Hawaiiの「Parklet Blitz」のページより。なお、カイムキ地区におけるパブリック・パークレットの設置は、ホノルル市郡のクイック・ビルド・プロジェクト(Quick Build Projects)としても位置付けられている。クイック・ビルド・プロジェクトはこちらの記事を参照。
  • 8)カイムキ地区のパブリック・パークレットの基本情報はBetter Block Hawaiiの「Parklet in Kaimukiこちらの記事を参照。
  • 9)Ulupono Initiativeの「Better Block Hawaii Debuts First Kalihi Parklet at Richie’s Drive Inn to Support Businesses, Enhance Safety and Create Vibrant Public Spaces」のページより。
  • 10)Better Block Hawaiiの「Current Projects」のページより。
  • 11)Better Block Hawaiiの「Current Projects」のページより。

※「アフターコロナにおいて場所を考える」のバックナンバーはこちらをご覧ください。

(更新:2022年4月12日)