新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、レストランやカフェでの食事の仕方が大きく変わりました。店内ではテーブルの距離を離す、テーブルやカウンターにパーティションを設置する、入店可能な人数を制限する、大人数での利用を制限するなどの対応がされているという変化がありますが、屋外に目を向ければ道路を屋外ダイニングの場所にするという変化が注目されます。
ここでご紹介するアメリカ東海岸のメリーランド州では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて2020年3月16日にレストランでの飲食が禁止され、テイクアウト、配達、ドライブスルーのみの営業に制限されました。
その後、2020年5月29日にレストランの屋外席での再開が許可されましたが、ここで注目されたのが道路(車道)。道路をレストランの屋外ダイニングのための場所にするストリータリー(Streetery)と呼ばれる場所が登場しました。ストリータリーは、ストリート(Street)と、飲食店を意味するイータリー(Eatery)を組み合わせた造語で、具体的には、車両通行止めにした道路にテーブルを並べて、レストランやカフェの屋外席として利用する取り組みです*1)。「Streetery」と表記されることが多いですが、他の州では「Streatery」と表記されたり、「Streetdine」(dineは食事をするという意味)と呼ばれる場合もあります。
その後、新型コロナウイルス感染症の感染者数が減少してきたことから、メリーランド州ではレストランやカフェの営業に関する規制は徐々に撤廃されていき、2021年5月15日にはレストランの店内の収容人数などの規制は全て解除されました。しかし、新型コロナウイルス感染症への対応として始められたストリータリーは現在でも継続されています。
この記事では、メリーランド州のモンゴメリー郡(Montgomery County)のいくつかのストリータリーの様子をご紹介します。
- 1)ストリータリー(Streetery)は、道路を車両通行止めにして屋外ダイニングの場所にするものだが、ストリータリーが行われている道路以外でも、歩道にテーブルを並べてレストランの屋外席にしている場所は多い。歩道の屋外席はこの記事の下部を参照。また、パークレット(Parklet)と呼ばれる場所も作られている。パークレットは、道路自体を車両通行止めにするわけではないが、道路の路肩の駐車スペースを屋外席にするもの。パークレットについてはこちらの記事を参照。
目次
メリーランド州モンゴメリー郡のストリータリー
モンゴメリー郡交通局(Montgomery County Department of Transportation:MCDOT)は、新型コロナウイルス感染症への対応として、2020年からシェアード・ストリート(Shared Streets)のプログラムを開始しました。シェアード・ストリートは、モンゴメリー郡が管理する道路や歩道を屋外ダイニングやウォーキングのための場所にするもので、このプログラムの1つとして行われているのがストリータリーです。
2020年6月、モンゴメリー郡交通局は3つのエリアでストリータリーを開始しました*2)。
- ベセスダ・ストリータリー(Bethesda Streetery)
- ウィートン・ストリータリー(Wheaton Streetery)
- シルバー・スプリング・ストリートダイン(Silver Spring Streetdine)
2021年8月時点では上の3つのエリアに加えて、次の3つのエリアを加えた6ヵ所でストリータリーが行われています*3)。
- ストリータリー・オン・ギブズ・イン・ロックヴィル(The Streetery on Gibbs in Rockville)
- タコマパーク・ストリータリー・オン・ローレル・アヴェニュー(The Takoma Park Streetery on Laurel Avenue)
- ジャーマンタウン・ストリータリー・アット・ブラックロック(The Germantown Streetery at BlackRock)
先に紹介した通り、ストリータリーとは車両通行止めにした道路にテーブルを並べて屋外ダイニングの場所にする取り組みで、例えば、ベセスダ・ストリータリーは次のように紹介されています。
ベセスダ・ストリータリー
ベセスダのダウンタウンの屋外に、レストランの席を追加するダイニングのコンセプト。「ベセスダ・ストリータリー」は、全てのテーブルが少なくとも6フィート離して配置され、1テーブルあたりの人数が4人に制限されたオープンな座席(open seating)として設置されています。レストランの利用者は、地元ベセスダのレストランで飲食物を受け取った後、この屋外エリア内で食事をすることができます。テーブルは利用されるたびに清掃されます。」
※Bethesda Urban Partnerの「Bethesda Streetery」のページに記載内容の翻訳。
「地元ベセスダのレストランで飲食物を受け取った後、この屋外エリア内で食事をすることができます」と書かれているように、ストリータリーでは、レストランとテーブルとの対応関係はありません。つまり、該当するエリア内のレストランで飲食物を受け取った後は、どのテーブルに座ってもいいということになります*4)。
- 2)MCDOTの「Shared Streets」のページ。
- 3)Bethesda Magazine「Montgomery County extending ‘streeteries’ program through Nov. 28」August 25, 2021。これら3ヶ所のストリータリーは、モンゴメリー郡交通局でなく、他の管轄(other jurisdictions)によりサポートされている。MCDOTの「Shared Streets」のページ。
- 4)ただし、車道に並べられた一部のテーブルは囲いがされて、特定のレストラン専用の屋外席になっている場合もある。また、(車道ではなく)歩道に置かれたテーブルは、基本的に奥のレストラン専用の屋外席になっていると思われる。
ベセスダ・ストリータリー
□場所*5)
- Norfolk Avenueの、St. Elmo AvenueとCordell Avenueの間の区間
- Norfolk Avenueの、 Cordell AvenueとDel Ray Avenueの間の区間
- Woodmont Avenueの、 Elm StreetとBethesda Avenueの間の区間(※毎日実施)
- Veterans Park(Norfolk and Woodmont Avenuesの交差点近く)
□時間
- 火曜~日曜の11時~22時
□開始時期
- 2020年6月10日
□実施主体
- ベセスダ・アーバン・パートナーシップ(BUP:Bethesda Urban Partner)
Norfolk Avenueのストリータリー。オレンジのバリケードの向こうがベセスダ・ストリータリー(Bethesda Streetery)です。
バリケードの近くには、次のようなルールが書かれた看板が設置されています。
- ストリータリー、ベセスダのレストラン客のみが利用できます。
- テーブルは、利用後に消毒しています。
- テーブルや椅子の移動は固く禁じられています。
- テーブルは同じ位置に置かれ、椅子は元のテーブルの位置に固定されます。テーブルは、全ての顧客の安全のため、適切なスペースを確保しています。
- 1テーブルあたりの利用は最大4人です。
- 入退場時を除いて、着席してください。
- 飲食をしない時はマスクを着用してください。
- 食後にゴミを捨ててください。
- 共有スペースを尊重し、ここに居たいと思う人が利用できるようにしてください。テーブルを90分以上占有しないでください。
アメリカのほとんどの州・都市において公共の場所での飲酒が禁止されています。当然、道路での飲酒は禁止。従って、飲酒はストリータリー内でのみ可能であり、ストリータリーの外にアルコールを持ち出すことは禁止であることを示す看板も設置されています。
ベセスダ・ストリータリーでは4人掛けの丸いテーブル、木製のピクニックテーブルが車道に並べられています。
- *5)基本情報はBethesda Urban Partnerの「Bethesda Streetery」のページ、MCDOTの「Shared Streets」のページ、モンゴメリー郡の「MCDOT to Close Select Roads to Vehicles in Downtown Bethesda Beginning Wednesday, June 10, to Support Restaurants and Retail Businesses in Phase I of Reopening Efforts」(June 9, 2020)」のページを参考にした。
ウィートン・ストリータリー
□場所*6)
- Elkin Stの、Price Aveの交差点北側
- Price Aveの、Elkin StとFern Stの間の区間(片側車両通行止め)
□開始時期
- 2020年6月19日
□実施主体
- ウィートン・アーバン・ディストリクト(Wheaton Urban District)
Price Aveは片側車線が通行止めとされており、オレンジ色のバリケードで囲われた内側がウィートン・ストリータリー(Wheaton Streetery)です。車道と歩道部分に、丸や四角のテーブル、木製のピクニックテーブルが置かれています。パラソルの付いたテーブル、テントの下に並べられたテーブルもあります。
Elkin Stは、Price Aveとの交差点の北側が全面車両通行止めとされています。こちらも、パラソルの付いたテーブルが置かれています。
Elkin Stの車道部分には、大きな白いテントが張られています。テントの中はステージのようになっており、音楽のライブなどのためにも利用されていると思います。
- *6)基本情報はMCDOTの「Shared Streets」のページ、モンゴメリー郡の「Downtown Wheaton Restaurants to Offer Dining in Expanded Outdoor Space as ‘Streetery’ Starts Friday, June 19」(June 18, 2020)のページを参考にした。
ストリータリー・オン・ギブズ・イン・ロックヴィル
□場所*7)
- Gibbs Streetの、Beal AveとEast Middle Laneの間の区間(Rockville Town Squareの西側)
□開始時期
- 2021年5月
□実施主体
- ロックヴィル・タウン・スクエア(Rockville Town Square)
ロックヴィルには、図書館と飲食店などに囲まれたロックヴィル・タウン・スクエア(Rockville Town Square)という広場があります。ロックヴィル・タウン・スクエアには芝生の広場、噴水があり、多くの人で賑わう魅力的な空間になっています。
ストリータリー・オン・ギブズ・イン・ロックヴィル(The Streetery on Gibbs in Rockville)は、ロックヴィル・タウン・スクエアのすぐ西側を通るGibbs Streetにもうけられています。写真に写っている「DAWSON’S MARKET STAG」と書かれた茶色い屋根のある建物の奥がGibbs Street。以前はGibbs Streetを車が走り、ロックヴィル・タウン・スクエアと向こう側の店舗が分離されていました。Gibbs Streetがストリータリーにされたことで、ロックヴィル・タウン・スクエアが拡張されたようになっています。
Gibbs Streetのストリータリーにより、15,000平方フィート(約1,400m2)の屋外スペースが追加されたとのこと。
車道や路肩の駐車スペースに丸や四角のテーブル、木製のピクニックテーブルが置かれています。また、路肩の駐車スペースにはパークレット(Parklet)のような場所がもうけられていることもわかります。
- 7)基本情報は、THE MOCO SHOW「Rockville Town Square Announces “The Streetery on Gibbs”」(April 24, 2021)、Rockville Reports「City and Community to Meet on Future Use of Town Center Streets」(August 30, 2021)のページを参考にした。なお、Rockvilleでは2020年6月にも、Gibbs Streetの、Beal AveとEast Middle Laneの間の区間、及び、East Montgomery Avenueの、Maryland AvenueとHelen Heneghan Way間の区間を車両通行止めにして屋外席にした。
ストリータリーの今後
ストリータリーは、テントが張られたり、パラソルが設置されたりしているところがありますが屋外席のため、気候が良い時期、天候の良い日にしか利用しにくいという欠点があります。しかし、(気候や天候が良い時には)写真のように利用する人がいることがお分かりいただけると思います。
ベセスダのように広い車道の真ん中で堂々と過ごせるのは開放的な体験であり、ロックヴィルのように従来からある広場が拡張されているのも魅力的に感じます。
ストリータリーは、新型コロナウイルス感染症への対応として始められました。それでは、今後、ストリータリーはどうなるのか。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大していた間の一時的なものとして終了するのか、感染が収束した後にも何らかのかたちで残るのか。
最初に書いた通り、メリーランド州では2021年5月12日にレストランの店内の収容人数などの規制は全て解除されました。そのため、新型コロナウイルス感染症以前のようにレストランを営業してもよいわけですが、今でもストリータリーは継続されています。そして、ストリータリーを継続したい、そして、恒久的なものにしたいという声もあげられています。
2021年7月末には、ウィートン・ストリータリーを恒久化する請願書が「change.org」に掲載され、署名が集められています。2021年9月5日時点では669人がこれに賛同する署名を行なっています。
「メリーランド州ウィートンの人々はみな、ストリータリーを愛しています。レストランにとっては救世主のような存在であり、モンゴメリー郡は夏の間、ストリータリーの存続を承認しました。恒久化により、店内での食事を心地よく感じない人に屋外席を確保できます。これは、一般の人々にとってもレストランにとっても良いことであり、レストランの従業員にとっても素晴らしいことです。
年末にストリータリーを継続することは、行政にとってもよいことです。ストリータリーによる売上税は、メーターパーキングよりもはるかに多いからです。
10年以上前から、ウィートンのこのクールな一画を歩行者天国にする計画がモンゴメリー郡の計画課に提出されています。ストリータリーを恒久化することは、その一歩になります。」
※「change.org」の「Make the Wheaton Streetery Permanent」のページに記載内容の翻訳。
2021年8月末、モンゴメリー郡は少なくとも2021年11月28日までストリータリーを延長することを発表*8)。プレスリリースで、モンゴメリー郡の職員は次のように話しています。
モンゴメリー郡交通局長(Transportation Director)のChris Conklin氏
「パンデミックの期間中、シェアード・ストリートは創造的なソリューションであり、人々の集まり方に大きな影響を与えました。コミュニティのつながりと活気を維持するのに役立ちました。」モンゴメリー郡アルコール飲料サービス担当局長(Alcohol Beverage Services Director)のKathie Durbin氏
「企業はコンプライアンスを遵守しており、屋外に追加されたダイニングの場所に感謝しています。企業はこのプログラムを可能な限り維持したいと考えています。」
※Bethesda Magazine「Montgomery County extending ‘streeteries’ program through Nov. 28」(August 25, 2021)に記載の内容の翻訳。
以上のような動きから、ストリータリーが好評であることが伺えます。
ロックヴィル市では、2021年9月9日の議会において、年間通じてストリータリーを実施して冬季には暖房用のテントを設置する、気候が良い時期や週末のみストリータリーを実施する、あるいは、ストリータリーではなくカーブサイド・ピックアップ(事前に注文していた商品の店頭での受け取り)のための15分間の無料の駐車スペースを一時的に継続するなどの可能性が検討されるということです*9)。
メリーランド州に隣接するワシントンDCでも、2020年5月からストリータリー(※ワシントンDCでは「Streatery」と表記)が行われています。ワシントンDC交通局(District Department of Transportation:DDOT)が実施した調査では、ストリータリーについて次のような回答があったということです。
- ストリータリーの許可証を持つ100社を対象とする調査では、87社がストリータリーによりビジネスが拡大した、89社がパンデミック後もストリータリーのプログラムを継続することに賛成と回答している。
- 地元住民3,000人を対象とする調査では、73%がストリータリーにより外食の頻度が増えた、71%がストリータリーにより食事の選択肢が増えたと回答している。
こうした回答もふまえ、ワシントンDCでは2022年後半には恒久的なプログラムが開始されるということです*10)。
ただし、ワシントンDCでは、ストリータリーに対して障害のある人が混雑した歩道を歩行する際に問題が生じるという指摘もされています*11)。ニューヨーク州マンハッタンでは、住民からストリータリーを恒久化する計画に対して、騒音の発生、ネズミの発生などで住環境が悪化するという反対意見も出されています*12)。
新型コロナウイルス感染症への対応として生まれたストリータリーが、今後どうなるのかは現時点では不明ですが、今後の動きに注目したいと考えています。
- 8)Bethesda Magazine「Montgomery County extending ‘streeteries’ program through Nov. 28」August 25, 2021。
- 9)Rockville Reports「City and Community to Meet on Future Use of Town Center Streets」August 30, 2021。
- 10)dcist「D.C. Streateries To Stay Put Through February, With A Permanent Program On The Way」July 23, 2021。
- 11)dcist「D.C. Streateries To Stay Put Through February, With A Permanent Program On The Way」July 23, 2021。
- 12)CURBED「Outdoor Dining Is Home Invasion’ and Other Exaggerations From Manhattan Community Board 3」July 15, 2021。
メリーランド州モンゴメリー郡の歩道での屋外ダイニング
屋外ダイニングを作る取り組みとして、(車両を通行止めにすることなく)歩道にテーブルを並べてレストランの屋外席にしている場所を多数見かけます。ストリータリーのように車両通行止めにする必要がないため、非常に多くの場所で歩道での屋外ダイニングが行われています。
ストリータリーは、基本的にどのテーブルを利用してもよいことになっているのに対して、歩道での屋外ダイニングは基本的にその奥にあるレストラン専用の屋外席になっているようです。屋外のテーブルには囲いがされている場所もしばしば見かけます。
ウィートン(Wheaton)では、ストリータリーが行われていないエリアでも、写真のようにレストラン前にテーブルが置かれています。レストラン前に駐車スペースがある場所には白いテントが貼られ、音楽のライブが行われていました。
ワシントンメトロのホワイト・フリント(White Flint)駅近くのパイク・アンド・ローズ(Pike & Rose)。最近、開発されているエリアで、歩道が広めに作られており、レストランの前を中心として多数のテーブルが置かれています。
パーク・ポトマック(Park Ptomac)。こちらも、最近開発されている街で写真のようにレストラン前のスペースが、レストラン専用の屋外席として利用されています。
(更新:2022年4月5日)
※「アフターコロナにおいて場所を考える」のバックナンバーはこちらをご覧ください。