『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

サンフランシスコの場所:組み合わせが生み出す魅力

サンフランシスコ滞在時に様々な場所を訪れることができました。多くの魅力的な場所がありましたが、改めて振り返れば、これらの場所は多様な組み合わせによって実現されていることがわかります。

私と公共の組み合わせによるパブリックな場所

組み合わせの1つのかたちは、私と公共による組み合わせでPOPOS、パークレットをあげることができます。

POPOS(Privately Owned Public Open Space)

POPOSは「Privately Owned Public Open Space」の頭文字をとったもの。土地は民間の所有ですが、法的にパブリックな場所として公開することが要求される空間で、民有のパブリック・オープンスペースという意味です。

2019年5月時点で78のPOPOSが存在し、そのほとんどがダウンタウンにあります*1)。
屋外の広場、デッキ、建物内のロビー、屋上とタイプは様々で、自由に出入りできる場所もあれば、ID(身分証明書)の提示が必要な場所もああります。利用可能な時間帯もそれぞれの場所によって異なります。POPOSのかたちは多様ですが、無料で利用できる場所という点では共通しています。また、POPOSの一画にカフェがある、POPOSのすぐ隣にカフェがある場合が多いのという特徴があります。

POPOSはダウンタウンにおいて無料で座れる場所、飲食できる場所、アートに触れることのできる場所を生み出しています。

POPOSは民間によってもうけられる場所ですが、1985年に策定されたダウンタウン・プランではダウンタウンの労働者、居住者、訪問者のニーズに対応できる十分な量と種類の、質の高いオープンスペースを提供することを目的として、パブリック・オープンスペースのための体系的な要件が初めて作成されています。さらに、総工費の少なくとも1%をパブリックアートに充てなければならないという「1%のアート・プログラム」(1% Art Program)も策定。1985年以降のPOPOSはこれらに従ってもうけられています。

なお、いくらPOPOSが設置されたとしても、そこがPOPOSであると容易に認識されなければ、そこにアクセスできなければ、その価値は失われてしまう。そこでサンフランシスコ市は2012年にPOPOSのサインを統制するための法律を策定し、POPOSには統一のサインが掲示されています。

パークレット

パークレットは歩道に隣接する道をパブリックな場所とするもので、2010年、サンフランシスコに世界で初めて、公式に設置されたとされています。地域の中小企業、コミュニティ団体、学校、住民などコミュニティの人々や団体がスポンサーとなり設置、維持管理する場所。行政はスポンサーの申請、デザイン、メンテナンス状況などをレビューする役割を担います。

2019年5月時点で50のパークレットが更新の手続きをしており、サンフランシスコ内に広く分布*2)。大半の場所はカフェ、レストラン、ベーカリーなどの飲食店がスポンサーとなっています。
自動車の駐車レーンを転用した細長い空間にテーブル・ベンチなどの家具、植栽がおかれたり、照明、自転車の駐輪スペースがもうけられたりしており、テイクアウトしたものを飲食したり、話をしたり、ノートパソコンで作業をしたり、本を読んだりできる場所になっています。

サンフランシスコ市が作成する『パークレット・マニュアル』では、パークレットはパブリックな場所にすることが明記されています。
例えば、カフェやレストランなどの飲食店がスポンサーになる場合でも、飲食店の客であるか田舎に関わらず、誰もにオープンになっていて、無料で利用できるようにしていなければなりません。パークレットでは店員が食事をサーブすることはできず、利用者自身でテイクアウトし飲食する必要があります。また、パークレットのテーブルを飲食店のためにセッティングすることもできません。

『パークレット・マニュアル』ではパークレットには「Public Parklet」と書かれたサインを掲示することが定められています。


POPOS、パークレットについて以下の3点が特に重要だと考えています。

1つは、私と公共の関係について。POPOS、パークレットはいずれも私(プライベート)がもうけるパブリックな場所。アメリカは資本主義の国で、私(プライベート)が自由にやっているというイメージを抱いてしまいそうになりますが、POPOS、パークレットから浮かび上がってくるのは私(プライベート)が豊かなパブリックな場所を生み出していること。
公共セクターである行政はガイドラインやマニュアルの作成、それに基づいたレビューの役割を担っていますが、公共が私(プライベート)の動きを規制しているというよりは、私(プライベート)の動きを上手く活用して、豊かなパブリックな場所を実現しているように感じる。これは行政が私(プライベート)を規制するという傾向があり、生み出される場所も画一的になりがちな日本とは少し様相が違うように感じます。
ここで生じていることは、「私(プライベート) vs 行政 = パブリック」ではなく、「私(プライベート)+行政=パブリック」と表現できるように思います。

2つ目は、無料で利用できる場所であり、しかも、無料だからといって決して質が低いわけではないこと。無料で利用できる質の高い場所があちこちにあることは、サンフランシスコという都市の魅力を大きく向上させていると感じます。そしてこれは、無料で座れる場所が少ない日本の都市とは対称的です。

3つ目は、POPOS、パークレットは1〜2人で利用できる場所になっていること。飲食する、話をする、ノートパソコンで作業をする、本を読む、スマートフォンを触る、周りを眺めるなどがPOPOS、パークレットでしばしば見かける光景ですが、1〜2人でも肩身の狭い思いをせず、堂々と居られる場所になっていす。都市とは賑わいが求められるだけの場所ではなく、1〜2人でもず豊かに居られる場所であることに気づかされます。

カフェ/レストランとの組み合わせ

組み合わせのもう1つのかたちは、カフェ/レストランと他の場所の組み合わせでSpacious、Laundréをあげることができます。

Spacious

Spaciousは2016年に設立された新たなかたちのコワーキング ・スペースです。夕方以降営業するレストランの空間は、昼間は空いていることに注目。使われていない時間帯のレストランの空間を、スタイリッシュで、生産的なワークスペースとし、それを都市全体のネットワークにするというプロジェクト。使われていない空間資源を、別のかたちで有効に活用するという意味で、シェアの思想に立つものだと言えます。これは利用者にとってのメリットになるだけでなく、これまで使われていなかった時間帯からも収入を得られるという点で空間のオーナーにもメリットがあります。

2019年5月時点で、サンフランシスコの7ヶ所、ニューヨークの14ヶ所のレストランがSpaciousに参加しています。

Laundré

Laundréはサンフランシスコのミッション地区にある場所で、ランドリーとカフェが一体となった場所です。
「持続可能なランドリー設備、本格的なコーヒー・バー、共同の席(Communal Seating)を備えたオープンで魅力的な空間」をもうけることで、洗濯している間に友人に会ったり、仕事をしたり、美味しいコーヒーを飲んだりすることを可能にし、洗濯がつまらない雑用でなくなることが目指されています*4)。


Spaciousはレストランとコワーキング ・スペースを時間帯をずらすことで組み合わせた場所。Laundréはカフェとランドリーを空間的に組み合わせた場所。このようにカフェ/レストランと別のものを時間的、空間的に組み合わせることで、新たなタイプの場所を生み出しています。

なお、先に紹介したPOPOSでは、一画にカフェが運営していたり、隣でカフェが運営していたりと、POPOSとカフェは密接に結びついていました。パークレットの大半は、カフェ、レストランなどの飲食店がスポンサーになっていました。POPOS、パークレットもカフェ/レストランとの組み合わせにより生み出された場所だと捉えることも可能です。

カフェ/レストランは様々なものと組み合わさることで、新たなタイプの場所を生み出していく。この意味で、カフェ/レストランは暮らしの基本となる場所である。
このことは、レイ・オルデンバーグが十九世紀のドイツ系アメリカ人のラガービール園、戦前の田舎町のアメリカにあった「メインストリート」、イギリスのパブやフランスのビストロ、アメリカの居酒屋、イギリスとウィーンのコーヒーハウスなどの「インフォーマルな公共の集いの場」を「サードプレイス」(第三の場所)と呼び注目していることにも関わってくると考えています。


参考

  • 1)「DataSF」に掲載の「Privately Owned Public Open Space」(2019年5月1日更新)のデータ
  • 2)「DataSF」に掲載の「Parklet Permits」(2019年5月4日更新)のデータ
  • 3)「Spacious」ウェブサイト
  • 4)「Laundré」ウェブサイト