サンフランシスコでは写真のように車を路肩に駐車します。
サンフランシスコのミッション地区を南北に走るValencia Stを歩いていると、路肩の駐車スペースに張り出すように設置されたベンチを時々見かけました。話をしたり、食事をしたり、あるいは、1人で本を読んだり、ノートパソコンで作業をしたりと様々なことをしている人がおり、魅力的な場所だと印象に残っていた場所です。
Four Barrel Coffee(フォーバレルコーヒー)、Ritual Coffee Roasters(リチュアル・コーヒー・ロースターズ)のサードウェーブコーヒーの店舗や*1)、Dandelion Chocolate(ダンデライオン・チョコレート)など有名なカフェの前でよく見かけるため、個々のカフェの屋外席だろうぐらいにしか思っていませんでしたが、調べたところサンフランシスコ市のパークレット(Parklet)という仕組みを活用して設けられた場所であることがわかってきました。
そして、パークレット発祥の地がサンフランシスコであることもわかりました。2010年、サンフランシスコに、世界で初めて、公式にパークレットが設置されたということです*2)。
パークレットとは
パークレットを管轄するサンフランシスコ市郡の機関のGroundplayのウェブサイトには、パークレットが次のように説明されています。
■パークレットとは何ですか?
パークレットは、歩道に隣接する道の一部を人々のためのパブリックスペースとして再利用するものです。このような小さな公園では、座席、植栽、駐輪場、アートなどのアメニティが提供されています。パークレットは近隣のビジネス、住民、コミュニティ団体によって資金提供され、メンテナンスされていますが、誰もが自由にアクセスできるパブリックな場所です。パークレットには、スポンサーやデザインを担当するする人々や組織の多様性と創造性が反映されています。また、徒歩や自転車の利用を促進し、コミュニティを強化するサンフランシスコ市の取り組みも反映されています。■パークレットはどこにありますか?
ほとんどのパークレットは、歩行者や歩道での活動の多い近隣の商業道路に設置されています。パークレットは常に駐車レーンに設置されており、通常、1~2台分の長さです。■誰がパークレットを作ったり、スポンサーになったりできますか?
パークレットを設置したり、スポンサーになったりするための提案は、中小企業、コミュニティ団体、学校、住民などのコミュニティの多様なステークホルダーから出されています。これらのカテゴリーに当てはまらない場合でも、心配しないで下さい。思いがけない良いアイディアを歓迎します。■どのくらいの費用がかかりますか?
スポンサーはデザイン、建設、許可申請のための全ての費用を負担する責任があります。これらに加えて、定期的なメンテナンス、落書き(Grafity)の除去、修繕などの継続的なメンテナンス費用もかかります。審査と許可にかかる費用は承認プロセスの様々な段階で徴収されます。各段階の手数料の合計は、パークレットの影響を受けるパーキングメーターの数、カラーカーブ(※駐車ルールを示すために、縁石が白・青・黄・緑・赤で色分けして塗装されているた)の変更によって異なる場合がああります。全ての料金は公共事業局(Public Works)により徴収されます。・・・・・・■どのようにしてパークレットの建設を申し込むことができますか?
パークレットのスポンサーになるには、3つのフェーズがあります。
①提案
提案書には、敷地に関する情報と、コミュニティのサポートを受けることができることの証明が必要です。パークレット・チームは、提案書の完全性と実現可能性をレビューします。
②デザイン・許可
パークレット・チームは提案されたデザインをレビューし、安全性、アクセシビリティの要件を全て満たしていることを確認します。デザインが承認されると、パークレットの許可申請を行うことができます。
③建設
許可が降りた後、パークレットを建設、設置することができます。建設工事の前後には現場検査が行われます。継続的なメンテナンスの計画を立てることを忘れないでください。
*Groundplayの「Parklets」のページより*3)。
ここで説明されているようにパークレットは地域の中小企業、コミュニティ団体、学校、住民などコミュニティの人々や団体がスポンサーとなり設置、維持管理される場所。この意味で、民間によるパブリックな場所だと捉えることができます。
行政は提案やデザインをレビューする役割を担当。関わる行政機関は、提案の採用、デザインのレビューがSFPLN(San Francisco Planning Department)、交通に関するレビューがSFMTA(San Francisco Municipal Transportation Agency)、許可の申請、現場での検査がSFPW(San Francisco Public Works)の3つです。
パークレットの目的
サンフランシスコ市は『パークレット・マニュアル』を作成しています。『パークレット・マニュアル』にはパークレットの目的として、次の5点があげられています。
■通りの可能性の再イメージ
完全な通りは歩く人、自転車に乗る人、公共交通を利用する人、車で旅行する人のニーズをバランスさせます。パークレットは、通りの全ての利用者にとってより良いバランスを実現するための、比較的低コストで、簡単に実行できるアプローチです。■ウォーキング・自転車(Non-Motorized Transportation)の奨励
パークレットはパブリックな座席、ランドスケープ、パブリックアートなどの歩行者にとってのアメニティを提供することで、歩くことを奨励します。パークレットではしばしば駐輪場が提供されており、これは人々が自転車を主な交通手段として選択するのをサポートします。■歩行者の安全と活動の促進
パークレットは車線と歩道の間に緩衝地帯を生み出します。また、屋外の集まりのスペースも生み出し、これは市の公園から遠く離れた地域では特に重要なものです。■近隣の交流の促進
パークレットにより、歩行者は座って友人や隣人と集まることができるようになります。多くの場合、隣人はパークレットのデザイン、資金獲得、建設、そして、管理に携わっています。■地域のビジネスのサポート
パークレットは通りの環境をより良いものにし、買い物をしたり、用事を頼まれたり、自分の近隣のサービスにアクセスしたりする人々が、通りをより安全で、快適だと感じられるようにします。
*『San Francisco Parklet Manual』(Version 3.0), Fall 2018*4)
申請に必要な費用
パークレットを提案し、設置の許可を受けるためには費用がかかります。申請に必要な料金は提案の採択時、最終の許可時、撤去時の3時点で徴収されるとされています。
■提案の採択時:329.55ドル
■最終の許可時:2,448.45ドル
- (追加料金)最大2つまでのパーキングメーターの取り外し料金:430.00ドル
- (追加料金)3つ目からのパーキングメーターの取り外し料金:パーキングメーター1つごとに900.00ドル
- (追加料金)道路の占有料金:20リニアフィート当たりの料金を算出、料金は状況により異なる
■撤去時:210.00ドル
- (追加料金)最大2つまでのパーキングメーターの設置料金:380.00ドル
- (追加料金)3つ目からのパーキングメーターの設置料金、料金は状況により異なる
*Groundplay「Parklet Fee Schedule」(Updated: October 2016)より*5)。
これより、パークレットの申請に必要な費用は最低でも2,778ドル(329.55ドル+2,448.45ドル、約30万円)かかることになります。これは申請に必要な費用であり、別に建設のための費用がかかります。もちろん、完成後にはメンテナンス費用も必要になってきます。
スポンサーの役割
先に紹介したようにパークレットは地域の中小企業、コミュニティ団体、学校、住民などコミュニティの人々や団体がスポンサーとなり設置、維持管理されるもの。この意味で、スポンサーが決定的に重要になります。
『パークレット・マニュアル』にはスポンサーの責務が記載されています。既に紹介した内容と一部重複する部分もありますが、スポンサーは例えば次のような役割があります。
■オーナーや近隣との関係
- 提案時には土地のオーナー、及び、両サイドのビジネスのオーナーからの同意書(あるいはサポート)が必要になる。
- パークレットを設置する意向があることを、近所の土地のオーナー、ビジネス、商業組合、近隣の組織、住民に知らせておくことを強く推奨する。
■資金調達の方法の記載
- スポンサーはデザイン、建設、許可、メンテナンスの全ての費用を負担する必要がある。提案書には資金調達の方法を記載する必要がある。
■デザイン
パークレットのデザインは、次の3点を考慮する必要がある。
- パブリックな場所:ビジネスの常連であるか否かに関わらず、誰にとっても開かれており、誰もが利用を歓迎される必要がある。パークレットは営業時間外でも利用できるアメニティを提供することが奨励される
- 広告の禁止:ロゴ、広告、そのほかのブランディングは禁止される。ただし、スポンサーと寄付者を記載した小さくて目立たない額(Plaque)は許容される
- スマートなデザイン:パークレットはガス管、上下水道などの埋設された公共インフラの上に設置される場合があるため、緊急事態、あるいは、必要な道路工事の際に容易に取り外し、保管できるようなデザインにする必要がある。1平方フィートあたり200ポンド(1m2あたり約970kg)を越える重量にすることはできない
■建築材料
パークレットで利用する建築材料は、高品質で、丈夫で、美しく、持続可能で、健康的なものにする必要がある。
- 現地で調達できる建築材料:地域の経済を支え、輸送による二酸化炭素排出量の削減になる
- リサイクルされた材料、再生材料
- 低排出物質:塗料、着色剤、接着剤、その他の材料は、揮発性有機化合物(VOC)をゼロ、または、低レベルで放出するものにする
- プラスティックを避ける
- メンテナンスが容易な材料
- 持続可能な木材製品:サンフランシスコ市郡のコードにより、熱帯広葉樹、及び、原生林のレッドウッドを利用することは禁止されている
- 圧力処理された木材または合板木材は見える場所に利用できない
■サイン
- パークレットには「Public Parklet」(パブリック・パークレット)と記載された看板を設置する必要がある。サインは、サンフランシスコ市が指定するデザイン、フォーマット、素材にする必要がある。サインを見やすい場所に設置するために、現場審査の際に確認される。
パークレット設置後のスポンサーの役割
パークレット設置後のスポンサーの役割として、次の点があげられています。
■パークレットはパブリックな場所
パークレットはビジネスの常連客であるか否かにかかわらず、全ての人に無料で、オープンになっている必要があります。例えば、レストランの従業者が、レストランの利用客ためのスペースを作るため、パークレットにいる誰かを立ち退かせることは許可されていません。場所のセッティング、調味料やナプキンの配置などのテーブルサービスをパークレットで行うことは禁止されています。レストランやカフェの場合、利用客はパークレットに座って給仕を受けるのではなく、店内のカウンターで自ら飲食物を受け取る必要があります。パークレットを清潔に、手入れが行き届い状態にしておくために、テーブルの食器を片付けることは許可されています。■メンテナンス
パークレットの認可条件を満たすように、手入れの行き届かせ、修理をする必要があります。スポンサーは、パークレットをゴミ、汚れ、落書き(Grafiti)から守り、植物を健康な状態に保つためのメンテナンス計画を作成し、提出しなければなりません。市の道路清掃はパークレットのすぐ近くの縁石ラインに近づくことができないため、スポンサーはパークレットの周囲を掃除し、ゴミのない状態にしなければなりません。少なくとも週に1回は、パークレットの下部のゴミを洗い流さなければなりません。公衆衛生局がパークレットの下の害虫駆除を要求する場合があります。設置から年数が経過したパークレットは、日々の利用による摩耗や傷、長年にわたる風雨への暴露のため、時々、改修が必要になるでしょう。■更新許可と保険
パークレットの許可の更新料は公共事業法により定められており、金額はインフレーションを考慮して毎年調整されます。許可は毎年2月に更新されます(初年度の手数料は按分して請求されます。以降は毎年全額が請求されます)。最新の手数料を確認してください。許可を更新する際は、保険が最新のものになっていることを確認してください。パークレットの設置、及び、管理について重大な懸念が出された場合、公共事業局は許可を更新すべきかどうかを決定するために公聴会を開くことができます。■所有権の変更
ビジネスが所有権を変更する場合は、パークレットを撤去するか、新たな所有者に許可を譲渡する必要があります。譲渡する場合、新旧両者のスポンサーが署名した書類を提出しなければなりません。加えて、新しいスポンサーは以下を提出しなければなりません。(略)
新たなスポンサーの許可が公共事業局により正式に承認されるまで、旧スポンサーは全ての責任を負います。許可の譲渡について、詳細は公共事業局にお問い合わせください。■撤去
自己都合による撤去:何らかの理由でパークレットを撤去しようとする場合、公共事業局に通知し、撤去する必要があります。撤去には追加の許可が必要です。
街路景観の改善:パークレットがよく修繕され、パブリックにオープンになっている限り、パークレットの許可を無期限に更新することができます。しかし、街路の再舗装、公共インフラの作業、あるいは、街路環境の再デザインなどの場合、市はパークレットの撤去を求めることがあります。この場合、市はなるべく早く通知するように努めます。状況が許せば、道路の改良工事が終わったあと、パークレットを再設置することができます。その場合、工事期間中、パークレットを別の場所に保管しておく必要があります。スポンサーはパークレットの撤去、保管、再設置のコストを負担する必要があります。
公共の安全のための緊急事態:パークレットは埋設された公共インフラの上に設置されていることがあるため、予告なしで撤去しなければならない場合があります。万が一、公共の安全を脅かすガス漏れなどが生じた場合、市は通知なくパークレットを撤去することがあります。パークレットが破損した場合は、スポンサーの責任で修復してください。■インパクトスタディの報告
サンフランシスコなどパークレットの需要が増加しているため、より多くの街路空間がパブリックな空間に変換されています。このプログラムは世界中の都市に影響を与えています。市では、パークレットが通り、ビジネス、商業地区に及ぼす可能性のある社会的・経済的影響をより良く理解し、文書化したいと考えています。スポンサーは、パークレット・プログラムの評価と研究に役立てるための市の調査への回答を求められるかもしれません。これらへの参加は感謝され、他に類を見ない設置がもたらす効果を他の人に伝えることに寄与するでしょう。■公聴会の可能性
パークレットとその周囲を清潔に保ち、市が定めたガイドラインに基づいて業務を行ってください。もし、基本的な業務要件が満たされていない場合、近隣が市に苦情を申し立てる可能性があります。解決されない場合、重大な罰金、そして/または、公聴会が開かれる可能性があります。苦情の性質と量によっては、パークレットの許可を取り消す場合があります。
*『San Francisco Parklet Manual』(Version 3.0), Fall 2018*6)
パークレットは、地域の中小企業、コミュニティ団体、学校、住民などコミュニティの人々や団体がスポンサーとなり設置、維持管理するという意味で、民間が作るパブリックな場所だと捉えることができます。ここでパブリックという表現を用いたのは、設置されたパークレットは、コミュニティ以外の人々に対しても開かれていなければならず、誰もが利用できる場所だからです。
ただし、パークレットのスポンサーは多くを負担しなければなりません。現在設置されているパークレットの大半は、カフェ、レストランなどの飲食店がスポンサーになっています。飲食店にとっては費用を負担して設置するにも関わらず、そこで飲食店をサーブしてはならず、利用客以外の全ての人々にとって開かれた場所にしておかなければならないという制約がある。しかし、こうした制約を考慮した上でも、飲食店にとってはメリットがあるから多くのパークレットが設置されている、ということです。
そのメリットは、テイクアウトする利用客が座れる場所になるという直接的なものもあると思いますし、通りを安全で快適な、そして、多くの活動や交流が行われる魅力ある場所にできるというものもあると思います。
一方、サンフランシスコ市は、マニュアルを設けて、スポンサーから出された提案を審査する役割。この意味でパークレットは民間と行政、私と公の協働により生み出される場所とも表現できます。
■注・参考資料
- 1)サードウェーブコーヒー(Third Wave Cofee)とはアメリカ合衆国におけるコーヒーブームの第3の潮流。第1の波はインスタントコーヒーなどによる家庭への急速な普及(19世紀後半~1960年代)、第2の波はスターバックスなどに代表されるコーヒーの風味の重視(1960年代~2000年頃)。これに次ぐ第3の波で、コーヒー本来の価値を重視する動き(2000年頃~)。コーヒーをワインのような芸術性を兼ね備えた高品質な食品として提供することを特徴とする。Wikipedia「サードウェーブコーヒー」のページより
- 2)Tracy Elsen「Mapping All 43 Awesome San Francisco Public Parklets」(April 15, 2014)に「This was San Francisco’s first official parklet ever, installed in March, 2010.」と記載されている
- 3)Groundplayの「Parklets」のページ
- 4)『San Francisco Parklet Manual』(Version 3.0), Fall 2018
- 5)Groundplay「Parklet Fee Schedule」(Updated: October 2016)より
- 6)『San Francisco Parklet Manual』(Version 3.0), Fall 2018
(更新:2023年7月10日)