『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

ニューヨーク、マンハッタンのドッグ・ラン

先日紹介したニューヨークのユニオン・スクエア(Union Square)
ユニオン・スクエアでは、グリーン・マーケットの他にドッグ・ラン(Dog Run)も見ることができました。

ドッグ・ランとは、綱をはずして犬を自由に走らせることのできる場所のこと。写真を見ると、犬と同じぐらい、あるいは犬以上に、飼い主たちも楽しく過ごしているように見えます。ドッグ・ランは、犬の飼い主にとって、他の飼い主と自然に出会い、顔見知りになるための場所という意味で、都市の生活を支える重要な装置になっているように感じました。

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このドッグ・ラン、1人の人の思いをきっかけとして生まれた場所だとのこと。

ドッグ・ランについて調べていると、兵藤ゆき氏の『ニューヨークの犬たち』(ワニブックス,1994年)という本を見つけました。

マンハッタンでのドッグ・ランのそもそもの起こりは、15〜18年前、マンハッタンに一人暮らしで犬を飼う人々が年々増え始めた頃のことだそうだ。N.Y.市の畜犬係留法が厳しく、散歩等、犬は常につないでいなくてはならず、それでは犬がかわいそう、もっと自由に遊ばせる場所がほしいとの飼い主たちの声が高まり、市民が市に働きかけた。そして初めてのドッグ・ランが、マーサー通りとハウストン通りの角(ダウンタウン)にできたそうだ。
しかしそこはメンバー制で入会金50ドル(少々、ハイソサエティー)。
もうちょっと気楽な場所もほしいと、その後、庶民たちによってほかの公園にメンバー制でもなく、入会金もなしのどんな犬でも遊べるドッグ・ランができ始める。管理に関して当初、市が維持費を出していたが、今では飼い主たちの間で主に利用するドッグ・ランごとに自主的に委員会を結成。当番制にして各ドッグ・ランを管理している(すべてボランティア、アメリカの人たちはよくボランティアをする。・・・・・・)。
ドッグ・ランの掃除は、もちろん飼い主たち。春・夏・秋は1カ月ごと、冬は3、4回。ドッグ・ランを清潔にしておくために敷く石灰や木片の代金も、飼い主たちが自主的に出している。
*兵藤ゆき『ニューヨークの犬たち』ワニブックス 1994年

マーサー通り(Mercer St)とハウストン通り(Houston St)の角にある最初のドッグ・ランの場所はこのあたり。

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このドッグ・ランは、1987年に立ち上げられたMercer-Houston Dog Run Association (MHDRA)というボランティアの組織によって維持・管理されています。この組織の立ち上げに携わったのは、ドッグ・トレーナーで、カウンセラーでもあるロビン・コバリー(Robin Kovary, 1957-2001)さんという女性。ドッグ・ランは、彼女の「こんな場所があったらいいのにな」という思いから生まれた場所で、ロビンさんは『Manhattan File magazine』によってベスト・ドッグ・トレーナーにも選ばれています。

『ニューヨークの犬たち』にはドッグ・ウォーカー(Dog Walker)という仕事のことも紹介されています。ドッグ・ウォーカーというのは、1人暮らしで犬を飼っているが、仕事等で留守をしなければならない時に、犬の散歩や世話を頼む人のこと。その1人、「モネおばさん」のことが次のように紹介されています。

「モネおばさんは、ここのドッグ・ランのこともよく見てくれていて、ゴミが落ちていたり、飼い主が取り残したウンチもちゃんと拾ってくれるんだよ。だから、僕たち犬の飼い主もモネさんを見習って、ドッグ・ランがいつも清潔なように気をつけているんだ。それに犬たちの健康に関してもちょっとしたことなら相談にのってくれるし」
と、トンプキンズ公園のドッグ・ランで会った、鼻にピアスをつけたお兄ちゃんが言っていた。
*兵藤ゆき『ニューヨークの犬たち』ワニブックス 1994年

これを読んで、ドッグ・ウォーカーはまさにドッグ・ランという場所のあるじ(主)ではないかと思いました。

「こんな場所があったらいいな」という女性の思いから生まれた場所であること、あるじ(主)がいること、ボランティによって運営されていること。これは、千里ニュータウンの「ひがしまち街角広場」にも当てはまるように思います。新たなタイプの場所が生み出される時には、何らかの共通点があるような気がします。

(更新:2016年8月28日)