『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

オーラルヒストリーのインタビューにおける4つの心得

先日の記事で、イギリスのニュータウン、ミルトン・キーンズ(Milton Keynes)で活動するリビング・アーカイブ(Living Archive)というグループを紹介しました。リビング・アーカイブの創設者の1人は、歴史とアートを大切にしてより良い地域を実現するためのコンサルタントをされていること、その方のウェブサイトでは地域の歴史を収集・共有するための実践的なITスキルが公開されていることは既にご紹介した通りです。

オーラルヒストリーを収集したり、写真をデジタル化しアーカイブにしていくためのITスキルは非常に興味深いものですが、もう1つ「オーラルヒストリーのインタビューにおける4つの黄金律(The Four Golden Rules of Oral History Interviewing)」という非常に興味深い資料も公開されています。
千里ニュータウンでディスカバー千里の活動を進めていく上で参考になる非常に重要なことが書かれていますので、その資料の一部をご紹介させていただきます。

この資料に書かれている黄金律は、(1)聞くことができるのは尋ねたことだけ、(2)相手(の話)に興味をもつ、(3)相手の話を聞く、(4)相手に敬意を払う、の4つです。


(1)聞くことができるのは尋ねたことだけ

  • オーラルヒストリーのインタビューでは、相手に尋ねたことしか聞くことができない。だから事前に下調べをして質問項目を作っておくことが大切。自分自身が経験したことも、質問項目を作るために役に立つ。ただし、オーラルヒストリーのインタビューはアンケート調査ではないため、事前に作った質問項目に縛られる必要はない。
  • オーラルヒストリーのインタビューをする時には、「オープンな」かたちで聞くことが大切。「オープンな」かたちでの質問というのは、「〜しましたか?」ではなく、「何を/いつ/どこで/なぜ/どうやって〜しましたか?」というかたちでの質問。例えば、「今夜、ここに自転車で来ましたか?」と聞くと「はい/いいえ」という返事しか戻ってこないが、「今夜、ここにどうやって来ましたか?」というように「オープンな」かたちで質問すると、話が膨らんでいく可能性がある。
  • インタビューを録音をし始めた時、最初に尋ねるべき質問は、①名前を教えてください、②いつ生まれましたか?(何歳ですか? とは聞かないこと)、③今、どちらにお住まいですか? の3つ。①を録音することの意味は、将来、録音したインタビューに関連するメモを紛失してしまった場合でも、誰が話しているかがわかるから。③を録音しておくのは、お礼の手紙や録音したファイルのコピーの送り先を確認するためである。

(2)相手(の話)に興味をもつ

  • オーラルヒストリーをインタビューする相手は著名人でないことが多い。そういう人は自分の話は重要なものでなく、つまらないものだと思いがち。だから、聞き手は相手の話が興味深いものであることを伝えなければならない。そのためには、相手の目を見て話を聞くのが大切。だから、オーラルヒストリーを聞く時にはメモをとるべきでない。
  • 相手の話を興味をもって聞く時、ついつい相槌を打ってしまいがち。けれども、聞き手の相槌は、オーラルヒストリーのインタビューを録音する際にノイズになる。だから、声を出さずに笑う技術を磨かねばならない。

(3)相手の話を聞く

  • 相手が話している間は聞くことに徹して、決して相手の話を妨げないこと。話の途中で聞きたいことが出てきたら、相手の話が終わってから聞くことを心がけておくこと。
    相手の話を聞いていると、話に関連して追加で聞きたいことがどんどんと出てくる。そうなると、全てを聞き忘れるんじゃないかと心配になるかもしれないが、日を改めてインタビューすればよい。
  • オーラルヒストリーのインタビューは、あくまでもインタビューであり、会話でないことを忘れてはならない。

(4)相手に敬意を払う

  • あるテーマについて調べ物をしたり、何人もにインタビューしたりすると知識が増えていく。そうすると、目の前にいる人の話を聞くのではなく、「それは間違ってる」、「他の2人は別のことを話した」というように評価してしまいがち。けれども、歴史というものは白か黒かではなく、その間にあるおびただしいグレーの領域にあるものだというのを忘れてはならない。
  • あるテーマについて鮮明な記憶を持っている人が他にいたとしても、その人の記憶に誤りがあるとしても、今、目の前で話してくれている相手を尊重する必要がある。
    オーラルヒストリーを話してくれるのは決して有名人ではないし、自分のオーラルヒストリーを話した経験もない人。そのような人は話をしながら、自分の話に意味があるかどうか不安に思っている。だから、聞き手が興味を示してくれなかったり、経緯を払ってくれなければ、自信を失ってしまう。

※Roger Kitchen氏のウェブサイト『The Four Golden Rules of Oral History Interviewing』より。


ここに書かれているのは、オーラルヒストリーを後世に継承するための心得として、非常に重要なものだと感じます。
相手の話を聞いている今の自分自身には自明であっても、そのインタビューを聞く後世の人にとっては自明ではないことを忘れてはいけないということ。だからこそ、話し手の名前もきちんと録音し、話のディテールもきちんと聞いておく必要がある。4つの心得からは、地域の歴史を記録することは、自分自身の代で終わらせるべきものではなく、後世に継承せねばならない長期的な活動であることを教えられます。