『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

Developed CountyとDeveloping County

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先日、ネパールの首都カトマンズでBihaniというソーシャル・ベンチャー/社会起業のオフィスを訪れる機会がありました。
Bihaniを訪れたきっかけは、昨年、国連防災世界会議にあわせてワシントンDCの「Ibasho」の清田英巳さんを中心として執筆した大船渡「居場所ハウス」についてのレポート「Elders Leading the Way to Inclusive Community」を、Bihani代表の女性が読んでくださり、何か一緒に活動できないかという声をかけていただいたのがきっかけ。今回の訪問の際に、一緒に連れて行っていただきました。

Bihaniを訪れて感じたのは、発展途上国・開発途上国というのは「Developing country」の翻訳であること。それに対して先進国「Developed country」の翻訳であること。現在進行形で発展しつつある国と、既に発展が完了してしまった国との違いです。

Bihaniは主に50歳以上の人(高齢者)の暮らしをサポートする活動をするグループで、Bihaniとは現地の言葉で「朝」の意味。新しい始まりという意味を込めて、この名前を採用したとのこと。
Bihaniは50歳以上の人がそれまでの人生で身につけた経験をいかしながら、再び関係を編み直し、探求し、より良い後半生を実現していけるようにという思いで設立されたグループ。具体的な活動としては、読書会、映画上映会、音楽演奏会、インターネットのクラス、健康に関する活動など様々な活動が行われています。健康に関する活動では、太極拳(Tai Chi)も取り入れられているとのこと。興味深かったのが、50歳以上の人の手作りの商品をブランディングしたり、写真を撮影してカタログを作ったり、ウェブサイトを立ち上げたりすることで、手作りの商品販売のサポートを行っていることです。また、月に1度、マーケットを開催しており、次回のマーケットではお茶の テイスティング(Tea Bar)を企画しているという話でした。

Bihaniの代表はまだ30代の女性。代表の女性は、ネパールでは社会起業家(Social Entrepreneurship)という言葉が流行ってるけれど、目的を見失ったら社会起業家でなく単なるサービス提供者(Service Provider)になってしまうと話されていました。まず目的が先にあるのだ、と。Bihaniに集まるスタッフは10人ほどで、大学生を含め理学療法、金融、ビジネスなどの分野を専門とする20代の若者が中心。
加えて、BihaniはAIESEC(アイセック)という学生による国際的非営利組織のボランティアの受け入れも行っており、訪問した際にはインドネシア、中国、台湾の大学生が仕事をしていました。
若い方々がオフィスの室内・室外のあちこちで打合せをしたり、ノートパソコンで作業をしたりしており、オフィスは非常に自由な雰囲気で活気がありました。特にポメロ(文旦)の木の下にあるテーブルの雰囲気がよかったです。

様々な専門をもつ若者が官公庁でも大企業でもなく、(小さなグループかもしれませんが)社会の課題を解決するために集まっている。しかも、社会の課題を解決するための活動を、ビジネスとして成立させるために試行錯誤を重ねている。
こうした光景をみて社会の隙間ということを感じました。

最初に書いた内容に戻りますが「Developing country」というのは、今まさに発展が進行しつつある国。確かに毎日停電があったり、ガソリンを買うために何時間も並んだり、ネットが遅かったりと不便なことはたくさんあります。様々な社会の仕組みもまだまだ整っていないのだと思います。でも、あちこちに隙間があるからこそ、個々人が様々な創意工夫を持ち寄ることで、社会を作り上げている。
それに対して日本を含めた先進国(Developed country)と呼ばれる国は制度や仕組みを整えてきました。けれども、現在の日本では教育、仕事、年金、あるいは、地域、家族などこれまで時間をかけて作りあげてきた様々な制度や仕組みが綻びかけつつあるように感じます。制度や仕組みの綻びにより、また隙間が生まれつつあるのだとすれば、個々人が様々な創意工夫を持ち寄ることで、再び、社会を作り上げていくしかないのだと思います。このことに関しては、ネパールから学べることは多いと考えています。
もちろん、日本がいいとかネパールがいいとか一概に言うつもりはありませんが、先進国(Developed country)が、発展途上国(Developing country)を一方的に支援するという枠組みを捨てて、何をネパールから学べるのを考えるのは大切なことではないかと感じました。


※AIESEC(アイセック):世界126の国と地域にまたがり、約7万人の学生が活動を行う世界最大の学生団体。次世代の国際社会を担う学生が自己の可能性を探求し発展させることを目的として、海外インターンシップ事業を行っている。
*「アイセック・ジャパン」ウェブサイトより

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