『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

BABAラボ:居場所と仕事場を両立させた小規模多機能な場所

さいたま市南区の住宅地の中に「100歳まで働けるものづくりの職場」を目指す「BABAラボ」(ババラボ)という場所があり、少し前に訪問させていただく機会がありました。

おばあちゃんのアイデアで作る「孫育てグッズ」の企画、制作、販売が行われており、「抱っこふとん」、「ほほほほ乳瓶」、「しっぽトート」、「おそろいTシャツ」など様々なグッズはインターネットでも販売されています。一部のグッズは大学や企業との共同開発も行われています。
「BABAラボ」を主催するのはKさんという40代の女性。今まで全国のコミュニティ・ビジネスを支援する仕事をされてきた経歴をもつ方。地方では手工芸品や農作物を作ったり、販売したりしている活動はあるが、都市部でそのような活動はなかなか成立していないという状況を見てこられたとのこと。
それならば、都市部という難しいところを、あえて自分で挑戦してみよう。最初から人がいなくても、技術がなくてもきる仕組みを作り、他の地域に広げていくことができれば。「BABAラボ」はこのようなKさんの思いから開かれた場所です。

「BABAラボ」は次のようなビジョンを掲げて活動されています。

「地方には農業など、年をとっても活躍できる仕事があるけれど、都市部には、そんな職業はほとんどありません。年をとっても、生きがいがもてて、地域の人とつながれる場所。そんな制作工房をみんなで作っていきたいと考えています」。
*「BABAラボ」ウェブサイトより

BABAラボとは?
①BABAたち高齢者の「本当の声」を聞いていきます
・高齢者の本音を取材やアンケートで集めて、WEB・紙媒体で発信をします。
・マーケティング・調査事業なども実施しています。
②BABAたちがいきいき働き・暮らすための「アイデア」をかたちにします
・高齢者のアイデアを生かし「孫育て」「健康」「介護」などに関する『商品・サービス』を、企業や大学などとのコラボレーションで具現化し、販売しています。
③BABAたちの「居場所」をまちにつくります
・高齢者が、地域の人とつながりながら働けたり、学んだりできる場所を各地につくっていきます。
*「BABAラボ」リーフレットより

「BABAラボ」は、このビジョンに共感した大家さんから民家を借りることで、2011年に現在の場所に開かれました。
元々、大家さんは地域に「BABAラボ」のような場所が必要だと考えていた方で、「BABAラボ」が開かれる以前から庭にカフェを建設。子育てに携わる団体が運営する「ヘルシーカフェ・のら」として運営されています。「BABAラボ」が入る民家は「じぶんらしい仕事づくりを応援する家 のらうら」となっており(「のらうら」というのは「ヘルシーカフェ・のら」の裏にあるという意味だと思います)、「のらうら」の1階が「BABAラボ」。2階が共同オフィスで、玄関に掲示された案内には3つの会社が掲載されていました。
Kさんの話によると、「BABAラボ」ができた当初は地域の人から、この場所は何だろうと怪しまれたため、「しかてぶくろ通信」という手作りの地域新聞を発行し続け、今は地域の人からも認知されるようになったとのこと。さらに、「BABAラボ」ができてから地域は変わってきたようで、(「BABAラボ」が直接影響したかどうかはわからないということですが)アーティストが近くに越してきて家開きをしたり、それを見た自治会の人がサロンを開いたりという動きが見られるようになったとのこと。

「BABAラボ」には「孫育てグッズ」を販売するコーナー、ミシンが並ぶ作業スペース、テーブルの置かれた和室、小さな子どものためのキッズスペースなどがあります。

30〜80代までの女性、50〜60人が仕事をしており、それぞれができる役割を担うというワークシェアという形がとられているとのこと。例えば、「抱っこふとん」は(中には1人で作る人もいるが)7〜8人が関わっているという話でした。仕事をする人は「BABAラボ」に来て作業をしても、自宅で作業してもよいことにされています。キッズスペースがありますが、あくまでも仕事をしに来た人自身が、自分の子どもを見守ることが基本とされていますが、信頼関係の中で他の人が見守ることもなされているとのこと。訪れた日には高齢の女性が2人の子どもを見守っておられました。

「BABAラボ」に高齢者も居ることの意味について、コミュニティは多世代で、多様な人がいるものなので、子どもはいつか自分もこうなるという姿を身近に感じることができる。だから、ここに来ている子どもは優しいのだと。高齢になったらできないことも出てくるが、できることもあるので、何歳になっても高齢者が役割を持ち続けることのできる場所にしたいという話でした。
金曜の昼食は「まかない」が行われています。この日は一番人が集まってくるようで、仕事をされている30〜80代までの女性や、女性の子どもたちがみなで食事をするとのこと。

「BABAラボ」は、多世代の女性たちの居場所と仕事場とが両立した場所になっていると感じました。
居場所には、そこが安心できる場所、役割がある場所、他者との出会いや関わりが生まれる場所と様々な意味がありますが、基本的には(他の誰かから強制されることなく)自分自身がどう居られるかが大切にされる場所。それに対して会社としての仕事場である限りは、組織の一員であることが求められる。
これらのバランスをどうとっているのかをKさんに伺ったところ、最初の3年間は時間をかけてコミュニティ作りを行ったとのこと。また、仕事のやり方にはそれぞれの自主性に任せてるとのこと。会社の規模が大きくなると、管理を楽にするために色々なルールを作るが、「BABAラボ」では管理する側が大変な思いをする。働く人を、管理する側の都合に合わせない。この言葉が非常に印象に残っています。管理する側の役割は、Kさんを含め40代の4人の女性が担っているという話でした。ただし、規模が大きくなると管理する側の負担が大きくなり過ぎるため、例えば50人とか、ある程度の規模である必要があるとのこと。

この話を伺い、現在社会において問題になっている施設・制度による縦割りを乗り越えるヒントがここにあるのように思いました。施設・制度による縦割りというのは、例えば、小さな子どもは保育園へ、高齢者は福祉施設へ、仕事をする世代の人はオフィスへ行く。保育園や高齢者施設に入れない場合、仕事をする世代(多くの場合女性)は仕事を休んだり、辞めたりせざるを得ない。仕事を休んだり、辞めたりして家にいたとしても、家で、あるいは、家の近くでは仕事をすることが難しい。施設・制度による縦割りのしわ寄せが個人にいく社会になっているように思います。
けれども、ある程度の規模であれば、「BABAラボ」が実現しているように何歳になっても働ける仕事場であり、子どもを見守ってもられる場所であり、みなで集まって食事ができる場所でありと、1つの場所が多様な機能を担い得る。ある程度の規模であれば、「BABAラボ」がそうであるように住宅地の中に場所を確保することもできる。そして、ルールも必要ではなくなる。

「小規模多機能」という言葉を思い浮かべました。現在、「小規模多機能」というと、高齢者施設の1類型というイメージが定着しています。けれども、「BABAラボ」のように高齢者福祉や施設という枠組をこえて、多様な役割を担える。そして、このような場所は何歳になっても地域で住み続けることを実現するための拠点になる。「小規模多機能」の可能性はここにあるのではないかと思います。

なお、Kさんはさいたま市の「BABAラボ」(正式名称は「BABAラボ さいたま工房」)で培った知見をもとに、他の地域にも「BABAラボ」を広げていきたいと話されていましたが、実際、2016年に岐阜県に「BABAラボ ぎふいけだ工房」が誕生しているとのことです。