『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

都市と自転車@サンフランシスコから

サンフランシスコ市内はMUNI(San Francisco Municipal Railway)のメトロ・バスが縦横に走っています。また、近年ではUber、Lyftのライドシェアのサービスを利用するという選択肢も出てきました。このように公共交通機関、ライドシェアが発達するサンフランシスコ市内の交通に関して、もう1つ気づいたのは自転車にまつわる仕組みが整えられていることです。

例えば、写真はMUNIのバス。車両前面に自転車が固定できるようになっており、自転車に乗ってきた人が(駐輪所を探すことなく)バスに乗車し、バスを降りた後はまた自転車に乗って出発できる。このように自転車とバスの接続をスムーズにすることによって、移動の自由を高めることが可能になっています。

この他、自転車にまつわるいくつかの仕組みを見かけました。

バイクシェア(シェアサイクル)

日本でも一部の地域で導入されているバイクシェア。サンフランシスコではいくつかの会社がバイクシェアを展開しているようです。
写真はFord GoBike。サンフランシスコ、オークランド、バークレー、エメリービル(Emeryville)、サンノゼのベイエリアの5都市でサービスを展開。運営会社のMotivateは、ライドシェアのLyftが買収しています。

Ford GoBikeはスマートフォンのアプリケーションを利用して乗車することができます。アプリケーションをダウンロードした後、希望するプランのパスを購入。自転車に乗りたいステーションに行き、アプリケーションに表示されるコードを使って自転車をドックからピックアップ。自転車の利用が終わった後は、ステーションへ行き、空いているドックに返却します。返却するのはどのステーションでも可能。
ステーションの位置はスマートフォンのアプリケーションで確認することができます。マップ上にステーションの位置が表示されており、ステーションごとに駐輪されている自転車の台数、空いているドックの個数のリアルタイムの情報が掲載されています。
サンフランシスコ内を歩いているとステーションをあちこちで見かけますが、ウェブサイトによれば5都市に540のステーション、7,000台の自転車があるとのこと。

料金プランは次の通り。

  • Single Ride:3ドル(1回、30分まで利用可能。延長する場合は15分ごとに3ドル追加)
  • Access Pass:9.95ドル(24時間以内であれば、30分まで何度でも利用可能。ただし、1回の利用が30分を越える場合、15分ごとに3ドル追加)
  • 3-Day Access Pass:19.95ドル(72時間以内であれば、30分まで何度でも利用可能。ただし、1回の利用が30分を越える場合、15分ごとに3ドル追加)
  • Monthly Membership:15ドル/月、あるいは、149ドル/年(有効期間内であれば、45分まで何度でも利用可能。ただし、1回の利用が30分を越える場合、15分ごとに3ドル追加)
  • Bike Share for All:最初の1年は5ドル/年、2年目からは5ドル/月(ベイエリアの18歳以上の住民で「Calfresh」、「 SFMTA (Low Income) Lifeline Passes」、「PG&E CARE utility discount」のいずれかの資格を持つ人限定。有効期間内であれば、60分まで何度でも利用可能。ただし、1回の利用が30分を越える場合、15分ごとに3ドル追加)

1ヶ月単位のMonthly Membershipが15ドルであるのに比べると、Single Ride(3ドル)、Access Pass(9.95ドル)、3-Day Access Pass(19.95ドル)は割高に感じますが、観光客を含めた一時的な滞在者向けという位置付けなのかもしれません。

上で紹介したMUNIのメトロ・バスは、2.75ドル(Cilpper Card、MuniMobileのアプリケーションを使えば2.5ドル)で、2時間以内であれば何度でも乗降者可能になっています。これに比べても、Single Ride(3ドル)は割高に感じますが、Ford GoBikeは自分の思うところに自由に行くことができます。さらに、次に見るようにサンフランシスコでは自転車専用レーン(バイク・レーン)が整備されているため、目的地によってはMUNIメトロ・バスより、Ford GoBikeの方が早く到着するという利点もあります。この利便性が考慮された値段ではないかと思います。

自転車専用レーン(バイクレーン)

近年、日本でも自転車は車道を走ることが徹底されるようになってきましたが、アメリカでは自転車は乗物として車道を走る決まりになっています。自転車が走りやすくするためにもうけられているのが自転車専用レーンです。

サンフランシスコを斜めに走るメインの通りであるマーケット・ストリートにも自転車専用レーンがもうけられています。Google Mapsの「Biking」のレイヤーを表示すると、サンフランシスコには多くの自転車専用レーンがあることがわかります。

自転車専用レーンには、白線で両側がマークされただけのレーンから、路面が緑で塗装されたレーン、さらに、路面を緑で塗装した上で縁石によって車道から分離されたレーンまで、いくつかの種類があります。
ただし、右折する自動車、路肩に駐車する自動車など、自動車専用レーンと自動車の通り道がクロスする場合があるため、自転車専用レーンといえども、自動車に注意して走行しなければならないのは言うまでもありません。

サンフランシスコで、何ヶ所か写真のようなポールを見かけました。「CYCLISTS TODAY」と書かれた部分には、脇の専用レーンを通過する自転車の通過台数をカウントした結果が表示。隣を自転車が通過する度にカウントアップされるのを確認しました。下の「CYCLISTS THIS YEAR」についてはどう表示されるか確認できませんでしたが、「CYCLISTS TODAY」の年間の蓄積だと思われます。

The Wiggle

サンフランシスコのメインの通りである、マーケット・ストリートからパンハンドル(The Panhandle)を通り、ゴールデン・ゲート・パーク(Golden Gate Park)の太平洋岸まで至る自転車レーンのネットワークはThe Wiggleと呼ばれています。

特にマーケット・ストリートからパンハンドル(The Panhandle)までの区間は、ジグザグに自転車レーンがつながっています。The Wiggleの起点はマーケット・ストリートとDuboce Aveの交差点の西側。ここからDuboce Ave、Steiner St、Waller St、Pierce St、Haight St、Scott St、Fell Stと走り、パンハンドル(The Panhandle)の北東角へ。Fell Stの自転車専用レーンは西に向かう一方通行のため、帰りはパンハンドル(The Panhandle)の南東角からOak StをScott Stまで走るルート。
Wikipediaの「The Wiggle」のページによると、付近は丘の多いエリアですが、The Wiggleの平均の傾斜は3%、最大の傾斜でも6%を越えることなく、平坦な道をネットワークさせることが考慮されて、このようなジグザグのルートが選ばれたとのこと。

The Wiggleは自転車専用レーンになっている区間と、そうでない区間があります。自転車専用レーンがない区間では、自転車と自動車の共用レーンの標識(Shared lane marking/Sharrow)が路面に描かれており、The Wiggleのルートがわかりやすくなっています。Wikipediaの「The Wiggle」のページによると、The Wiggleに共用レーンの標識が描かれたのは2011年ということです。


The Wiggleの様子をご紹介します。

The Wiggleの起点。ここマーケット・ストリートとDuboce Aveの交差点の西側からThe Wiggle始まります。Duboce Aveは自転車専用レーンになっており、南側の壁にはThe Duboce Bikeway Muralというタイトルの大きなミューラル・アート(壁画)が描かれています。

自転車専用レーンを抜けると、MUNIメトロのDuboce Ave & Church Stの駅。Duboce Aveの中央にMUNIメトロの線路、その両脇に駅のプラットフォーム、さらに両外側に自転車専用レーン、歩道があります。
歩道には自由に動かせる椅子がいくつか置かれています。椅子に座っているのはメトロを待っている人だけではないようで、メトロが到着しても椅子に座ったままの人も見かけました。駅の周囲を歩くと椅子に座っている人、プラットフォームに立ってMUNIを待つ人が、レイヤーとなって目に入ってきます。

この先、Steiner St、Waller St、Pierce St, Haight Stは自動車との共用レーン。上で紹介した共用レーンの標識が路面に描かれています。

Scott Stからは路面が緑に塗られた自転車専用レーンに。自転車レーンは最初は車道の右側にありますが、Oak Stとの交差点を越えると自転車レーンが中央に。これは、Fell Stとの交差点で左折しすくすることが考えられてのことだと思います。
Scott StとOak Stの交差点では路面が緑に塗られているため、自動車より自転車の方が前に停車できるようになっていたことも興味深かったです。

Scott StとFell Stの交差点の南西角には、イヤホンで音楽を聴きながら自転車に乗る女性を描いたミューラル・アート(壁画)。この先のFell Stも自転車専用レーンになっており、パンハンドル(The Panhandle)の北東角に至ります。

The Wiggleを歩いている時、自転車で通り抜けていく人を何度も見かけましたが、中にはバイクシェアの自転車に乗った人も見かけました。


MUNIバスで自転車を運べるようにすること、バイクシェアのサービス、そして自転車専用レーンや共用レーンの標識。サンフランシスコでは、都市における自転車を魅力的にするための様々な仕組みを見ることができました。

なお、お住いの方から、サンフランシスコでは自動車の台数を減らす努力が行われていると伺いました。ここで紹介した仕組みは、いずれも自動車を減らすことにつながっていくのだと思います。


参考