『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

サンフランシスコ・ミッション地区のミューラル・アート(壁画)

サンフランシスコのミッション地区(Mission District)では、たくさんのミューラル・アート(Mural Art/壁画)を見ることができます。

ミッション地区は、サンフランシスコのダウンタウンの南西に位置しており、今、サンフランシスコで一番ホットな地区だと言われることもあります。元々はヒスパニックの人々が多く住んでおり、ミューラル・アートは1970年代のChicano Art Mural Movementとして描かれ始めたものだとされています*1)。近年ではジェントリフィケーションが進み、結果として様々なカフェやレストランなど、様々なお店が開かれており、今でも続々と新たなお店が開かれているとのこと。魅力的な公園として紹介したミッション・ドロレス・パークも、ミッション地区にあります。

ミッション地区の面積は3.84㎢で、写真のように通りが東西・南北に格子状に走っており、高低差はほぼありません。東西に走る大通りは数字の名前になっており、14th Street付近から26th Street付近までがミッション地区になります(数字が小さほど、北に位置する通り)。地区のほぼ中央を南北にBARTが*2)、西部をMUNIメトロJラインが走っています*3)。

ミューラル・アートはミッション地区に点在していますが、多くの観光客が訪れるなど有名な2本の路地、Balmy Alley、Clarion Alleyと、その周囲を中心にご紹介したいと思います。

Balmy Alley

ミッション地区の南部、BARTの「24th St Mission」駅から西に10分ほど歩いたところにある路地で、24th Streetと25th Streetの間の1ブロックを南北に走る路地。建物の壁や扉、ガレージの扉など通りの両側にミューラル・アートが描かれており、ミューラル・アートを撮影したり、前で記念撮影したりしている人がいました。路地では女性がミューラル・アートを描いている(描き直している)のを見かけました。ミューラル・アートを巡るツアーも行われており、10人ほどが説明を聞きながらミューラル・アートを見歩いていました。

Balmy Alleyの最古のミューラル・アートは、Maria Galivezと地域の保育所の子どもたちが1972年に描いたもの。1973年、Patricia RodriquezとGraciela Carilloの2人の女性アーティストがBalmy Alleyのアパートを借り、ミューラル・アートを描きました。2人の活動はすぐに広がり、Mujeres Muralistasとして知られるようになります。1984年、Ray Patlanによって、Balmy Alleyに第二の波がもたらされます。中米の先住民への祝福、米国による中米への介入に対する抗議をテーマとするミューラル・アートを路地に描くというプロジェクト。この時描かれたミューラル・アートは、ニカラグア革命、オスカル・ロメロ(エルサルバドルのカトリック司祭/サンサルバドル教区大司教)、グアテマラ内戦などをがテーマとされました。
Balmy Alleyではその後も継続的にミューラル・アートは続けられており、ジェントリフィケーションに反対するミューラル・アートが描かれたり、ミューラル・アートの修復が行われるなどが行われているということです*4)。

Clarion Alley

BARTの「16th St Mission」駅から南に数分歩いたところにあり、17th Streetの一本南側、Valencia SteetとMission Streetの間を東西に走る路地です。Balmy Alleyと同様、建物の壁や扉、ガレージの扉など通りの両側にミューラル・アートが描かれています。何度か通りかかりましたが、いつも観光客と思われる人がやって来て、ミューラル・アートを撮影したり、前で記念撮影したりしているのを見かけました。1度、女性がミューラル・アートを描き直している光景も見かけました。Clarion Alleyでも継続的にミューラル・アートの修復がされていることがわかります。

Clarion Alleyでミューラル・アートのプロジェクトを進めているのが、1992年10月、6人の住民がボランティアで設立した「Clarion Alley Mural Project」(CAMP)。このグループはBalmy Alleyを始めとするミッション地区のミューラル・アートにインスパイアされ、Clarion Alleyでのミューラル・アートのプロジェクトを進めていったということです。「Clarion Alley Mural Project」の目的は、草の根のコミュニティ・ベースの、アーティストが運営する組織として、社会的包摂性と美的多様性を持つパブリックアートの支援、制作をすること。Balmy Alleyのミューラル・アートが中米の闘争をテーマとしていたのに対して、Clarion Alleyは社会的包摂性と美的多様性をテーマにしているという違いがあるとされています*5)。

最も密度が高くミューラル・アートが描かれているのがBalmy Alley、Clarion Alleyの2つの路地ですが、ミューラル・アートは次のようにミッション地区の多くの場所に点在しています。

24th St Mission駅周辺

BARTの「24th St Mission」駅の広場、及び、その周辺に描かれているミューラル・アートです。「24th St Mission」駅の広場では、音楽の演奏が行われているのを何度か見かけました。音楽の演奏に合わせて、踊り出す人もいました。

「24th St Mission」駅の西にあるOsage Street(24th Streetと26th Streetの間を南北に走る)は人通りが少なくやや殺風景な感じがしますが、ミューラル・アートを見ることができます。

24th Street周辺

BARTの「24th St Mission」駅の上を東西に走る24th Street沿いには多くのミューラル・アートがあります。
24th Streetと26th Streetの間には、上で紹介したBalmy Alleyのような路地が何本か走っており、路地の両側にミューラル・アートが描かれているのを見ることができます。

24th Street沿いにある24th & York Mini Park内にもミューラル・アートがあります。

Mission Street周辺

Mission地区のほぼ中央を南北に走り、BARTの駅があるMission Streetにも多くのミューラル・アートがあります。Mission Streetでもミューラル・アートを描いている最中の人を見かけました。Mission Streetはヒスパニックの人々の暮らしが感じられる通りです。

Valencia Street周辺

Mission地区を南北に走る大通り。Mission Streetとは1ブロック離れているだけですが、Valencia Streetには「お洒落」と表現できるカフェ、レストラン、店舗が並んでおり、1ブロック違うだけで通りの雰囲気が全く異なります。

16th Street周辺

BARTの「16th St Mission」駅の上を東西に走る16th Streetで見られるミューラル・アートです。

その他の場所

上に書いた通り、ミューラル・アートはミッション地区に多数点在しているため、ここで紹介していないミューラル・アートも多数あります。

ミッション地区のミューラル・アートは、ヒスパニックの流れにあり、コミュニティのアイデンティを表現したり、歴史を伝えたりするものであると同時に、観光名所として多くの人々を惹きつけるものという側面もあります。

ミューラル・アート(Mural Art)は所有者の許可を得た上で描かれているもので、落書きやグラフィティ(Graffiti:所有者の許可を得ずに描かれる壁画)とは異なります。ミッション地区ではミューラル・アート(Mural Art)と落書き、グラフィティ(Graffiti)いずれも見られます。

なお、ミッション地区の多くのミューラル・アートは、Precita Eyes Muralists Associationというコミュニティ・ベースの非営利団体によって描かれたり、サポートされたりしているものです*6)。


  • *1)Wikipedia「Mission District, San Francisco」のページより。チカーノ(Chicano)とは「狭義にはメキシコ系アメリカ人の2世以降を指すとすることもあるが、1世も含めることが多い」(Wikipedaia「チカーノ」のページより)。
  • *2)BART:サンフランシスコを走る公共交通の1つで、「Bay Area Rapid Transit」の略。サンフランシスコ国際空港(SFO)へのアクセスにも利用できる。MUNIに乗車できるClipper Cardで乗車可能。ただし、MUNIと違って、BARTは乗車駅と降車駅によって運賃が決まるため、乗車時・降車時の2回、改札口でカードをタッチする必要がある。
  • *3)MUNI:サンフランシスコの公共交通の1つで、San Francisco Municipal Railwayの略。MUNIにはメトロ(地下鉄+路面電車:路線番号がJ・K・T・L・M・N・Sのローマ字で表記されている7路線)とバス(路線番号が数字で表記されている)の2種類がある。Clipper Card(日本のSUICAのようなカード)、あるいは、スマートフォンのMuniMobileのアプリケーションを用いたMUNIの乗り方はこちらを参照。
  • *4)Wikipedia「Balmy Alley」のページより。
  • *5)Wikipedia「Clarion Alley Mural Project」のページより。
  • *6)Wikipedia「Precita Eyes」のページより。

(更新:2019年4月24日)