『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

バルセロナのレセップス広場

アントニ・ガウディ(Antoni Gaudí i Cornet:1852~1926年)が開発に携わったバルセロナのグエル公園(Parc Güell)を訪れた時に、偶然、レセップス広場(Plaça de Lesseps)という魅力的な場所を通りかかりました。
地下鉄(Metro)3号線のレセップス(Lesseps)駅の上にある広場で、行政区ではグラシア地区(Gràcia)とサリアー=サン・ジャルバシ地区(Sarrià-Sant Gervasi)の境に位置しています。レセップスの名前は、スエズ運河を建設したフェルディナン・マリ・ヴィコント・ド・レセップス(Ferdinand Marie Vicomte de Lesseps:1805~1894年)にちなんで付けられたものです*1)。

レセップス広場はは、北側の図書館(Biblioteca Jaume Fuster)、カフェ(Caffé Milano Lesseps)、教会(Església dels Josepets)、道路を挟んだ南側の公園、1906年に建設された集合住宅(La Casa Ramos)で囲まれた細長い空間。道路沿いにはバス停があります。

大きな通りの上に覆い被さるように作られており、広場の東西端で通りが地下に潜るところには、三角形の傾斜のあるスペースがもうけられています。

フレーム状のアートが設置されており、東西端の三角形の傾斜のあるスペースと合わせて、広場全体が船のように見えます。

広場には座れる場所が多数あります。ベンチに座って休憩している人、カフェの屋外席で飲食している人、バスを待っている人、教会前の階段で座っている人、三角形の傾斜のあるスペースに座っている人。この付近は車の交通量が多いですが、人々が思い思いに過ごしている広場は、ゆったりとした時間が流れています。
ベンチが様々な方向を向いて配置されていたり、フレーム状のアートが緩衝材のようになっていたりするため、他者と直接向き合わずにも座ることができる。これらも、ゆったりとした雰囲気を作り出すうえで大きな役割を果たしているように感じました。


建築学者の鈴木毅は、日本のパブリックスペースのデザインコンセプトの問題を次のように指摘しています。

「『思い思い』という居方の例を挙げましたが、日本の場合、たとえばベンチの置き方などにしても、いろいろな人が居てもなぜか均質に見えてしまうような環境のデザインがなされているのです。
さらに根本的な問題として、従来のパブリックスペースの概念は、極めて限定されたデザインコンセプトで計画されてきたように思います。多くの広場は『にぎわい』や『祝祭』をキーワードにしたイベントにたよった場になってしまっています。最近増えてきたオープンカフェも、本来日常的な場であるはずなのに、極端に演劇的などきっとした場として輸入されてしまっているように思われます。」(鈴木毅, 2000)*2)

レセップス広場を訪れ、「にぎわい」や「祝祭」ではない広場の1つの例をみたように思いました。


■注

  • 1)Wikipedia「Plaça de Lesseps, Barcelona」のページより。
  • 2)鈴木毅は、このような問題意識から「体験される場所の豊かさ」を扱うための概念として「居方」を提唱している。「居方」については、こちらの記事も参照。

■参考文献

  • 鈴木毅(2000)「人の『居方』からの環境デザインの試み」・住環境研究所 JKKハウジング大学校編『JKKハウジング大学校講義録I』小学館スクウェア